8月17日中央審査【参加/95社=95本】
審査委員長=澤康臣(ジャーナリスト、専修大学文学部教授)
審査員=遠藤薫(学習院大学名誉教授)、森まどか(医療ジャーナリスト)、吉岡忍(作家)
※下線はグランプリ候補番組
戦争、差別、国家犯罪、公害、病とケアと家族など社会を描く作品のいずれも人の言葉と表情を通じて、私たちに何をなすべきかを問いかけた。情報入手先としてSNSを挙げる人が増える時代、ジャーナリズムにプロとして携わり、人と接し、市民のために伝える仕事の価値をあらためて見せつけられた。審査の議論は予定時間を超過して白熱し、社会のあり方、未来の展望、過去を伝え続ける意義などが評価の注目点になっていった。
最優秀=朝日放送テレビ/こどもホスピス 〜いのち輝く"第2のおうち"〜(=写真)
小児がんの子どもたちが厳しい闘病の中、自分らしく楽しめる場所をどうするか。日本にまだ数少ない子どものためのホスピスの活動と親子の姿に近接しながら、社会の私たちが何を考え何を支えるべきか問う。病と死、親と子、大人と子どもの、多様な現実の映像を通じ、今後社会がどうあるべきかの議論と展望につなげる作品。エピソードの中に「本筋」を逸脱気味に感じさせるところもあったが、それも含め、全ての物語に力がある。
優秀=山形放送/でくのぼう 〜戦争とPTSD〜
戦後78年、元日本兵が家族からもいぶかしまれるようになった行動の背景に、PTSDが関係していたことを知らせる。彼らと家族が傷つき苦しむというだけでなく、その根源に日本軍の加害もまたあることも正面から伝える姿勢の意義も大きい。裏付け資料となった、病院に残された大量の治療録資料が、文書保存のかけがえなさを合わせて印象づける。推定に頼る部分が一定部分あるが本筋を揺るがす点ではなく、証人が乏しい現在やむを得まい。
優秀=フジテレビジョン/ザ・ノンフィクション たどりついた家族2
ロシアのウクライナ侵攻から日本に避難してきた家族を見つめ、幼稚園、姉弟、食事、友達、障害者ケア......という生活を通じて国際紛争の現実を写しだす。日本にとけ込もうとする幼い子どもたちを追う映像はほほ笑ましく視聴者を巻き込むが、ウクライナの破壊をはじめ深刻な場面とクロスし、「人はいつまでこんなばかなことを」という最後のナレーションにうなずく。ウクライナ政府を含めた国家自体にどんな視線を向けるかの問いも欲しかったが、深く考えさせる力作。
優秀=テレビ信州 チャンネル4 遺された戦争ポスター
旧家の屋根裏に隠された、141枚もの戦争ポスター。戦争協力スローガンの雰囲気だけでも興味深いが、呼び掛け内容が次第に余裕のないものに変化したとの分析にうなる。ポスター廃棄の政府命令に背いてポスターを個人的に保存した村長の人となりや背景を日記から探る場面は重要。ウクライナの子どもの絵など内容がやや拡散気味であったことなどは気になりつつも、戦後78年、記録を残す価値を知らせる好作品。
優秀=北陸朝日放送 HAB報道特別番組 沈黙の月「寺越事件」忘れられた母子
16年にわたり寺越事件を追い続けた記者だから可能な長期映像記録。かつて力強く闘おうとした母・友枝さんは90代になり衰えは顕著に。武志さんも老い、時間の流れと解決しない問題、二人を利用しようとする力と思惑も伝わる。自ら真実の言葉を語れない苦痛に「沈黙」のタイトルが重なる。実際は何がどうなっていたのか、関係者取材による見立ても欲しかったが確かに困難だろう。友枝さん取材はこれで終わるとの言葉に天を仰ぐ。
優秀=山口放送 いろめがね 〜部落と差別〜
「他人事」とも捉えられがちな差別問題の、当事者の言葉、姿、熱を直近から映し出す。多数の関係者、当事者が語る中「知らないから怖い」の言葉が強く響く。情報による被害を冒頭で訴えつつ、なお「語る」こと、オープンであることの意義と力、それによって社会を変えたいという思いが静かに流れているようにうかがえる。加害者側に迫っても良かったかとも思われるが、情報が過剰と思われがちなネット時代に、真に「知る」機会はまだ足りないと気付かされる力ある作品。
優秀=長崎放送 夢とアブラ
カネミ油症の健康被害は将来にも次世代患者として引き継がれる恐れがあるという問題を、生の言葉と姿を通じて突きつける。不条理そのものの被害を訴える被害者たちの映像が強い一方、加害企業側の複雑な側面も含め、問題の多層性を考えさせる。当時は「夢」だった新技術が人間に牙をむいたこと、技術信仰の落とし穴を知らせるためのAIナレーションはやや違和感が先行し狙いを外した感もあったが、新機軸への意欲的挑戦といえる。長く続く重い問題に腰を据えて向き合った真摯な作品。
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