【10月13日審査】
審査委員長=山田覚(博報堂DYメディアパートナーズ 取締役執行役員、日本広告業協会メディア委員会委員)
審査員=井上由美子(脚本家、フジテレビジョン番組審議会委員)
菊地由美子(時事通信社 文化特信部記者)
小谷実可子(JOC常務理事、シンクロプロデューサー、テレビ朝日番組審議会委員)
佐藤智恵(作家、コンサルタント、BIPROGY 取締役、TBSテレビ番組審議会委員)
田原光晃(日本たばこ産業 パブリックリレーション部長、日本アドバタイザーズ協会テレビ・ラジオメディア委員会委員)
旗本浩二(読売新聞 文化部記者)
藤井彰夫(日本経済新聞社 常務執行役員論説委員長、テレビ東京番組審議会委員)
本間英士(産経新聞 文化部記者)
山崎直子(宇宙飛行士、日本テレビ放送網番組審議会委員)
ドキュメンタリーとドラマを合わせて審査するのは難儀だったうえ、ドキュメンタリーの中でも、今どきの高校生たちが水族館運営を通じて成長する姿を活写した『ハイスクールは水族館!!〜第3土曜日のしあわせ〜』(南海放送)や、「赤ちゃんポスト」に預けられた子どもの成長後の姿を追った稀有なルポ『現場発 大きくなった赤ちゃん〜ゆりかご15年〜』(熊本県民テレビ)など多彩な作品が並び、優劣がつけがたかった。その中でグランプリに選ばれた『三つめの庄内』(山形放送)、準グランプリに選ばれた『やったぜ!じいちゃん』(CBCテレビ)は、いずれも元気がないといわれる現代日本に対する強いメッセージを感じさせた。
『三つめの庄内』(=写真㊤)は、新天地を求めて満州に渡った庄内の農家の次男三男たちが、夢破れて引き揚げ後、郷里にも居場所がない中、青森や北海道に移り住み、第三の庄内を築いてきた長い歴史を大河ドラマのように伝えた。審査員からは「昔の日本人はこんなにも我慢強かったのか」「満州の開拓民を扱ったドキュメンタリーは数多いが、引き揚げ後の消息を追ったものはほとんどなく、その意味でも秀作」「中核となったヒゲの団長の人物像が魅力的」と推薦する意見が続いた。何人もの取材相手のもとに足を運び、丁寧に話を聞いて生みだされた成果は、地元に根を張ってじっくりと取材を続けるジャーナリストならではの真骨頂だろうし、ローカル局の存在意義の一つだ。経営環境が苦しい中、それを許容した会社の懐の深さも評価できよう。
『やったぜ!じいちゃん』は、脳性まひで「二十歳まで生きられない」と一度は診断された舟橋一男さんが、家族らの介助を受けながら懸命に仕事に打ち込み、明るく前向きに生きる姿を追った。50年前に撮影された若き日の旅行記などの映像も織り交ぜ、人が生きるとは何ぞやと問いかけた。「人間の力強さにあふれている」「50年前の映像に映る人々の障害者に対する視線に時代を感じるが、その映像を笑って見られる家族の姿がいい」といった評価が相次いだ。ドキュメンタリーは、存在感のある取材対象を見つけさえすれば、九割方完成したも同然だ。その意味でツボを見事に押さえた人物ドキュメントだった。
どちらの作品も改めて放送し、一人でも多くの人が問題山積の「今」を考え直すきっかけになることを祈っている。