多くの動画配信サービスが料金を値上げする中で、ネットフリックスは2月、100以上の国・地域で、ベーシックプランについて20―60%の値下げを実施した。値下げ率は国・地域によって異なる。ネットフリックスの世界での契約者総数は2億3,000万人超(2022年末現在)。この約4%に当たる1,000万人超が今回の値下げ対象に該当すると、調査会社のアンペア・アナリシスが見積もっている。
ただし、アメリカやカナダ、西ヨーロッパ諸国、日本といった所得水準が高い市場は対象外だ。値下げの対象となるのは▷中東のヨルダン、リビア、そしてイラン▷ケニアほかサハラ以南のアフリカ市場▷ヨーロッパではクロアチア、スロベニア、ブルガリアなど▷中南米ではニカラグア、エクアドル、ベネズエラほか▷アジアではマレーシア、インドネシア、タイ、フィリピンなど。いずれも、既存・新規両方のユーザーに対して適用される。
ネットフリックスは一連の値下げについて、メディア向けの公式発表ではなく、それぞれの市場でのツイッター公式アカウントなどを介して、即時実施という形でユーザーに伝えられた。例えばマレーシアでは2月20日(現地時間)、「本日からベーシックプランの月額をこれまでの35マレーシアリンギット(約1,060円)から28マレーシアリンギット(約850円)に値下げする」とのツイートが発せられている。
業界のトレンドに反して、なぜあえて値下げを行うのか、米メディアはいくつかの理由を挙げている。
■パスワード・シェアリング課金への苦情対策
競合ひしめく動画配信業界で、昨年以来ネットフリックスはコスト減と収益増のため、広告入り廉価プランの導入と、「パスワード・シェアリング」(1つのアカウントを複数人で共有すること)への課金という2大対策を実行した。今回の値下げには、後者が影響しているとの見方がある。同社は2月初旬(現地時間)、カナダ、ニュージーランド、ポルトガル、スペインで「パスワード・シェアリング」への課金制度を導入したが、ユーザーからの苦情がSNS上に並んだ。今後、課金制度が途上国を含む他国に拡大される予定で、今回の値下げによって解約防止を図ったのではないかと報じられている。
■新規ユーザーの獲得
もう一つは、Disney+、Hulu、Paramount+、Apple TV+、HBO Maxなど強力な競合サービスが揃って値上げする中で、ネットフリックスは値下げにより市場競争力の維持・強化を図ったという見方だ。値下げをすれば、現在ユーザーが少ない地域での新規ユーザー獲得を促すことができる。ネットフリックスが値下げをしたのは今回が初めてではなく、2021年にインドで、新規契約者数を大きく増加させるために値下げを行ったことがある。