【2023年民放連賞審査講評(グランプリ審査:ラジオ)】 音を通し伝わる制作者の熱意

佐々木 崇之
【2023年民放連賞審査講評(グランプリ審査:ラジオ)】 音を通し伝わる制作者の熱意

【10月12日審査】
審査委員長=林和男(ぴあ 相談役Co-founder、J-WAVE番組審議会委員長)
審査員=石塚恵理(読売新聞 文化部記者)
加藤タキ(コーディネーター、文化放送番組審議会副委員長)
佐々木崇之(時事通信社 文化特信部記者)
辻本聡(トヨタ・コニック・プロ 第1ブランディング部専任部長、日本アドバタイザーズ協会テレビ・ラジオメディア委員会委員)
松岡昌志(東京工業大学教授、ニッポン放送番組審議会委員)
松田紀子(ファンベースカンパニー ディレクター、オレンジページ 『オレンジページ』編集長、エフエム東京番組審議会委員)
望月優大(ライター、TBSラジオ番組審議会委員)
望月謙司(ADKマーケティング・ソリューションズ 取締役メディアビジネス統括、日本広告業協会メディア委員会委員)
屋代尚則(毎日新聞 東京本社学芸部記者)


今年の日本民間放送連盟賞グランプリ(ラジオ)は8番組から選考され、グランプリに四国放送の『中四国ライブネット 全国で1000台突破!移動スーパーとくし丸~見えてきた、さらなるくらしの困りごと~』が輝いた。

軽トラックに生鮮食品など約1,200点を積み、買い物難民の高齢者が住む地域まで出向く移動スーパー「とくし丸」。2012年に徳島県でわずか2台から始まり、今や全国で1,000台を超えるまでに成長した。取り組みが支持された背景に見えたのは、単なる食品販売にとどまらず、住民の暮らしや命を守ろうと「お年寄りの困りごと」に寄り添う姿勢だ。

番組はスタジオに関係者を招き、22年8月に放送された。行政の補助金を受けず立ち上げた創業当時の理念や、18年7月の西日本豪雨災害では、岡山県倉敷市真備町でライフラインのような存在だったことも紹介。ネットスーパーにはない、人と人との触れ合いが際立ち、審査会では「過疎化や高齢化が進む地域の希望」「収益性や効率性が求められる世の中で、人の役に立つ原点の重要さを改めて認識させられた」などと評価された。

準グランプリには、北日本放送が今年5月に放送した『KNB報道スペシャル 統一教会と富山政界』が選ばれた。「保守王国」の富山県で、選挙支援を武器に知事や市長、議員に近付き、行政や議会に取り入る旧統一教会の実態を浮き彫りにした。

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昨年7月以降、教団の広報局長も務めた同県出身の元幹部へのインタビューをはじめ、首長や議員らにアンケートやコメントを求めるなど継続的に取材。選挙運動に従事した元信者の証言なども交え、生々しい声を伝えた。

「選挙後は関わりはない」と話した富山県知事に、教団元幹部と写った写真を突き付け追及。虚偽発言だったことを暴き、関係を断ち切ると断言できないほど浸透した関わりの深さを白日の下にさらした。審査員からは「非常に聴き応えがあり、考えさせる番組で秀逸」「一筋縄ではいかない問題であることを次々にあぶり出し、骨太の構成だった」と評された。

硬派な番組からエンタメ色の強い番組までジャンルは違えど、ノミネートされた8番組はいずれも力作だった。証言を重ねて過去の歴史をひもといたり、効果的に音を聴かせ、想像力をかき立てたりと、耳で聴かせるラジオというメディアの特性を存分に生かしており、制作側の熱意が伝わってきた。

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