【2021年民放連賞審査講評(番組部門:テレビエンターテインメント番組)】多様性と素晴らしさを実感

鏡 明
【2021年民放連賞審査講評(番組部門:テレビエンターテインメント番組)】多様性と素晴らしさを実感

8月20日中央審査【参加/99社=99本】
審査委員長=鏡 明(評論家、元電通顧問、ドリルエグゼクティヴ・アドバイザー)
審査員=上田紀行(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院長・教授)、たかのてるこ
(旅人、エッセイスト)、長尾玲子(日本文藝家協会著作権管理部部長)

※下線はグランプリ候補番組


2021年のテレビエンターテインメント番組の審査は、新型コロナの影響によりリモートを併用して行われた。リモートによる審査は議論が深まりにくい傾向があるが、今回の審査は、十分に論議が成されたように思う。審査員の皆さんが日常の仕事や授業などでリモートに慣れていたということがあったのかもしれない。

新型コロナウイルスの感染拡大がテレビエンターテインメントの応募作品にどのような影響をもたらしたのか、気になるところであった。今回の最終審査に残った作品は当然コロナ下で制作されているわけだが、それを強く意識したものから、ほとんど感じさせないものまでさまざまな対応を示していた。どちらが正しいかということではなく、そうした対応が存在していたことが、このカテゴリーの多様性と素晴らしさを感じさせてくれた。

最優秀=山口放送/俺たち ウォーターボーイズ!!(=写真) 町おこしのために有志で結成された男子シンクロチームを5年にわたって取材した作品。まったくの素人であった彼らが、町以外からも観客を集め、拍手喝采させるまでに成長していく。この作品の素晴らしさは、リーダーの鬱状態による離脱、そしてコロナ禍による公演の中止といった影の部分を見事に捉えているところにある。これは5年という長い時間を共にしたことの成果だ。撮る側と撮られる側の信頼関係を実感させられた。ローカル局でしかできない素晴らしい仕事だ。また、人を楽しませるというエンターテインメントのあるべき姿を見せてくれた。

優秀=札幌テレビ放送/いまエールを送ろう どさんこドキュメント「夜明け」を紡ぐ 新型コロナの影響で活動の機会を奪われた高校吹奏楽部の3年生たちが、YouTubeで自分たちの演奏を拡散させるという試みが新鮮だった。顧問の先生と部員たちの交流もよく描かれていたし、まとまりも良かった。ただ、重要な役割を果たす「夜明け」がどのような曲なのか、若干説明不足であったことが惜しまれる。

優秀=WOWOW/劇場の灯を消すな!Bunkamuraシアターコクーン編 松尾スズキプレゼンツ アクリル演劇祭 コロナ禍で危機に瀕している演劇界を救うために、テレビと劇場が力を合わせるというコンセプトが素晴らしい。演者をアクリルボックスに入れてしまうというアイデアにも驚かされた。さらに、その状況でアクションまで見せてくれたのには感動した。ただ、あまりにも長い。テレビ的に割り切ることも必要だったのではないか。コロナに立ち向かうという姿勢、クオリティの高さには素晴らしいものがあっただけに、残念だった。

優秀=信越放送/SBCスペシャル とうちゃんは茅葺師 茅葺師という仕事がどのようなものなのかを追うことで、知的な刺激を与えてくれた。それだけでも十分に価値がある。ただ茅葺師を目指す若い女性が、志半ばで舞台から去っていってしまう場面があまりにも唐突で、それが最後まで疑問として残ってしまった。

優秀=福井放送/FBCスペシャル2021 #田舎は好きですか ファインダー越しの僕のふるさと カメラで切り取ることによって、日常的な風景や当たり前に見えていたものが思いもよらぬ輝きを見せてくれる。そのことに気付いた若者が、自分の故郷の素晴らしさをSNSで公開していく。静止画、ネットといったテレビとは異なる素材を取り込む制作者の意欲が素晴らしかった。後半で田舎の素晴らしさというテーマが薄れてしまったのが惜しい。

優秀=毎日放送/田村淳のコンテンツHOLIC2021 他局やネットといったライバルのコンテンツを、面白いものであればどんどん紹介するというおきて破りを目指した番組。この企画意図とそれを実現した突破力が素晴らしい。後半の田村淳のテレビ論には説得力があった。ただ、シリーズの一回だけでそのすごさを感じるのは難しかった。

優秀=テレビ西日本/第∞世代~ここまでどうですか?~ 若手芸人コンビの鉄道旅。サイコロではなく、おみくじで進行を決めるというアイデアが面白い。凶を引けば後退するというせっかくの面白い設定があったのに、それが生かされなかったのが惜しい。若手コンビのVTRを先輩芸人が判定することによって、無名の芸人たちの知名度を上げるという狙いはわかるが、臨場感に欠ける部分があり、盛り上がりが乏しかった。

コロナ禍への対応という意味では、試行錯誤の段階だろう。それでも全体のクオリティは高かった。ウィズコロナの時代に入り、どのような作品が生まれるか、どのようなエンターテインメントが可能か。制作者の皆さんの健闘を祈りたい。


各部門の審査結果およびグランプリ候補番組はこちらから。

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