マスターをリモートで監視できないか? という話が出たのは、2022年の春。新型コロナの感染者が出てもマスター業務を止めることはできない......。コロナの終息が見通せなかったなか、自宅や別室からのリモートの実現が切に求められた。当初は2019年に開発したマスター運行支援システム(IM-NEXT)を利用して、リモートの試験を行ったが、普段のマスターとレイアウトが違い、使い勝手も違う、これでは監視は無理! という結果となってしまった。
であれば、本当のマスター室と全く同じレイアウトをPC上に再現し、マスターで操作することをすべてリモート上で実現しようと考えた。これが開発のきっかけだ。その後、メンバー5人で開発をスタート。システム開発、設計、工程管理、CG作成など、各人が専門分野を持ち寄りながら手探りで開発を進めた。
マスター業務のすべてをリモートでどう実現する? 本物のマスターと同じレイアウトをどうやって再現する? セキュリティはどうする?......課題が山積するなか、メンバー5人で毎日少しずつ課題を解決していった。解決方法が見つからず、心が折れそうになった時もあったが、なんとかバーチャルマスターオペレーターを完成することができた。
バーチャルマスターは、マスター室をリモートで監視・オペレーションできるシステム。自宅からノートPCで監視業務をすることや別局のマスターを統合監視することが可能だ。
システムの最大の特徴は、マスター室のレイアウトをCGでパソコン上に忠実に再現したこと。これにより、オペレーターはあたかもマスター室にいるかのように、監視が可能となっている。また、セキュリティにも考慮した設計としており、外部ネットワークと切り離された構成として安全性を確保。さらにバーチャルマスターオペレーターは、実際の監視卓での全操作を可能とした。映像・音声のモニター確認、ボタン操作、PC操作もすべて可能となっている。
これらの機能により、マスター業務の大幅な効率化につなげることができ、人的リソースの別業務への有効活用が可能となった。
バーチャルマスターオペレーターの導入により、複数監視拠点を統合監視することで、大幅な効率化を図ることが可能となる。このため、ラジオ社との統合監視をすることや、テレビマスター間の統合監視をする検討を現在進めている。今後、統合監視が実現し、多くの放送社の業務効率化が図れればよいと考えている。
また、マスターだけではなく、サブシステムのバーチャル化も可能となる。既にバーチャルサブスタジオ(スイッチャー)の開発を完了しており、今後も局内のさまざまなシステムをバーチャル化する計画だ。将来的にはクラウドマスターでの運用も可能と考えている。
放送以外の異業種への展開も進めている。ビル管理、プラント監視などそれぞれに必要な機能があり、この開発も進行中だ。AIカメラによるメーター表示機能は開発が完了しており、監視カメラの制御機能も開発中だ。放送以外の多くの企業で効率化が図れることを目指している。
今回の民放連賞の最優秀受賞を励みに、今後も放送業界をはじめ、産業界全体のDX推進に少しでも貢献できればと考えている。