【2021年民放連賞審査講評(グランプリ審査:テレビ)】ローカル局ならではの企画や表現力、情熱に圧倒

稲垣 衆史
【2021年民放連賞審査講評(グランプリ審査:テレビ)】ローカル局ならではの企画や表現力、情熱に圧倒

【10月14日審査】
審査委員長=高橋源一郎(作家、日本テレビ放送網番組審議会委員)
審査員=稲垣衆史(毎日新聞学芸部記者)
亀井典明(ADKマーケティング・ソリューションズ取締役メディア&ソリューション統括、日本広告業協会メディア委員会委員)
小山薫堂(放送作家・脚本家、フジテレビジョン番組審議会委員)
篠原弘道(日本電信電話取締役会長、テレビ東京番組審議会副委員長)
高橋源一郎(作家、日本テレビ放送網番組審議会委員)
高見浩太郎(共同通信社文化部記者)
立山昭洋(花王MK創発センター メディア企画部長、日本アドバタイザーズ協会テレビ・ラジオメディア委員会委員)
田中 誠(読売新聞東京本社文化部次長)
長嶋 有(著述業、TBSテレビ番組審議会委員)
増田ユリヤ(ジャーナリスト、テレビ朝日番組審議会委員)


新型コロナウイルスの影響でオンライン開催となった今年の審査会。しかし、グランプリ候補をめぐっては、障害や難病などいずれも「共生社会」のあり方を問うドキュメンタリー2作品への評価が拮抗し、構成や演出、訴求性などさまざまな観点から白熱した議論が行われた。

グランプリの「チョコレートな人々」東海テレビ放送)は最低賃金が保障された障害者の雇用を目標に掲げた夏目浩次さんを17年前から追った作品。雇用をめぐって壁にぶつかり、差別やマネジメントに苦しみながら、チョコレートに付加価値を付けて販売する事業を軌道に乗せていく姿を描いている。重いテーマながら、軽やかな音楽やナレーションで、ドラマを見ているかのような演出が光った。

高く評価されたのは、社会的弱者への一時的な支援ではなく、「障害があっても稼げる職場」という独自のビジネスモデルを示していた点だ。「持続可能な社会を目指す『SDGs』の本質をついている」として推す声が強かった。一方、「チョコレート店がうまくいっている背景を知りたい」「年商10億円を稼ぐシビアな現場を見たい」など別の切り口での作品化を望む声もあり、さらに可能性を感じさせる作品だった。

221 (TC) 写真①.jpg

準グランプリの『おひさま家族~りんくん一家の17年~』静岡放送)は、日光に当たると高い確率で皮膚がんを発症するため、太陽を避けながら暮らさなければならない難病患者・清麟太郎くん(りんくん)とその家族を追ったドキュメンタリーだ。一家が向き合うのは重い神経障害が次第に進み、30年ほどの生涯とされている残酷な病。10年にわたって密着し、元気な小学生だったりんくんが成長するにつれ、会話や歩行も困難になっていく様子を克明に捉えている。それでも素直な言葉を発するのびのびとしたりんくんに多くの審査員が元気を与えられた。脚色のない構成も高い支持を得た。

タイトルにあるように「家族」のあり方を問う作品でもある。生きていた証を絵本に残そうとする祖母、周囲からの目などに悩まされながらも必死に生きるりんくんと伴走する両親や兄弟の言葉は、どれも温かさと奥深さに満ちている。審査員からは「取材対象に家族のように寄り添う制作者のやさしさを画面から感じた」との声もあった。限られた時間をどう生きるか。家族の強さとは何か......。そんなことを考えさせられる作品で、全国の多くの親子に見てほしい。

なお、エンターテインメントやドラマを含めた8作品はいずれも準キー局を含むローカル局が制作した。新型コロナ禍で日常を失った人々、発生10年となった東日本大震災や原発事故、そして刑事事件の闇を掘り起こした調査報道など、どれも興味深いテーマを扱った労作ぞろいだった。地方の疲弊が進んでいると言われるが、ローカル局ならではの地域を見つめる企画や表現力、そして粘り強く対象に迫る情熱に圧倒させられた。

最新記事