10回目の福島映像祭 民放5番組含む力作で福島みつめる

編集広報部
10回目の福島映像祭 民放5番組含む力作で福島みつめる

東日本大震災後の福島や東京電力福島第一原発事故に関係する映像作品にフォーカスした「福島映像祭2022」が9月17―23日、東京のポレポレ東中野で開かれた。9作品の上映に加えてトークイベントも組まれ、民放からは5番組が上映された。主催は認定NPO法人OurPlanet-TV。2013年、震災や事故の風化が進む中で、多様な映像作品を通じて"福島の今"を映し出す狙いで始まった映像祭は今年で10回目。制作者や当事者を招いての対話を重視しており、民放番組のディレクターらも登壇した。

初日の17日は、2021年度のギャラクシー賞テレビ部門大賞を受賞した福島中央テレビ『1Fリアル あの日、原発の傍らにいた人たち』を上映。原発事故後、収束に向けて決死の作業にあたった人々の生々しくも貴重な証言を集めた同作をめぐり、岳野高弘ディレクターと松川修三報道局長が制作の背景を語った(=写真㊤)。聞き手はジャーナリストの下村健一氏。

長崎出身の岳野氏は「終戦と原発事故が重なって見える」として、「終戦報道ではたびたび"カレンダージャーナリズム"が指摘されるが、3.11でも行うべきだ」と主張。「事故から10年が経って取材をしても、この番組のように知られざる事実が見つかった。そこから得られた教訓を後世に伝えていきたい」と述べた。下村氏も「忘却が進む中で忘れないためには、"記念日報道"はあったほうがよい」と応答。松川氏は、「人手も資金も不十分だが、1年を通じて原発事故に関する企画はオンエアし続けている」と実情を語るとともに、本作について「事故直後の時点では、リアル過ぎて語ってもらえなかった証言を盛り込んだ。ローカル局だからこそできた番組だ」と振り返った。

21日の信越放送『まぼろしのひかり~原発と故郷の山~』『汐凪の花園~原発の町の片隅で~』の上映では、プロデューサー・ディレクターを務めた手塚孝典氏が舞台あいさつした。満蒙開拓の実態を20年にわたり追い続けている手塚氏。長野から福島に戦後入植し、原発事故に遭った住民などを取り上げた『まぼろしのひかり』について、「戦時中の国策の過ちが反省されず、社会がそのことに無自覚だった。それが原発事故の根源だと感じるようになった」と制作の原点を吐露。『汐凪の花園』は、東日本大震災で行方不明となった娘を探し続け、「復興は考えられない」という木村紀夫さんが主人公。2作を通じ、「大きな流れの中で沈黙せざるを得ない人たちの声を伝えていきたい」と狙いを語った。

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<手塚氏

23日には、9日に関西テレビ「ザ・ドキュメント」枠でオンエアされたばかりの『もやい 福島に吹く風』が上映され、宮田輝美ディレクターがトークイベントを行った。聞き手はOurPlanet-TVの白石草氏。福島に通い続ける和歌山出身の写真家・中筋純さんを軸に、中筋さん主催のアートイベント「もやい展」に集う人々の活動や福島への思いを綴った。

中筋さんのほかにも、宮田氏が18年に制作した『マリアとフクシマ』で取り上げたウクライナ人アーティストのマリコ・ゲルマンさんら魅力的な被写体が登場。宮田氏は「皆さんが常に光っていて、どうやって48分に収めればよいか悩んだ」と編集の苦労を明かした。マリコさんはチョルノービリ(チェルノブイリ)原発事故の影響で甲状腺障害を抱えている。「チェルノブイリと福島には通じるものがある。人はある日突然"当事者"になることがあるし、当事者ではないからこそ伝えられるものがあると、中筋さんに教えられた。だからこそ伝え続けることが大事だ」と番組づくりへの思いを語った。また、原発事故が福島で起きたのは"たまたま"であり、「関西でも他人事ではないということを、機会を見つけて報じていきたい」と結んだ。

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<左から白石氏、宮田氏

このほか、20日には北海道放送『ネアンデルタール人は核の夢を見るか~"核のごみ"と科学と民主主義~』も上映された。

OurPlanet-TVで福島映像祭の運営を担当する高木祥衣氏は、今年の映像祭を「原点に戻り、例年以上に力を入れてテレビ番組をプログラムした。原発事故から10年で制作された番組も多く、力作が揃った」と振り返る。切り口や見せ方のアップデートが映像祭の課題だとしつつ、「登壇者からは、観客と直接やりとりできることが『励みになる』『刺激を受けた』との声も寄せられた。福島の今を映し出す場として、これからも人々に問いかける存在であり続けたい」と展望を語った。

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