全米放送事業者連盟(NAB)が主催する「2024NABショー・ニューヨーク」が10月9、10の両日、マンハッタンのジェイコブ・K・ジャヴィッツ・コンベンションセンターで開かれた。ABC、CBS、NBC、FOXの4大ネットワークをはじめ、HBO、ラジオ局所有会社大手のAudacy、メディア複合企業のUrban One、スペイン語テレビネットワークUnivisionといった主要メディアを含む250を超える企業と団体がブースを設け、2日間で延べ1万2,000人が来場した(冒頭画像はNABショーの公式サイトから)。
初日はNABショーで初めての「ラジオ+ポッドキャスト・インタラクティブ・フォーラム」が開かれた。折しも米国はハリケーンの接近中。NABのカーティス・ルジェット会長は「ハリケーン・ヘリーンが南部の州を襲ったのに続き、いまハリケーン・ミルトンがフロリダ州に接近している。この季節になるとライフラインとしてのラジオの重要性をいやが上にも思い起こさせてくれる」「他の通信インフラがダウンしても、コミュニティを助け、その後の復興に役立つのがラジオだ」と災害時の情報源として唯一無二の存在であるラジオの重要性を語った。一方、ポッドキャストを含むオーディオ業界は多くのプラットフォームがコンテンツを制作する「熾烈な競争」にさらされており、「リスナーとのエンゲージメントが難しくなっている」とも指摘。それだけに、「どのような方法でリスナーにリーチするにしても、われわれの優位性はローカリズムにある。コミュニティとのつながりを誰よりも大切にしてほしい」と望んだ。
NABショーは毎年4月にラスベガス、10月にニューヨーク(NY)で開かれる。今回のNYショーでブースを出展した企業の4分の3は4月には参加しておらず、フレッシュな顔ぶれだった。NYは土地柄、各種メディア企業や大手金融機関から製薬会社、IT企業、プロスポーツ業界、行政と来場者の幅が広く、そのほとんどが経営幹部ともいわれる。それだけに、この時期はメディア業界団体の動きや発表も多い。年末も控えた第4四半期ということで新年の事業戦略のための情報収集の場としても重要視されている。
このため今年もショーと前後してさまざまな関連発表や業界の動きがあった。10月3日にはNABのルジェット会長とリック・カプラン副会長が米連邦通信委員会(FCC)のアナ・ゴメス委員と会合を持ち、YouTube TV、Fubo、HuluなどvMVPD(配信経由でリニアのテレビチャンネルを提供するバンドルサービス)への新たな規制の必要性を訴えた。NABが求めるのはvMPDにMVPD(リニアケーブル/衛星テレビ)と同様の再送信同意料を課すべきというもの。放送局側にとって新たな収入源となるため、ここ数年来、重要懸案事項となっている。現行のFCCルールの下では再送信同意料の交渉はチャーター・コミュニケーションズやコムキャスト、DirecTVといったMVPDとの間でのみ行われている。
この訴えにFCCのジェシカ・ローゼンウォーセル委員長は「連邦議会が動かない限り、FCCにルールを変更する権限はない」との姿勢を貫いている。NABはFCCに対し「vMVPDはルールに縛られることなく事業展開できる。今のままではローカル局がそれに対抗していくのは不可能だ」と引き続き政府に対して働きかけていくとの姿勢を強調した。
次世代テレビ規格「ATSC 3.0」を推進する企業の連合体「パールTV」もNABショーにブースを出展したが、開催直前を狙ってATSC 3.0の普及進捗状況と、新しい受信機の市場参入を発表した。これによると10月現在、エリアとしての普及率は全米全世帯の76%に達したという。配信サービスへの対抗措置としてローカル放送局が積極的にATSC 3.0を導入していることも背景にあるようだ。加えて、パナソニックから新しいATSC 3.0受信機が近く全米で発売されるほか、通信機器大手のアトランタDTHからも小型のUSBプラグイン受信機が投入されるとの発表もあった。これらを使えば、消費者はATSC 3.0に対応した新型テレビを購入することなくアンテナさえあれば次世代放送を楽しめるそうだ。しかし、普及率以上に問題なのが利用率。このためパールTVは11月の大統領選挙終了後に、全米各地の放送局が次世代テレビの利点を解説する広告キャンペーンを始めることを発表した。