2022年民放連賞審査講評(テレビエンターテインメント番組)  コロナ後のテレビ番組に新たな萌芽

鏡 明
2022年民放連賞審査講評(テレビエンターテインメント番組)  コロナ後のテレビ番組に新たな萌芽

8月22日中央審査【参加/103社=103本】
審査委員長=鏡 明(評論家、元電通顧問、㈱ドリル エグゼクティブ・アドバイザー)
審査員=上田紀行(東京工業大学副学長・リベラルアーツ研究教育院教授)、奥貫 薫(俳優)、たかのてるこ(旅人、エッセイスト)

※下線はグランプリ候補番組


2022年のテレビエンターテインメント番組の中央審査はリモートで行われた。これはコロナ禍の中にあっては、当然のことだろう。このテレビエンターテインメントのカテゴリーでも、コロナの存在が新たな日常になってきたことを感じさせられた。

今回、中央審査に残った7本の番組は、いずれも素晴らしいものだった。ドキュメンタリーからバラエティ的なものまで、内容的には幅があり、それらの番組を同列に論じるのは難しい。けれどもそのことがこの部門の幅の広さと奥行きの深さを示しているのと同時に、テレビがコロナを乗り越えつつあることを示しているようにも思う。

最優秀=CBCテレビ/やったぜ!じいちゃん(=写真) 20歳まで生きられないといわれていた脳性マヒの舟橋一男さん。74歳の日常。CBCテレビが50年前に放送した舟橋さんのドキュメンタリーを、妻や二人の娘と孫たちとともに見る。極めてシリアスなテーマだが、若い舟橋さんの姿を見て家族が笑う情景が素晴らしい。そこには普通の家族の団らんがある。また番組中に紹介される舟橋さんの文章の明晰さも驚くべきものだった。50年前のテレビ番組が保存されていたこと、彼の言葉にならない言葉を理解する家族、幾つもの奇跡がこの番組を成立させている。一人でも多くの皆さんに見ていただく価値がある。この番組をエンターテインメントという枠で語るべきかどうかという議論があったことを付け加えておく。

優秀=北海道文化放送/無理しない ケガしない 明日も仕事 ~新根室プロレス物語~ 根室のアマチュアプロレス集団というマイナーな素材を取り上げ、この団体を立ち上げた一人の男を中心に集まってきた人々の姿を丁寧に捉えている。彼らは落ちこぼれといわれるような存在だったが、プロレスを通じて輝きを取り返していく姿が美しい。それが活力を失いがちな地方の町にエネルギーをもたらしていく。一人の人間の人生だけではなく、それがもたらしたものを捉えようとしたスタッフの視点と努力を高く評価する。

優秀=テレビ朝日/タモリステーション〜二刀流 大谷翔平の軌跡〜 この野球のスーパースターの全体像を実績、過去、分析といった多面的な視点から捉えている。現在でも、これ以上の説得力を持つ番組を制作するのは難しいのではないか。タモリの起用も成功している。大谷選手本人が登場しないことも、この番組の客観性を保持することにつながっていた。総合力の勝利である。ただ、逆に突出した部分が感じられず、そこが惜しかった。

優秀=静岡放送/静岡発 そこ知り しずおかラーメン最前線 決め手は至極の醬油作り ラーメンを扱う番組は数多いが、醬油に焦点を当てるという試みは初めてではないか。レギュラー枠でそれを実現したことはローカル局の強みだ。ラーメンを作るということの背後にある熱意と努力、そして醬油造りにもそれ以上の熱意と努力がある。醬油造りという未知の世界を見せてくれたことが、この番組に深みを与えている。

優秀=朝日放送テレビ/女性の明日が楽になる!あしたのラク子さん 「フェムテック」という難しい問題にバラエティという形式で挑んだ意欲作だ。女性タレントたちが語りにくい自分の生理の体験を堂々と語っている姿に感銘を受ける。新たなテレビの可能性を感じさせる。全社公募の企画ということも素晴らしい。

優秀=南海放送/ハイスクールは水族館‼ 〜第3土曜日のしあわせ〜 愛媛県立長浜高校には、全国唯一の水族館部がある。その部員たちの活動とそれを支える学校、そして町の人々の姿が描かれる。部員たちの手作りの水族館に対する愛情が伝わってくる。月に一度の公開日の町の人の笑顔、部員たちの笑顔、そして水害やコロナを乗り越えた多くの笑顔が素晴らしい。長い時間をかけて取材した努力の成果だ。

優秀=福岡放送/地元検証バラエティ 福岡君。第2回福岡箸上げ選手権 完全版 グルメ番組には欠かせない「箸上げ」という技術がある。いかにきれいに食べ物を箸で摑み口に運ぶか。業界以外では無意味な行為だが、リポーターたちが真剣にそれを競う姿に思わず引き込まれる。局の壁を越えて参加するリポーターたちという仕組みも新鮮だった。ローカル局ならではのファインプレー。テレビのエンターテインメントのあるべき形の一つを示してくれた。

コロナ禍以後のテレビ番組がどうなるか。その新たな萌芽が感じられる番組を見ることができた。各局の制作者の皆さんの努力に敬意を表したい。


各部門の審査結果はこちらから。

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