【閲覧コーナー】ラジオ200番組超 テレビ作家が語る『ラジオの残響 ヘビーリスナー聴く語り記』/災害放送の役割を考察『災禍をめぐる「記憶」と「語り」』

編集部
【閲覧コーナー】ラジオ200番組超 テレビ作家が語る『ラジオの残響 ヘビーリスナー聴く語り記』/災害放送の役割を考察『災禍をめぐる「記憶」と「語り」』

ジェンダー平等、ラジオ局の閉局、報道の責任......。メディアのあり方が厳しく問われる今、それらを切実に訴える本が目に留まる。今回は、この半年余りに出版された中から、指標となる本を編集部で選び、紹介する。

ジェンダー視点の番組論

『「テレビは見ない」というけれど エンタメコンテンツをフェミニズム・ジェンダーから読む』(青弓社)は、8人の有識者がバラエティ番組とドラマをフェミニズムやジェンダーの視点から読み解く。著者の一人、松岡宗嗣が「性の多様性に関する認識の欠如によるハラスメントなどは『知らなかった』ではすまされないフェーズにきている」と指摘するように、昨今の重要課題としてSDGsの一つにもなっているジェンダー平等。コンテンツ制作に携わる人にとって、さまざまな感覚や意見を受け取り知見を広める一端となるはずだ。

ドラマとジェンダーについてまとめた本がもう一冊。ジェンダー論に見識の深いジャーナリスト・治部れんげの著書『ジェンダーで見るヒットドラマ 韓国、アメリカ、欧州、日本』(光文社)だ。20年来の海外ドラマファンを公言する同氏が国内外22本のドラマを取り上げ、ジェンダー視点で国別の女性像の描かれ方について時に舌鋒鋭く論じている。中でも日本のドラマは「私自身の価値観とは相容れないことが多い」とはっきり著すように、ステレオタイプな男女像が現代に求められる感覚とずれていると指摘。多くの日本ドラマで描かれる古いジェンダー観を懐疑的に捉えている。しかし、本書の目的はドラマのジェンダー描写を批判することではない。文化を超えて共通する課題や新たな視点に気付かせ、ドラマの面白さを倍増させるに違いない。

ラジオへの熱い思い

テレビの放送作家でラジオのヘビーリスナー・川野将一『ラジオの残響 ヘビーリスナー聴く語り記』(双葉社)は古今東西のラジオ番組を1章1番組ずつ取り上げたエッセーだ。メルマガでの連載を加筆修正したもの。756ページにおよぶ本書の本文中には約200番組、300人が登場する。番組に関することだけでなく、付随する情報が豊富で読み応えがある。番組を聴くように促す言葉は一切ないが、読み終わるとラジオの面白さが伝わってくる。著者のラジオ番組とパーソナリティへの情熱に読者は心動かされるだろう。

『ラジオを止めるな!』(新潟日報事業社)は2020年6月30日に閉局したFM PORTを軸にしたCD付きのムック本だ。著者の遠藤麻理は、閉局まで新潟の朝の顔として「モーニングゲート」を担当。CDには同番組の特別編が収録され、本書でも特集が組まれている。遠藤は本書で県内の個性派揃いのラジオパーソナリティらと対談し、その本音を引き出した。さらにFM PORT時代の出演者やスタッフの思いなども収める。各々の熱い思いは、これからもラジオの歩みは止まらないと感じさせてくれる。

「災禍」「戦争」報道を考える

「死者○人」といった数字や記録が見過ごしてしまう、災禍をめぐる経験などのリアリティをどう記録し社会に留めるか――それを検討したのが標葉隆馬編『災禍をめぐる「記憶」と「語り」』(ナカニシヤ出版)だ。研究者を中心とする執筆陣のうち、元TBSテレビの桶田敦(大妻女子大)は、近年の台風や東日本大震災を題材に災害放送の枠組みを考察。毎日放送の大牟田智佐子は、阪神・淡路大震災でラジオが果たした役割をコラムにまとめた。ためらいながらも記述すること、その真摯さと希望が全編に通底している。

NHKは今年8月6日、平和記念式典中継以外に原爆・戦争関連番組を放送しなかったという。米倉律『「八月ジャーナリズム」と戦後日本 戦争の記憶はどう作られてきたのか』(花伝社)は、テレビが例年夏に戦争をどう伝えてきたか、2010年代までのNHKと在京民放キー局の番組を分析した。BPO放送倫理検証委員も務める著者は、戦争を「受難」「災禍」として語る番組が中心で、日本のアジア諸国に対する加害のテーマは少ないと指摘。それでも、「八月ジャーナリズム」が積み上げてきたものは戦後日本の貴重な社会的資産だと説く。1ページも飛ばさず読んでもらいたい一冊だ。

メディアの存在意義とは

近年活発化している民放ドキュメンタリー番組の劇場公開。その先鞭をつけた東海テレビ・阿武野勝彦による月刊『GALAC』誌上の連載をまとめたのが『さよならテレビ ドキュメンタリーを撮るということ』(平凡社新書)だ。これまで制作した数々の作品を主軸に、テレビとジャーナリズムについての思索をつづった。独特な空気感を持つ樹木希林さんとのエピソードも読ませるが、取材先との軋轢や、番組をめぐる社内のせめぎ合いなど、制作の裏側が熱を帯びる。テレビへの愛情と、それを蔑ろにする"数字の論理"への怒りに溢れた一冊。

その阿武野も登場する500ページ超の大著が、小黒純・西村秀樹・辻一郎編著の『テレビ・ドキュメンタリーの真髄 制作者16人の証言』(藤原書店)。"芳醇な知的営み"である社会派ドキュメンタリーに着目し、「テーマをどのように見いだしたか」「取材上最も難しかったこと」などを制作者に長時間インタビュー。民放からは阿武野のほか、RSK山陽放送・原憲一、南海放送・伊東英朗らローカル局の14人が応じた。辻が巻末で触れた、番組コンクールの意義と審査する責任の重さにはうなずく向きも多いのでは。

山田健太『法とジャーナリズム〈第4版〉』(勁草書房)は、表現の自由に関わる言論法を、ジャーナリズムと法の双方の観点から考察した体系的な概説書だ。総論で「取材・報道の自由と報道定義」「放送の自由と放送政策」などを取り上げ、各論では「国家安全保障と知る権利」「子供をめぐる表現規制」などを解説。04年に初版が刊行された同書を5年ぶりに全面改訂したもので、21年のデジタル化法や、プロバイダ責任法・少年法の改正などの最新情報を盛り込んで充実させた。近年、こうした報道・表現の自由の根幹にかかわる立法などの動きが相次ぐ中、個別の問題の概要だけでなく、問題解決に向けた考え方にも紙幅を割いている。研究者や学生を念頭に置いた本だが、「記者や制作者に役立つ実務的なハンドブック」を標榜するにふさわしい内容になっている。

昨年11月に死去した松田浩の遺著『メディア支配 その歴史と構造』(新日本出版社)が刊行された。新聞とテレビの系列一本化の完成で、マスメディアが権力の操作のメカニズムに組み込まれていく経緯を中心にまとめている。ほかに、著者自身が参加した公共的なテレビ番組ライブラリーの設立運動が、当初の理念から形を変えて実現した顛末を語った証言なども収める。

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