8月22日中央審査【参加/62社=62本】
審査委員長=やきそばかおる(コラムニスト)
審査員=犬山紙子(エッセイスト)、嶋浩一郎(博報堂執行役員・エグゼクティブクリエイティブディレクター)、長島有里枝(写真家)
※下線はグランプリ候補番組
コロナ禍に入り2年半が経過した昨今。ライブやイベントが少しずつ復活してきている。そんな中で、今年の応募作品は音楽や未来をテーマにしたものが多かった。現在はもちろん、未来に希望を抱かせる内容は聴いた人の心を動かすパワーを秘めていた。それぞれの作品について、審査会での評価ポイントをまとめた。
最優秀=西日本放送/街の小さな文学賞 特別版 〜ラジオストーリープロジェクト~(=写真) 地元のカフェバー「半空」(なかぞら)が企画した文学賞。市井の人々が参加できること、SFから私小説的な内容の作品までジャンルが幅広かったこと、アナウンサー陣の朗読が素晴らしかったことが審査員に評価された。余計な演出もなく、1時間にさまざまな人の人生や情景を思い描かせてくれた。それぞれの作品は短いが想像力を掻き立たせてくれる。地域の中で文化を生み出し、それを応援する形のラジオはとても意義があるという声もあった。今後の広がりを感じさせる好企画。
優秀=STVラジオ/足寄のスーパースター 松山千春 〜45年の時代をこえて〜 出身地の香りがする歌手やミュージシャンが少なくなっている中で、デビュー前から「必ず売れる」と信じて見守り続けた地元の放送局ならではのエピソードが満載。貴重な音源は聴きごたえがあったほか、聞き手・喜瀬ひろしの素の引き出し方も秀逸で、松山千春の自然な姿が垣間見られた。終盤で北海道が大好きな理由や平凡であることの大切さが語られていた点も評価された。言葉がストレートで余計な飾りつけをしていないドキュメントであった。
優秀=エフエム東京/村上RADIO特別版 戦争をやめさせるための音楽 番組冒頭で「音楽に戦争をやめさせる力はないが、聴く人に『戦争をやめさせなくちゃ』という気持ちを起こさせる力はある」と語られたのが印象的だった。ロシアがウクライナ侵攻を始めて約3週間で放送にこぎつけた点にも注目。反戦歌だけではなく命の尊さや愛の大切さを歌詞に込めた曲も紹介したところや、ライブ音源が多く、当時の聴衆のリアクションが感じられたのもよかったという声もあった。最後に村上春樹が語った「指導者にただ黙っておとなしくついていくと大変なことになりますよ」というメッセージにもパワーがあった。
優秀=信越放送/SBCラジオスペシャル 信越放送創立70周年記念ラジオドラマ シンフォニー! 音楽の街・松本の特徴を織り交ぜたアニメチックで楽しいコメディ。声の出演も俳優、声優から同局のラジオに出演するパーソナリティまで地元にゆかりのある人で固めていた。人間関係の描き方もうまくできている。「あえて信州以外の登場人物を出演させ、県外のリスナーも一緒に驚けるようになっていてもよかったかもしれない」という感想や、綺麗に収まっていたからこそ「もう少しクラシックの演奏も聴きたかった」という声もあった。
優秀=北陸放送/MRO開局70周年記念特番 ミツケテミ!いしか輪の夢の輪 とても伸びしろのある企画。地元の放送局が中・高校生と地元にゆかりのあるプロフェッショナルとのつながりを後押ししている。現代はネットの配信があればプロの話を聞くことはできるが、この企画は中高生がスタジオでダイレクトに話を聞くことができて、プロの人と関係性を持てるのがうれしい。ラインナップが声や音に関連したものばかりでラジオ的だった点も評価された。構成面で惜しい点もあったが、シリーズ化してほしいところだ。
優秀=FM802/Whole Earth RADIO 松本隆×最果タヒ〜作詞家と詩人の対談 FM802が運営するFM COCOLOで放送された。松本隆を心から尊敬する最果タヒの愛が貴重なエピソードを引き出す後押しをしていた。松本隆はこれまでに何千回と楽曲に関する質問をされていると思われるが、最果タヒならではの考察を通じて答え合わせをしているようで濃い内容だった。楽曲の話が出たあとで該当する曲が聴けるのもうれしい。歌詞を説明しすぎない美学の話は両者の思いが一致しており、説明過多の現代に一石を投じていた。
優秀=エフエム長崎/砂漠を泳ぐ野良猫 地元の現役大学生の空間づくりユニット「ピオニール」による番組。日曜の深夜に聴くのにピッタリな選曲と、話し言葉が敬語ではないことから自然な雰囲気が漂っている点、ラジオの固定観念に捉われない構成で余分な点を削いでいて、心地良く聴くことができる点などが評価された。若者の日常や長崎の街についても肩肘張らずにダラダラと話しているのも良い。インタビュー取材の部分も型にはまらず柔らかい雰囲気であった。今後の可能性を感じるという声が多かった。
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