2022年民放連賞審査講評(ラジオ教養番組) 言葉や音だけだからこそ伝わる

石井 彰
2022年民放連賞審査講評(ラジオ教養番組) 言葉や音だけだからこそ伝わる

8月19日中央審査[参加/60社=60本]
審査委員長=石井 彰(放送作家)
審査員=阿部るり(上智大学教授)、洞口依子(俳優)、山本康一(三省堂辞書出版部部長兼大辞林編集部編集長)

※下線はグランプリ候補番組


ラジオ教養ほど間口の広いジャンルはない。社会派ドキュメンタリー、音楽番組、生ワイド番組のコーナー企画の集大成など、今回も多種多様だった。審査基準が違えば結果も異なるだろう。今回、審査員が重視したのは「言葉の文化、音の文化」としてのラジオの魅力だ。甲乙つけがたい異なるジャンルから優れた番組が揃い、ラジオの根幹ともいえる視点から審査は進んだ。

最優秀=信越放送/SBCラジオスペシャル 『黒猫』田口史人のレコード寄席~『昭和の校長先生』編(=写真) 近年、レコード文化の見直しが進んでいる。レコードといえば、=音楽と考えがちだ。だが戦前から戦後に作られたレコードは落語や浪曲、戦後に作られた卒業記念アルバムなど「声の記録媒体」だった。各地の学校で教員や校長から、生徒に向けて贈る言葉のレコードが作られていた。これらを収集する長野県伊那市の中古レコード店「黒猫」店主をゲストに迎え語られたのは、時空を超えた言葉の生命力だ。教師たちの語る言葉の深さは戦後教育への情熱を感じさせた。映像メディア全盛の社会だからこそ、あらためて「言葉の持つ力=ラジオの力」を発見させてくれる至福の時間だった。

優秀=青森放送/カエレナイ街から ~翔子さんと実穂さんと私たち~ 2014年に青森で、たった3人で始まったLGBTQの人々のパレードを、長期間にわたり取材し続けた。東京にいたのではわからない地方都市で暮らす困難さが伝わってくる。少数者が抱えるさまざまな問題について、法的不備や根強い偏見などを伝えることは、メディアの大切な使命でもある。映像だと偏見を助長する場合もあるが、それがないラジオだから当事者の声や抱える問題がより切実に伝わってきた。諦めない当事者たち、視覚障害者の報道を地道に続けてきた青森放送ならでの丁寧な取材、的確な構成が、大きな共感を生み出した。

優秀=ニッポン放送/ニッポン放送開局67周年"冗談工房"結成65周年記念 キリン一番搾りpresents 三木鶏郎とニッポン放送 戦後日本のラジオやCM音楽の先駆者だった三木鶏郎の功績が、貴重な音源やゲストのトークから多角的に明かされていく。三木と大滝詠一の対談音源は、音楽とCMの密接なつながりを解き明かしていた。また当時の社会状況が音から見えてくるのは、ラジオならではの醍醐味でもあった。ゲストの泉麻人、鈴木慶一が語る三木ワールドの楽しさは、ポップカルチャーの魅力を伝えてくれる。その一方で、三木を知らない若い世代にとってわかりづらい面もあった。

優秀=北陸放送/ラジオヒューマンスペシャル イルカにもらった優しい時間 ~私とスーミーの20年~ 石川県七尾湾にある能登島。周囲約72㎞の島に暮らす女性と野生のイルカの交流を丹念に取材した労作だった。女性の人生の軌跡と、それを見つめ励ましてきたイルカの美しい物語。天草のイルカが海流に乗って七尾湾にたどり着いた、という専門家の解説が興味深い。イルカの声や船の音などが想像力を膨らませる。これから人間がイルカとどう向き合っていくのか? 課題も提示されていた。ただ音だけでは、豊かな風景やイルカの姿がわかりづらいのが残念だった。

優秀=大阪放送/浪曲かたりがたり~節と啖呵に魅せられて~ 浪曲の歴史と現在が、テンポ良く多角的に描かれていて楽しく聴けた。講談の神田伯山や作家の町田康など、いま勢いのある多彩なゲストが語る浪曲の魅力がよく伝わってくる。番組の構成もよく練られていて聴き応えがあった。番組そのものに躍動感があり、浪曲を知らない人も引き込む力を感じる。浪曲と若者に人気のラップの親和性、という指摘も斬新。かつて人々を魅了した浪曲が急に廃れたのはなぜか? 何か理由があったはずで、そこを解き明かしてくれたら、もっと奥深い番組になった。

優秀=中国放送/僕の作文私の作文 2021年傑作選スペシャル! レギュラー生ワイド番組の人気コーナーの総集編は、聴いていて無条件で楽しい。小学生たちが書いた身の回りの出来事や感想を綴った作文を自分で読み上げていくと、子どもたちの顔まで浮かんでくる。パーソナリティーの横山雄二の進行が巧みで、過不足のないコメントが番組を楽しく盛り上げている。後日談の取材などスタッフの番組への愛情が感じられたのも好感が持て、編集も素晴らしい。惜しむらくは優れた作文だけの紹介に終始したこと。もう少し普通の作文を取り上げてもよかったのではないか。

優秀=九州朝日放送/「約束」マエストロ佐渡裕と育徳館管弦楽部 奇跡の4年 コロナ禍により長期延期された、世界的な指揮者と高校生たちの夢の共演。諦めなかった人々と、取材し続けた制作者の熱意が伝わってくる。佐渡裕や高校生たちの迷い、戸惑いも含め、小さな街の高校生たちの日々がいきいきと描かれている。ただ佐渡が高校生たちにどのような指導をしたのか? コンサートまでの過程をもっと知りたかった。またオンライン会議や、佐渡の講演・討論会などの音声が聴きづらかったのは惜しまれる。

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