東日本大震災発生から12年が経った。住宅や交通インフラの復興や、避難指示の解除が進んでいる。一方で課題はまだ多く、東京電力福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出や、廃炉問題が解決しない中での原発再稼働の動きなどが見られ、賛否が分かれている。民放onlineは今年も岩手・宮城・福島の民放各局に、3月11日を中心とした震災関連の特番や取り組みに関するアンケートを実施した。その結果を地区ごとに紹介。今回は岩手の事例をまとめた。
岩手めんこいテレビは11日、『明日への羅針盤~13年目の約束~』を仙台放送・福島テレビと共同制作した。岩手ローカルと3県共通パートで構成し、ローカル部分は、震災12年を迎えた被災地の様子のほか、三陸鉄道の震災学習列車、防災士の資格を取った久慈市の高校生などを紹介。共通パートでは、25歳のワカメ養殖漁師の田川尚樹さんを取り上げた(=冒頭写真)。2009年、宮古支局の井上智晶記者が大人に交じってアワビを取っていた小学6年生(当時)の田川さんを取材したことがきっかけ。その頃から"漁師になる"という夢を持っており、震災後の中学生のときに書いた作文では「この海に勝たなければならない」とその思いは揺るがなかった。継続して取材してきた井上記者は「田川さんを通じて、夢に向かって努力する姿、好きなことを叶える素晴らしさとともに、それが周りの人々に希望をもたらしていることが伝われば」と語った。
IBC岩手放送は、10日に特別番組『忘れない3.11 防災文化を未来へ 僧侶たちの12年』(=写真㊦)を放送した。今年は仏教の13回忌にあたることから、自身も被災者であり、地域の見守り役や葬儀を通じて命を間近で見つめてきた3人の僧侶にフォーカス。それぞれの12年を振り返るとともに、災害から命を守るためにできることを考えた。ラジオでは11日に特別番組『東日本大震災から12年 ~語り継ぐ3.11~』を編成。岩手県が昨年公表した「最大クラスの津波想定区域」についての解説や地元の高校生による震災の伝承活動、災害公営住宅で暮らす被災した人々の声を伝えたほか、釜石市で行われた「東日本大震災津波 岩手県・釜石市合同追悼式」の模様を生中継した。
エフエム岩手は、特別番組『未来へつなげるRADIO』を11日に放送。復興のシンボルである三陸鉄道の"未来"とも呼べる20代前半の新人運転士2人にインタビューし、運転士を目指したきっかけ、震災発生当時に三陸鉄道をどう捉えていたのか、今後の展望などを聞いた(=写真㊦)。三陸鉄道の「恋し浜駅」の待合室にあるさまざまな願いが書かれたホタテの貝殻も取り上げ、願いの内容が、震災当時の「復興、復旧」から現在は周りの人の「幸せ、笑顔」へと変化していることを紹介した。中継では釜石市の鵜住居(うのすまい)駅前地区公共施設「うのすまい・トモス」を訪れた人々の声をリポート。リスナーからは「パーソナリティの語り口や全体的な雰囲気が、12年を経た現在に聴くのにちょうど良かった」などの声が寄せられたという。また、3月6―10日にかけて放送した『未来へつなげるWEEK』では、沿岸地域の現在の防災や地震に関する知識を盛岡地方気象台や小学校教員などに取材した。
岩手朝日テレビは、11日に『あすへの一歩~被災地が変える未来~』を東日本放送・福島放送と共同制作し、防災・復興・伝承の新たな動きを伝えた。岩手朝日テレビは、県内で最も被害が大きかった陸前高田市を訪れる観光客の数が震災前を上回っていることに着目。復興ツーリズムの可能性に焦点を当て、高田松原津波復興祈念公園内にある震災遺構を巡回する「自動運転バス実証実験」の取り組みを紹介した(=写真㊦)。また、3月2―15日にかけて『スーパーJチャンネルいわて』内でシリーズ企画「3.11から拓く未来」を計7回展開し、宮古市田老地区での車避難の検証や同市で建設が進む巨大水門の今などを伝えた。
テレビ岩手は、11日に放送した特別番組『震災12年 いま伝えたい』で「東日本大震災の記憶と教訓の伝承」と「次の災害への備え」を柱に被災地の現状や課題を伝えた。「伝承」では、5歳の時に震災を経験した陸前高田市の女子高校生を取材(=写真㊦)。子どもたちが災害に備えるきっかけにしようと、行政や企業の協力を得て製作した「防災リュック」を児童に配り、防災の授業を行う姿を通じて、震災を知らない世代が増える現状と伝承を模索する様子を紹介した。「備え」については、震災後に久慈市で整備された高さ9メートルの津波避難タワーを取り上げた。21年に国が公表した日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定では、同市に最大16メートルの津波が押し寄せるとされ、避難場所として使用できなくなった。新たなタワーの建設には多額の費用がかかることから、町内会に「自主防災組織」の結成を促すなど対応に追われる現状を生中継を交えて伝えた。