2023年民放連賞最優秀受賞のことば(ラジオ生ワイド番組) 北陸放送 おいね☆どいね Holiday Special ~境界線を考える~

宮下 潤
2023年民放連賞最優秀受賞のことば(ラジオ生ワイド番組) 北陸放送 おいね☆どいね Holiday Special ~境界線を考える~

平日のワイド番組を放送する中で、遠方からのゲストをお迎えすると「番組名のおいねどいねって、どういう意味ですか?」とよく聞かれます。石川県の方言で【おいね】は「そうだよね」といった肯定や同調、【どいね】は「それどうなの?」という疑問や否定を意味します。物事の善し悪しや明暗を取り上げよう、という意図が番組立ち上げ当初にあったかどうかは定かではありませんが、今回はそんな番組名にも沿うような内容になりました。

最初に「境界線」というテーマを取り上げようと思ったのは、石川県と福井県の県境にある「県境の館」の存在を知ったからです。県境をまたぐように建てられたこの施設では、年に一度綱引き大会が行われています。越前(福井県)と加賀(石川県)の勝ったほうが領土を広げ、その境界線を示す石碑をずらすことで、どちらが勝ち越しているか一目で分かります。もちろん実際に県境を動かすことはできませんのでひとつの余興ではありますが、「境界線が動く」というところが今回の番組テーマの種になりました。

一言で「境界線」と言っても、自分のなかで決めることができるもの、時が来れば変わるもの、地理的なもの、法や規則で決まっているもの、意識しなければ見えないものなどさまざまありますが、今回取り上げたのは前述の「県境の館」からの中継に続き、「性」「方言」「成年」の3つ。「性」のパートでは、金沢レインボープライド代表の松中権(まつなかごん)さんに登場いただきました。松中さんは学生時代にオーストラリアに留学し、現地の友人にゲイであることを伝えたと言います。生まれて初めて、絞り出すように、やっとの思いで発した「I am gay」という言葉。それに返す友人の言葉は「I see.(わかった)」とあっさりしたものだったそうです。その時の感情が今の活動の糧であり、ひとつの転機になったというお話しが印象に残ります。とても高い壁のような境界線が誰かの一言で「越えられる境界線」になることもあるのだと感じました。

続く「方言」のパートでは、山・川など地形との関係や江戸時代の藩の影響など。「成年」のパートには、「成年」を迎える、または迎えた高校3年生たちをゲストに"今"を語っていただきました。

生ワイド番組の良さは、こうしたさまざまなジャンルの話を聞き、一緒に考え、自分や身近なところと照らし合わせて意見を寄せ合うことができることだと再認識しています。パーソナリティ、ゲスト、そしてラジオの前で聴いてくれるリスナーから問題提起や率直に思うことなど生の声を寄せていただき、番組が出来上がります。

ラジオは「ながら聴き」ができるメディア、とよく言われますが、今回の番組で聴いた方が少しでも心に引っかかるものがあったのなら非常にうれしく思います。


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