2022年民放連賞審査講評(テレビ報道番組) 新たな伝え方で地域への責任果たす報道を

金山 勉
2022年民放連賞審査講評(テレビ報道番組) 新たな伝え方で地域への責任果たす報道を

8月18日中央審査【参加/94社=94本】
審査委員長=金山勉(学校法人摺河学園姫路女学院中学校・高等学校 副理事長・副校長)
審査員=城戸久枝(ノンフィクションライター)、森まどか(医療ジャーナリスト)、吉岡忍(作家)

※下線はグランプリ候補番組


引き続くコロナ禍と混沌とする社会情勢の中で、テレビ報道番組のあり方が今こそ問われている。中央審査には、①多様化する価値観にどう向き合い、新たな伝え方をもって社会に問いかけているか、②個別特有の社会現象や諸課題を自分事として受け止めているか、そして、③地域に対する社会的責任を果たし、問題提起することをどれだけ意識しているかを柱に据えた力作が出揃った。ネット社会が進行する中、これまでの規範的な枠組みを超えて、通常の取材ではこぼれ落ちる現象を映像として組み込むなど、新たな報道番組の形として一石を投じた作品が高い評価を受けた。

最優秀=石川テレビ放送/日本国男村(=写真) 変革の時代にあっても変わらぬもの。それは石川に長く続いてきた「男村(おとこむら)」イメージである。日常の王道的取材ではカメラを回すことがないシーンを意図的に拾い上げ、それを随所に散りばめて視聴者に違和感を与え、そこから中心的なテーマである「男村」の世界がどのようなものかを突き付ける。テレビ報道を定型のものとして閉じ込めず、センスある映像選択で視聴者を触発し、自ら考える気持ちにさせる作品。報道番組制作の軸の置き方に変革をもたらす気風を感じさせたことが一番の評価を呼び込んだ。

優秀=福島中央テレビ/1Fリアル あの日、原発の傍らにいた人たち 3.11から10年が経過し、福島第一原子力発電所(通称1F)の事故の際、収束に向け命がけで取り組んでいた一人ひとりにあらためて焦点を当てた。自衛隊や消防隊関係者らの新たな証言が加わり、当時、関係者が奔走していたことが浮き彫りにされた。チェルノブイリ原発をコンクリートで固めて放射性物質ごと閉じ込めようとした「石棺」の準備が検討されたとの証言も特筆される。1Fを抱える地元ローカル局の使命感が全面に感じられた。

優秀=TBSテレビ/ドキュメンタリー「解放区」"ブラッド・ゴールド"~アマゾン先住民の闘い~ 気候変動に全地球的な取り組みが求められる中、アマゾンの先住民が違法開発による自然環境破壊に直面させられ、また金の違法採掘で水銀による水質汚染が発生し、健康被害とみられる状況が広がっている。ブラジルの地で水銀によるアマゾン水俣病が発生していることを海外取材と丁寧な映像撮影で取り上げたことは、グローバル化された社会の中での普遍的な課題を身近に意識させる。

優秀=静岡放送/SBSスペシャル 熱海土石流 -なぜ盛り土崩落は防げなかったのか- 1年前の土石流被害の衝撃の記憶が生々しい熱海で、その原因といわれる盛り土が放置されてきた経緯を明らかにするため、緻密な調査と取材を積み重ねている。地域住民の安全を保障するはずの行政機関がしっかり機能していれば被害は防げたのではないか。番組の進行とともに、視聴者は徐々にそう感じるだろう。地元ローカル局の報道スピリットを随所に漂わせている。

優秀=関西テレビ放送/ザ・ドキュメント 罪の行方 ~神戸連続児童殺傷事件 被害者家族の25年~ 事件によりわが子を失った犯罪被害者に対し、地元ローカル局が取材対象者と確実な信頼関係を築き上げたうえで制作した。事件後に大きく変わってしまった被害者家族の日常。その行き場のない苦悩が、感情的でない淡々としたトーンで積み上げられたインタビューに凝縮され、この作品の良心だと感じさせる。誰もが犯罪被害者になる可能性がある時代、犯罪報道で誰もが加害者にもなり得るという視点も加味してほしい。

優秀=山口放送/侵略リピート 現在のロシアによるウクライナ侵攻が、1945年の満州におけるソ連侵攻と二重写しに感じられる。二度と戦争を起こしてはならないと伝える存命の証言者がいなくなる中、日本の加害性を真正面から描いた数少ない作品である。日本軍の加害の歴史にかかわるさまざまな要素・テーマをこの時間に収めるのはなかなか難しい。何か一つに絞って制作してもよかったように感じるが、戦争がもたらすものの罪深さを今日的な状況に引き込もうとした作品である。

優秀=沖縄テレビ放送/OTV報道スペシャル 水どぅ宝 沖縄で人々の命を支える水が、米軍基地の消火訓練で使われる有機フッ素化合物を含む薬剤によって安全性を脅かされているという。基地周辺の地域の飲み水に混入したことが疑われるエリアを中心に取材し、住民の切実な声を聞き取っている。他方、日米地位協定によって真相解明は進まない。水汚染と健康被害への不安を覚える住民の姿を真正面から取り上げ、社会的な問題を提起する番組に結実させた。


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