2023年民放連賞審査講評(ラジオ教養番組) 聴きやすく、楽しく、そして深い番組を

石井 彰
2023年民放連賞審査講評(ラジオ教養番組) 聴きやすく、楽しく、そして深い番組を

8月18日中央審査[参加/55社=55本]
審査委員長=石井 彰(放送作家)
審査員=阿部るり(上智大学文学部教授)、カライスコス・アントニオス(龍谷大学法学部教授)、城戸真亜子(洋画家)

※下線はグランプリ候補番組


ラジオ教養参加本数は、昨年から5本減って55本。ただ各地区から選ばれた番組は、報道色の強いものからスポーツ・エンタメ系のものまで多種多彩で、それぞれに興味深く、また完成度の高い番組が多く熱のこもった審査となった。番組を聴き終えて、どんな発見があるのかが決め手となった。

最優秀=ラジオ沖縄/Basketball island OKINAWA ~沖縄バスケ100年の歴史~(=写真)
一つの番組で、「ここまで多くの人々に取材した番組を聴いたことがない」と驚かされた。沖縄バスケ黎明期から、米国との交流によって独自の戦法を編み出して強くなり、それが今では、世界と戦う日本の戦法にまで広がった理由が楽しく理解できた。沖縄文化に根ざした独自のリズムによるドリブルへの指摘など、スポーツ番組を超えた奥深い考察に感動する。バスケのワールドカップ沖縄開催という、時宜を得た企画であったことも高く評価された。

優秀=STVラジオ/こどものミライと不登校
年々増加するこどもの不登校や自殺に、どのように向き合えばいいのか? 自らも子育て中のアナウンサーがナビゲーターとなって道内を訪ね歩く。不登校生徒のために設けられた「不登校特例校」や「学校に来なくても大丈夫」と生徒に語る学校長の存在など、さまざまな取り組みをわかりやすく伝えている。私たちが縛られている学校絶対主義から自由になれる示唆に富んだ番組だった。

優秀=文化放送/知っていますか?ロービジョン~0と1の間
日常生活が不自由になるさまざまな視覚障がい=ロービジョンの人が増えているという。自分自身がロービジョンのディレクターが、自分の体験を語り、同じような症状の人々を取材していく。外見からは気づきにくい障がいであるロービジョンへの理解と、周囲からの手助けが可能になる気づきにあふれた番組だった。スマホやパソコンなど、視覚を酷使する現代社会への警鐘がほしかった。

優秀=静岡放送/SBSラジオギャラリー 方言アクセントエンターテインメント ~なまってんのは、東京の方かもしんねーんだかんな~
ラジオにはつきものの、方言やアクセントを多角的に面白く考察していた。無型アクセントの地域が全国各地にあるという指摘は興味深い。韓国語との対比という新たな視点に発見があった。言葉はたえず変わっていく中で、何が原点で、何が発展系なのかを考えさせられる。かつて録音された地元の人のテープが残っていたのはローカル局として評価したい。欲を言えば、もっと言葉と暮らしへの洞察がほしかった。

優秀=CBCラジオ/CBCラジオ特集 わたしの居場所~みゆの物語
家庭や学校で居場所をなくしてさまよい、犯罪に手を染める若者が増えている。そんな若者たちの居場所づくりを進めるNPO法人の活動を取材していく。そこで出会った17歳の女子高生は、成人男性と性行為をして金銭的援助を受けていた。「寂しいから」という理由で性行為を繰り返し、稼いだ金を好きな男に貢ぐことで自分の存在感を得る、という彼女の内面を、長期間の取材で引き出していた。彼女以外のケースも取材していれば、番組に広がりを持てたのではないか。

優秀=朝日放送ラジオ/笑い飯哲夫のしんぶん教室
新聞に掲載されている記事の斜め読みと、ビデオ会議でつないだ小中学生にトピックをわかりやすく解説していく。この日は「うるう秒」がなくなるという記事を取り上げた。オランダ在住の小学5年生に、パーソナリティーの笑い飯・哲夫が「うるう年」との違いから、面白く解き明かしていた。ラジオと新聞の親和性を発揮した番組として貴重だ。番組が28分と短いのが惜しい。もっと聴きたかった。

優秀=四国放送/中四国ライブネット 全国で1000台突破!移動スーパーとくし丸~見えてきた、さらなるくらしの困りごと~
徳島から始まり、いまや全国各地で1000台以上が稼働している移動スーパーとくし丸。その歴史と現状を、各地に電話をつないで解き明かしていく。手間暇のかかる対面販売であるがゆえに、客の心身の状態まで把握できる利点があった。過疎高齢化とネット社会進行の中で、むしろ、とくし丸の需要が高まっているのが発見だった。経営面にも踏み込み、現実を隠さず伝えようとする制作者の姿勢が良い。中四国ネットという番組形式も、ラジオの未来を作っていくだろう。


各部門の審査結果はこちらから。

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