2023年民放連賞審査講評(ラジオ生ワイド番組) あらためて考えさせられた「生ワイド」の意義

青木 江梨花
2023年民放連賞審査講評(ラジオ生ワイド番組) あらためて考えさせられた「生ワイド」の意義

8月18日中央審査【参加/47社=47本】
審査委員長=青木江梨花(脚本家、日本脚本家連盟理事)
審査員=亀渕昭信(通信文化協会理事)、西村達郎(演出家、作詞家)、やすみりえ(川柳作家)

※下線はグランプリ候補番組


今年の入選番組はすべてAM局制作、深夜番組がひとつもなかったのが特徴的でした。いずれも甲乙つけがたく最初は意見が割れましたが、話し合っていく中で最終的に論点となったのは、「生ワイドとは何か?」ということ。「生ワイド番組」という種目をわざわざ設けているからには、やはり生でなければできない内容が聞きたい。生である必然性が欲しい。しかしそれは同時に、ある程度の完成度を手放すことにもなります。多少のライブ感を犠牲にしても番組としての完成度を取るのか、はたまた生であることのおもしろさや魅力を取るのか。非常に難しいこの問題に審査員一同、最後まで頭を悩まされました。

最優秀=北陸放送 /おいね☆どいね Holiday Special~境界線を考える~(=写真)
「境界線」という切り口で「県境」「性」「方言」「成年」を特集。硬軟織り交ぜた4つの異なるジャンルの選択が絶妙で、それぞれの内容も興味深く、知的好奇心をたっぷり満たしてくれると非常に高い評価を集めました。ローカル性が強く感じられたのも好印象。番組の内容に沿った選曲も秀逸でした。「生ではなく収録でもよかったのでは」「編集すればもっといい番組になったのでは」という意見もありましたが、そういった意見が出るのも、この番組の内容のおもしろさと構成の完成度ゆえ。全員納得の最優秀選出となりました。

優秀=青森放送/らじ丸にっち! ~つどって歩いて黒石編~
地元・青森を耕すべく、ラジオとインスタグラムが力を合わせたハイブリッド企画。ラジオ世代とSNS世代を同時に集めて交流を目論むも、なかなか人が集まらない......というこのハラハラドキドキ感が生番組ならではでした。世代間ギャップを楽しみつつ、青森の風情もしっかりと感じられるお散歩番組。企画のおもしろさ、成田リポーターの情景描写と人物描写の妙が光りました。

優秀=TBSラジオ/ジェーン・スー 生活は踊る
「スーパー総選挙」というタイトルだけで審査員全員が興味津々。コロナ禍を経て、われわれの生活の中でスーパーマーケットの存在感が増したこともあり、企画の引きとしては今回一番強かったです。ランキングはするけれどそれ以上に大切なのは愛を語ること、というスタンスも共感を呼びました。後半はランキング中心となりやや平板な印象との声もありましたが、それすら忘れさせてくれるほど、ジェーン・スーさんとパートナーの蓮見孝之さんのコンビネーションが抜群でした。

優秀=信越放送/Mixxxxx+(ミックスプラス)ヤングケアラーを考えよう・繋がろう
地味だけれども内容の深さとしっかりとした構成が際立った番組でした。当事者の生の声、ヤングケアラーだったお笑い芸人のにしおかすみこさんの体験を元にしたラジオドラマ、ヤングケアラー協会の方の話など、盛りだくさんの内容。しかしこの番組は「生ワイド」ではなく「教養」の部門で評価を受けるべきでは、というのが審査員の一致した見解でした。

優秀=朝日放送ラジオ/ウラのウラまで浦川です
冒頭から浦川泰幸アナウンサーの淀みないトークに引き込まれ、その豊富な知識量と熱量に圧倒されます。この日の放送は、番組がずっと追いかけてきた「大崎事件」の再審請求決定日。再審請求は認められるのか......生番組だからこその緊迫感が漂います。結果は棄却でしたが、請求が認められていればこれ以上ないタイムリーな番組になったはず。ある意味、生番組の醍醐味を一番感じさせてくれた番組でした。

優秀=中国放送/平成ラヂオバラエティごぜん様さま 5000回記念 超感謝祭
生番組ならではのハプニングの数々、ハプニングすら番組の要素の一つとして楽しんでしまう姿勢、そしてご長寿番組だからこそのスタッフのチームワークの良さが各所に感じられる点にも評価が集まりました。ただ「超感謝祭」とうたいつつ、これといって特別な企画はない。ひたすらにめでたく、ひたすらに楽しいというだけでよいのだろうか、というのが最後まで議論となったポイントです。結果は――それでいいんじゃないか。生でなければ出せない空気感。それこそが「生ワイド」の魅力なのだと、この番組を通して審査員一同、再確認した次第です。

優秀=RKB毎日放送/仲谷一志・下田文代のよなおし堂
仲谷さんが北九州・旦過市場の火災現場に駆け付け、リポートするという特別番組。消火活動の様子など、もう少し知りたかった部分はありつつも、現場の緊迫感や混乱、「小倉昭和館」館主をはじめとする市場関係者の無念や落胆が色濃く伝わってくる、臨場感溢れる内容でした。地元高校が甲子園で勝利、という火災とは対照的なニュースの伝え方、織り込み方が実に秀逸で、仲谷さんと下田アナウンサーコンビの腕に唸らされました。


・各部門の審査結果はこちらから。

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