【審査講評】現代的で豊かな知性と情操を育む(2024年民放連賞青少年向け番組)

藤田 真文
【審査講評】現代的で豊かな知性と情操を育む(2024年民放連賞青少年向け番組)

8月20日中央審査【参加/25社=25本】
審査委員長=藤田真文(法政大学社会学部教授)
審査員=岡本美津子(東京藝術大学副学長/大学院映像研究科教授)、比嘉里奈(日本PTA全国協議会副会長)、渡辺真理(フリーアナウンサー)


今年の審査では「青少年に見てもらいたい番組とは何か」について、次のような観点を共有しながら、議論を進めました。青少年に①前向きになる視聴後感を残す番組、②新たな知識を提供する番組、③自分たちがよく描かれていると感じられる番組、そしてさらに④多様性、社会的包摂、SDGsなど現代的な課題を扱っている番組。これらのいずれか、または複数の要素を盛り込んだ番組に高い評価がつきました。

最優秀=BS朝日/バトンタッチ SDGsはじめてます #142「青鳥特別支援学校 夏の挑戦」(=写真)
東京都の青鳥特別支援学校で「野球をやりたい」という生徒の声に応え、硬式野球部を作り上げた久保田浩司先生の熱意が素晴らしい。障がいのある生徒が硬式野球をやるのは危険だと反対もあったが、安全対策をまとめ東京都高等学校野球連盟の加盟まで果たした。守備、バッティング、走塁とできることが一つ一つ増えていった生徒たちの表情が実に生き生きとしている。久保田先生はさらに活動を広げ、知的障がいがある生徒の甲子園挑戦を支援する「甲子園夢プロジェクト」の発起人となる。そして青鳥特別支援学校の生徒たちは、他校との連合チームで2023年に全国高等学校野球選手権の予選出場を果たす。障がい者スポーツの可能性を広げることを検討協力した高野連や、連合チームへの参加を快諾し練習や試合に受け入れた他校の監督や生徒も含め、社会的包摂についての学びが多い番組であった。

優秀=長野放送/NBSフォーカス信州 伝え続けるー86歳の戦場カメラマンー
戦場カメラマンとしてベトナム戦争の実像を伝えた石川文洋さん。86歳の現在も現役で災害現場などを取材する。その一方で学校を訪問し、戦場がいかに非人間的な行為を生み出す場であるかを訴える講演活動を続けている。番組は、石川さんが出身地沖縄県の大学生・高校生を伴い、ベトナムの戦争証跡博物館や枯葉剤被害者の療養所を訪れる平和研修に同行する。過去の戦争の教訓を風化させずに伝え、沖縄の若者たちが現代の戦争や基地の意味を考えることに結びつけていくことの大切さを実感できた。

優秀=テレビ大阪/やさしいニュース
子どもにもわかりやすい、また社会的に弱い立場の人に寄り添うとの二重の意味で「やさしい」ニュース番組を、レギュラー枠で制作し続ける姿勢が評価された。応募作品は、奈良県のカレー店で子どもの未来を応援する「未来チケット」を大人が買い、チケットを使い地域の子どもが無料で食べられる「げんきカレー」を紹介する。英会話教室も経営する店主が、月謝を払えない生徒がいると知ったことから始まった取り組みだった。つらい環境にある子どもが励まされ、大人も貢献できることがあると感じさせる内容だった。

優秀=南海放送/いきものだいすき〜自閉症のアニマル画家 石村嘉成
色鮮やかな版画やアクリル画で動物画を描く石村嘉成さん。自分の絵を見て元気になって帰ってほしいと言うが、彼の絵や絵に添えられる「自分のままでいい」「負けないぞ負けるな」などの言葉をみると、本当に前向きな気持ちなれる。番組は愛媛県美術館で開催される個展に向け制作した大作の「キリンの家族」を、石村さんが描き上げていく過程に密着する。彼の集中力に驚かされる。構成、撮影、編集、ナレーション、家族を含む取材対象との距離感、すべてにおいて優れた番組であったからこそ伝わってくるものがある。

優秀=南日本放送/どーんと鹿児島 語り継ぐこと〜高校生が見つめた奄美日本復帰70年〜
米軍施政下の奄美群島が日本に復帰してから70年となる年に、高校生たちが島々をめぐり戦争経験者の話を聞き取っていく。その中には高校生の復帰運動にアメリカ兵がトラックを貸してくれた、沖永良部と与論を残して復帰させるとの二島分離報道など、知らない郷土の歴史がたくさんあった。高校生たちは聞き取りをわかりやすいスライドにして、中学校で訪問授業を始める。苦しい悲しいだけの歴史と思っていたが、奄美にはそれを乗り越える力があったとのアイデンティティを高校生自身が見い出したことが素晴らしい。


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