8月19日中央審査【参加/114社=114本】
審査委員長=永井多惠子(国際演劇協会会長)
審査員=遠藤 薫(学習院大学教授)、金川雄策(Yahoo! Japan クリエイターズプログラム チーフ・プロデューサー)、榊原美紀(弁護士)
※下線はグランプリ候補番組
今回、最優秀候補としてノミネートされてきた作品群はいずれも「いのち」を主題とするものが多かった。それだけに、どの作品も貴重であり、最後まで、審査員間で、静かな中にも白熱した議論が交わされた。
最優秀=静岡放送/おひさま家族~りん君一家の17年~(=画像) 日本国内で500人しかいないという難病(色素性乾皮症)を患い、限られたいのちを生きる17歳の少年とその家族の軌跡を追った優れたドキュメンタリーである。遺伝子異常により、太陽の紫外線を浴びるとやがて皮膚がんが発生し、年を重ねると神経障害が加わり歩行も不自由になり、ほぼ30歳でそのいのちを終える。その短い生涯を両親、兄弟、祖父母たちがいたわりながら、りん君の日々を楽しいものにしようと懸命に生きている。太陽という人々にとっての恵みがりん君にとってはいのちをおびやかす存在なのだ。「おひさま、バイバイ」と日差しの弱まる夕方から新聞配達の手伝いをする姿はその愛らしい容貌と相まって痛切であり、深い感動をよぶ。
優秀=テレビ岩手~あなたへ東日本大震災から10年~ 忘れまいとしても、時は過ぎ、社会の記憶はぼやけていく。震災直後に安否情報として始めたビデオレター放送が活きている。「何かあってもここをはなれるな」の言葉どおり、妻はそのまま家で波にのまれた。その夫の悔恨等、10組の遺族のかたることば「いのち、家族、ふるさと」が胸に刺さる。地元テレビならではの仕事として高く評価された。
優秀=フジテレビジョン/ザ・ノンフィクション 生まれてくれて ありがとう~ピュアにダンス 待寺家の17年~ 障害に対する社会の視線に傷つく息子を支えてもがき続ける家族の17年を追った秀作。身体能力が高く、ブレイクダンスをプロに認められ舞台に挑戦してゆく姿に、音楽・ダンス、アートが生きるすべとなることを番組は描く。そして息子の生き方をめぐる夫婦の意見対立という影の部分もリアルに描かれており、考えさせられる。
優秀=東海テレビ放送/チョコレートな人々 この作品は障害者を主人公にするのでなく、いわばその支援者として生きる起業家が主人公だ。正当な賃金を障害者に支払いたいと試行錯誤、苦渋の道を歩む起業家の姿は福祉に対する共感を呼び起こす。労働に見合った給料を出すことを目的にたどりついたのが高級チョコレート菓子の製造と販売。手間をかけて丁寧に仕事をする障害者に適した美しい菓子づくり、その戦略やよし。障害者支援とビジネスという主題はきわめて今日的であると高い評価を得た。
優秀=毎日放送/1万人の第九2020 抱き合おう世界中の人々よ 音楽は人と人をつなぐ。毎年・年末の1万人が酔う第九の演奏はコロナ禍にあっては合唱の飛沫が危険だ。だが総監督で指揮者の佐渡裕は参加者の歌声登録を提案、中学生の参加も得て、リモート技術の第九演奏は成功、音楽の力を感じさせる。あえて注文するとすれば、1万人が寄せてきた歌声をどう処理したのか、編集のプロセスを丁寧に追えばもっとおもしろかったのではないか。その技術のわざも見たかった。
優秀=山口放送/ある牛飼いの日々 食は私たちのいのちを支えてくれる仕事だとあらためて感じさせてくれる。食といのちの意味を問いながら、牛肉輸入自由化、BSEなどにあらがって生きる父親の姿は子どもたちにも大きな存在として映っているのだろう。畜産を継承しようとする子どもたちが力強い。後半の、母牛の帝王切開による子牛出産のシーンは貴重な記録だ。ただし、前半、見せ場が少ないのが惜しい。
優秀=沖縄テレビ放送/1031首里城の総防止たち~いま明かされる火災の真実~ 沖縄の人々がどれほど、首里城を愛おしく思っているか、焼失しつつある城を押し黙って見つめる人々の後ろ姿から、驚きと悲しみが伝わってくる。「このまま、永久の別れとなるのか」――散山節の悲痛と呼応するかのようだ。消防士たちの12時間の消化活動と千度を超える火焔の中を崩れ落ちてゆく本殿の映像は(言葉は適当ではないが)、美しいばかりだ。焼け落ちてゆく本殿の姿を時刻を追って克明に捉えたカメラと構成は無駄がなく、傑出している。
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