【2021年民放連賞審査講評(番組部門:テレビ報道番組)】多様化する社会問題の現実を詳らかに

森 まどか
【2021年民放連賞審査講評(番組部門:テレビ報道番組)】多様化する社会問題の現実を詳らかに

8月18日中央審査【参加/94社=94本】
審査委員長=森まどか(医療ジャーナリスト)
審査員=城戸久枝(ノンフィクションライター)、竹内 薫(サイエンス作家)、吉岡 忍(作家)

※下線はグランプリ候補番組


コロナ禍で人と人とのつながりが分断される中ではあるが、人を取材対象に日常を追うことで多様化する社会問題の現実を詳らかに見せる作品が目立った。東日本大震災の復興に目を向けた2作品も共に被災者の目線で節目の10年を描いている。一方、少数であったが制作者の問題意識を原点に調査を重ね真相に迫る作品もあった。

最優秀=テレビ西日本/すくえた命~太宰府主婦暴行死事件~(=写真) "普通の主婦"が正常な判断力を失うまで心身を支配され、監禁、暴行の末に殺される凄惨な事件。警察の対応によって主婦の死は防げたのではないかという怒りと問題意識を、粘り強い取材で描いた。ドキュメンタリーではあまり使われない再現映像を多用しているが、綿密な周辺取材で得た情報を忠実に再現することで信用性を高めている。一市民の命を軽んじるかのような対応の不誠実さと責任を逃れようとする警察組織の体質を追及していく姿勢は、「調査報道のあるべき姿」と高く評価された。

優秀=テレビ岩手/たゆたえども沈まず 東日本大震災からの10年を、故郷に残る被災者の視点で追う特集番組。審査では「映画を見たようだ」という声も上がった。地元局が撮り続けた記録からは、震災を"次の10年"に引き継いでいく強い意志が感じられる。故郷に残った人たちの語りからは、いのちある限り生きることへの覚悟と、どう生きるかを自分に問う姿が見えた。津波被害だけでなく、県域を越えて原発被害にも触れ、『3.11』の全体を描いてほしかったという声もあり、踏み出す取材姿勢に今後期待したい。

優秀=ワールド・ハイビジョン・チャンネル/BS12スペシャル「村本大輔はなぜテレビから消えたのか?」 「お笑い」に落とし込むことで政治の質的変化を求めていく村本大輔氏の活動を追い、日本のテレビメディアのあり方とそれをジャッジする社会に一石を投じる意欲作。自らがテレビメディアに身を置く制作者の覚悟を感じたものの、テレビ業界の構造的問題や"忖度"に真正面から触れるまでに至らなかった点が少々残念。とはいえ、地上波テレビのタブーに切り込んだテーマには関心が集まった。

優秀=信越放送/SBCスペシャル まぼろしのひかり~原発と故郷の山~ 福島第一原発の事故から10年、終戦から76年、国策に翻弄され故郷を奪われ、それでも故郷に生きようとする人々を描いた秀作。長野から満蒙開拓移民で海を渡り、さらに福島へ。原発と「共存共栄」してきた歴史的背景と、原発を巡るそれぞれの立場の声を、縦に横にうまく織り交ぜ、復興から置き去りにされている福島の現実を立体的に見せた。一方、政策の限界を含むエネルギー問題の全体像を感じさせる視点があってもよかったという声もあり、"マクロの視点"の必要性が議論された。

優秀=中京テレビ放送/おいてけぼり【9060家族】 子の引きこもりによって社会から孤立した家族を長期に取材することで、いわゆる「8050問題」とその高齢化を浮き彫りにした作品。深く考えさせられる。目の前の現実を見せるだけでなく、当事者家族の問題の背景、例えば、戦後の核家族化、かつての働き方による父親不在、発達期の精神医学的問題の放置など、取材を通して制作者は何がこの問題に影響していると考えるのかに踏み込む一面があれば、番組の厚みが増したのではないかという指摘があった。

優秀=毎日放送/映像'21 ほっとけへん にしなり☆こども食堂の日々 「ほっとけへん」という思いから始まった子ども食堂が、生活に困窮する親と子を救い、さらに人とのつながり、社会とのつながりを再び持てるよう支援していく日々を追った作品。支援者である女性が葛藤する姿に、簡単には解決できない貧困問題の複雑さが伝わってきた。制作者はこの現実を社会のシステムとしてどう変えたいのかが見えると、より強いメッセージを持つ構成になったのではないか。

優秀=瀬戸内海放送/報・道・力「検証 ゲーム条例」 ゲーム条例制定過程への疑念を発端に、情報公開請求による調査や丁寧な取材を重ね、条例の問題点を追究していく。県議会に真正面から挑む制作者の姿には、地元局記者の役割と責任を強く感じた。一方、条例の背景にあるゲーム依存症(ゲーム障害)の問題や、条例による行動制限が憲法違反にあたるか否かといった問題については、説得力が不足していた感がある。地方議会の劣化を浮かび上がらせるだけにとどまらず、条例の本質に迫る継続的な取材に今後期待したい。


各部門の審査結果およびグランプリ候補番組はこちらから。

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