【2021年民放連賞審査講評(番組部門:ラジオエンターテインメント番組)】時代の声が聞こえるラジオ

嶋 浩一郎
【2021年民放連賞審査講評(番組部門:ラジオエンターテインメント番組)】時代の声が聞こえるラジオ

8月20日中央審査【参加/71社=71本】
審査委員長=嶋浩一郎(博報堂執行役員・エグゼクティブクリエイティブディレクター
審査員=青木江梨花(脚本家)、犬山紙子(エッセイスト)、藤代裕之(法政大学教授)

※下線はグランプリ候補番組


東日本大震災から10年。エンターテインメント番組においても、災害時におけるラジオの重要性や、人々の日々の生活に寄り添うメディアとしての役割を果たす番組が多くみられた。作品について、審査時の評価のポイントをまとめていく。

最優秀=ニッポン放送/サンドウィッチマンのオールナイトニッポン(=写真) 東日本大震災の直後に急きょ放送された「サンドウィッチマンのオールナイトニッポン」の続編とも言えるこの番組は、多くの審査員に支持された。10年前の放送は、被害の全貌が見えない中で不安な夜を送る人たちを勇気づける内容で、コントなどで構成されていた。それから10年、東北を応援する活動を続けてきた2人を再び起用した本受賞作は、ユーモアの中に熱いメッセージが込められた2人のパーソナリティぶりが評価された。10年前、震災直後の仙台市内の状況をリポートした東北放送の藤沢智子アナウンサーも今回、番組に登場。彼女の当時を振り返る言葉を評価する声もあった。3人のトークを通じて、災害時におけるラジオの重要性や、人々の日々の生活に寄り添うメディアとしての役割も伝えることができた。

優秀=エフエム岩手/笑顔をつなぐ、ずっと・・三陸鉄道~三陸鉄道を走り続けた10年~ 震災直後に鉄道を走らせることを決断した、第三セクターの社長と社員たちの奮闘を、生の声を中心に構成した番組。当事者たちを丹念に取材しその声を伝えることで、当時の状況が解像度高く伝わった。また、第三セクターの鉄道事業の可能性を伝えたことを評価する声もあった。

優秀=エフエム富士/ロヂウラベース Official髭男dismの楢﨑誠のトークは、これからの時代のラジオとリスナーの新しい関係性を予感させるという声が聞かれた。番組内の実験的なコーナー「サウンドトラベラー」では、リスナーが興味を持ち収録した日常の生活音などのサウンドを紹介。いまどきの10代、20代の生活や、彼らの持つ新しい感覚が表現されていた。ラジオは昔からハガキやメールの紹介を通じたリスナーとパーソナリティの共創メディアではあるのだが、若い世代にラジオとの新しい共創の形が生まれつつあることが評価された。

優秀=北陸放送/音楽を見る喫茶店〜もっきりや50周年〜 金沢に根付くジャズ喫茶の店主へのインタビューを中心に構成された番組。地域においてコミュニティが作られていく過程が、アルバイトの学生や店で演奏する地元のミュージシャンの声も織り交ぜ丁寧に描かれていることが評価された。音楽を介して地元に人と人がつながる場が生まれた歴史をラジオで振り返る意味が感じられたが、一方で、やや単調な印象を受けた審査員もいた。

優秀=FM 802/岡林信康・復活の朝 スペシャル この作品は、「三谷ブルース」でフォークの神様と言われるようになったシンガーソングライター・岡林信康の人生と音楽観の変遷を丁寧に追っている。岡林を知る人も、初めて知る人にとっても興味を引く構成が評価された。牧師の子として育った幼少時代、祭囃子にトランス感覚を感じたエピソードを本人へのインタビューで引き出す取材力と、現在の音楽表現にたどり着くまでの一人の音楽家の思考の移り変わりをうまく紡いだ構成力が優れていた。

優秀=中国放送/ラジオドラマ ひろしまお好み焼のある風景 戦後75年の特別番組として、広島とは切っても切れないお好み焼きの思い出をリスナーから募集し、地元の学生が参加する形でラジオドラマ化した。完成度はまだ高められるという声もあったが、ドラマを地元の人々とともに作る取り組みや、リスナーの思い出から作られたドラマのリアリティが評価された。

優秀=ラジオ沖縄/スナック・ラジオ沖縄 自粛が求められたコロナ禍に、夜の街の声をパーソナリティの2人がうまく引き出していたことが多くの審査員に評価された。彼らの「夜の街に行く人は昼の街の人だから」という言葉も印象に残った。中継などで街のリアルな声を紹介するのはラジオの特徴の一つであり、時代の空気を、生活者の声を通じて表現した番組だった。ただ、生中継は自由に喋れるがゆえに、ダイバーシティとインクルージョンの時代にそれを逸脱する発言をする人も出てきてしまう。そうしたとき、番組はいかなる対応をすべきか? ラジオのおおらかさと、多様な視点に立った価値観が共存する番組づくりを目指してほしいという意見もあったことを記しておく。


各部門の審査結果およびグランプリ候補番組はこちらから。

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