2022年民放連賞審査講評(青少年向け番組) 普遍的なメッセージ込める

やすみ りえ
2022年民放連賞審査講評(青少年向け番組) 普遍的なメッセージ込める

8月23日中央審査【参加/12社=12本】
審査委員長=やすみりえ(川柳作家)
審査員=井上祐紀(児童精神科医、福島県立矢吹病院副院長)、加藤 理(文教大学教授)、金田 淳(日本PTA全国協議会会長)


優れた内容の番組が多く、最終的に入賞へ届かなかった惜しいものもいくつかありました。その中でも特に、ドキュメンタリー系の作品は若い世代にもぜひ視聴していただきたい完成度の高い番組がそろっていました。

続くコロナ禍で新しい価値観を求められることの多かったこの数年ではありますが、多くの番組には普遍的なメッセージ(力強く生きること、命の重み、人を想う気持ちの大切さ、多様性、知的好奇心など)が込められていた印象です。

最優秀=読売テレビ放送/ytvドキュメント みのだん ~夢 コロナ 青春 強豪ダンス部の1年~(=写真) コロナ禍でかけがえのない青春時代を過ごす高校生たちの、ありのままの姿を追ったドキュメンタリー。大阪府立箕面(みのお)高校ダンス部・通称「みのだん」の部員それぞれの一途な表情がまっすぐに伝わってくる番組である。マスクを着けて懸命に踊り、猛練習を重ねて手に入れた高校ダンス最大級の大会出場権。だが、本番直前に校内で陽性者が発生し、彼らは出場辞退を余儀なくされる。コロナ禍で起こる理不尽な出来事をどのように受け止め、何を乗り越える力に変えていくか......。視聴している側も共に「理不尽さ」について考えさせられる内容で、特に同じような環境に置かれた中高生たちは大きな共感を覚えるだろう。部員たちの悔しさ、苦悩を受け止める顧問の先生の姿も印象に残る。密着取材によって、高校生の心の成長の様子を見事に映し出していて、最優秀にふさわしい作品。

優秀=WOWOW/東京パラリンピック完全版 パラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ WHO I AM TOKYOで輝く日本のエース木村敬一 取材期間3年に及ぶ番組シリーズの完全版。世界最高峰のパラリンピアンの生き方、考え方に迫り大きな感動と勇気を得られるシリーズである。今回の主役はパラ水泳日本代表の木村敬一選手。新たな環境を求め2018年に単身渡米、異国の地で懸命にもがき苦しむ日々を丁寧に追った内容に心打たれる視聴者は多いだろう。すでに一流のアスリートでありながら、留学先で英語を初歩から学び、ゼロから人間関係を築いていく毎日。その姿が画面からしっかりと伝わってきて番組に厚みを持たせている。新たなことへ挑戦する尊さや、どんな環境でも明るく前向きに進む勇気を与えてくれるこの番組、若い世代にぜひ視聴してもらいたい。

優秀=長野放送/太一の光~全盲の少年 7年間の記録~ 「共に生きる社会」について考えさせられる内容。周囲の支援を受けながらも堂々と自分らしく生きる平林太一くん。幼い頃に両目の視力を失ってなお「心の中は明るい」という言葉を口にする。彼の、まさしく心の表情が伝わってくる良質のドキュメンタリー番組。太一くんとその家族に寄り添い7年にわたって取材した制作側の姿勢にも敬意を表し優秀とした。

優秀=山口放送/KRYさわやかモーニングスペシャル 50センチの温もり 下美里13年の記録~ 東京パラリンピック女子マラソンの金メダリスト、道下美里さんの13年に及ぶ取材記録。マラソンを始めた頃からの貴重な映像の数々が、アスリートとして成長しどんどん活躍の場を広げていく頼もしい姿を伝えてくれる。彼女が走ることで、家族・仲間・伴走者、周囲の人々の人生にも良い影響を与えていることが映しされ、「支援者と被支援者」という関係を超えて「チームとして生きる」という理想の福祉の理念も実感できる。笑顔で人の輪を広げていく道下さんの生き方から前向きに生きるヒントをもらえる秀作。

優秀=福岡放送/目撃者f 消えないアラーム~医療的ケア児 命つないだ先に~ 多様な命のり方とそれに向き合う人々の苦悩や葛藤が描かれた番組。家族の負担は大きく、その実情を伝えようとする想いが伝わってくる内容である。医療的ケア児に密着し日々の様子を真正面からえていて、若い世代の視聴者にも重い課題として届くだろう。「生きるとは何なのか」をあらためて語り合うきっかけをくれる本作品、ぜひ多くの視聴者にてもらいたい。

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