8月23日中央審査【参加/19社=19本】
審査委員長=大友啓史(映画監督)
審査員=岡室美奈子(早稲田大学坪内博士記念演劇博物館館長)、布施英利(美術批評家、東京藝術大学教授)、ブルボンヌ(エッセイスト、女装パフォーマー)
※下線はグランプリ候補番組
長引くコロナ禍で配信コンテンツを視聴する習慣が根づいたこともあり、テレビドラマに何を求めるのか深く考えさせられた審査会だった。
最優秀作品に選ばれた『最愛』は、構成が緻密で人の気持ちに丁寧に寄り添った完成度の高いドラマとして高く評価された。その一方で、青春の輝きとその後の怒濤(どどう)の展開という構図がドラマの王道ではあるものの、「現在」(いま)への応答が希薄なのではないかという意見もあった。
テレビは日常的なメディアだからこそ、私たちの生きる現在に敏感に向き合い、その先の世界をどう見通すかが問われる。性や恋愛、生き方をめぐる価値観も日々更新されつつある現在、作り手の側も絶えず感覚をアップデートし続けることが必要だろう。優秀作品に選ばれた5作品は、かたちは違えど、それぞれに新しいドラマを開拓しようとする志の高さが評価された。
最優秀=TBSテレビ/最愛(=写真) のどかな田舎町で互いに好意を抱きながら青春を謳歌していた真田梨央(吉高由里子)と宮崎大輝(松下洸平)は、渡辺康介(朝井大智)の失踪事件と梨央の父の死によって引き裂かれる。15年後、康介が白骨遺体で発見された10日後に康介の父(酒向芳)が殺されるところから、ドラマが動き出す。本作では、2つの殺人事件をめぐって愛する者のために秘密を守る者と暴く者の攻防が緊迫感を持って描かれた。視聴者を真犯人探しに巻き込みつつも、登場人物たちの心のひだを丁寧に描く情感豊かなドラマ作りによって、単なる考察ドラマに終わらず余韻を残す作品となった。現在と過去がシームレスに交錯する脚本の構成と演出、吉高、松下に加えて井浦新、薬師丸ひろ子らキャストの好演も光り、総合的なクオリティの高さが決め手となって最優秀作品に選出された。
優秀=日本テレビ放送網/ハコヅメ~たたかう!交番女子 公務員は安定しているというだけの理由で警察官となった川合麻依(永野芽郁)はハードな交番勤務についていけず辞職を考えていたが、刑事課のエースだったという藤聖子(戸田恵梨香)に出会い影響を受けながら、警察の仕事にやりがいを見い出していく。警察ものは派手なアクションが売りのマッチョなドラマや組織の腐敗を描くシリアスなドラマになりがちだが、女性警察官の視点からリアルな日常を描いたことで、これまでにない新鮮な警察ドラマとなった。とりわけコメディとシリアスと日常的なリアリティの絶妙な配分は特筆に値する。
優秀=フジテレビジョン/ミステリと言う勿れ 大学生の久能整(くのうととのう/菅田将暉)は世の中で当たり前とされてきたことへの疑問や違和感について淡々と語りながら何がおかしいのかを解き明かしていく。第1話の主筋は整の論理的思考による殺人事件の謎解きだが、それ以上に光ったのは、お飾りのように扱われいてる女性警官の風呂光聖子(伊藤沙莉)に対して、「権力サイドにいるおじさんたちは徒党を組んで悪事を働いたり都合の悪いことを隠蔽したりする」からこそ、あなたがいる意味があるのだと整が説くシーンだ。しかし既成の価値観を刷新するドラマなのに、風呂光が整に恋心を抱くという、田村由美の原作漫画にはない古いドラマのフォーマットを採用してしまったのは残念。
優秀=東海テレビ放送/おいハンサム‼ 伊藤源太郎(吉田鋼太郎)と妻・千鶴(MEGUMI)、男運の悪い3人の娘たち――長女・由香(木南晴夏)、次女・里香(佐久間由衣)、三女・美香(武田玲奈)――のゆるい日常や恋愛・結婚の悩みをコミカルに描き、クセになる独特の魅力を醸しだした。中年のおじさんサラリーマンは"うざい"存在として描かれがちだが、がんこで融通の利かない源太郎がなんともチャーミングで、既存の価値観でものごとを決めつけない柔軟な発想に唸らされた。キャスティングも冴えていた。伊藤理佐の『おいピータン‼』などいくつかの漫画をもとに山口雅俊が脚本・演出・プロデューサーを務めた作品。
優秀=関西テレビ放送/僕もアイツも新郎です。 ゲイカップルである瀬戸亮介(葉山奨之)と相川瑞樹(飯島寛騎)の結婚式当日、亮介の結婚相手が男性であることが家族に分かり、てんやわんやの大騒動が巻き起こる。結婚式当日まで男性同士の結婚であることを家族や友人にも隠していた設定には無理があるものの、式当日の一日に焦点を絞ったおかげで同性婚を取り巻く周囲の無理解や困難さが浮き彫りになった。同性同士の恋愛を描くドラマは多いが、祝福されるまでの具体的なディテールが丁寧に描かれたことで、単なるハートフルコメディでは終わらないリアルなドラマとなった。
優秀=テレビ大阪/ホメられたい僕の妄想ごはん 食を扱ったドラマは数多いが、仕事でもバンドでも謝ってばかりの自信のない主人公の「ぼく」こと和田理生(高杉真宙)が、妄想の中で料理を褒められ自信をつけていくという設定は斬新で、他のグルメドラマとは一線を画した。とりわけ調理のシーンは、音楽にのせてミュージックビデオ風に撮られており、新しい表現となっていた。ただ、最後に食べてくれる幼馴染みの鮎川智子(小野花梨)だけがリアルだったというオチは若干興ざめで、妄想道を突っ走ってほしかった。
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