1月発表「2022年度のテレビ、ラジオ営業収入見通し」は下方修正の見込み ~スポットに大幅減収の可能性浮上~

木村 幹夫
1月発表「2022年度のテレビ、ラジオ営業収入見通し」は下方修正の見込み ~スポットに大幅減収の可能性浮上~

今年1月28日、民放連研究所は、「2022年度のテレビ、ラジオ営業収入見通し」を発表した。そこで示した22年度営業収入の予測値は図表1、2のようなものであった。経済のコロナ禍からの回復基調継続などを受けて、テレビ、ラジオとも21年度に続いて増収になることを予測している(民放連ウェブサイトに要約版、同サイトの会員ページに詳細版を掲載)。

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<図表1 テレビ営業収入の予測値(民放連研究所、2022年1月28日)>

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<図表2 ラジオ営業収入の予測値(民放連研究所、2022年1月28日)>

リスク要因のほとんどが顕在化

この予測値は、2112月に実施した民放連会員社へのアンケート調査と22年1月初旬までに入手可能であった日本経済、企業収益に関する情報をもとに民放連研究所が推計したものである。同予測では、22年度予測のリスク要因として、①新型コロナ感染拡大継続、②物価の上昇、③大幅な株安の進展、④ウクライナ情勢と米中経済、資源価格のさらなる上昇、の4つを挙げた。

このうち、新型コロナ感染拡大については、この予測の前提どおり、新規感染者数の水準は低くないものの、緊急事態宣言、まん延防止等重点措置とも3月末までに全国的に解除され、経済・社会活動は平常化に向かいつつある。しかし、物価については、消費者物価は4月以降、前年比2%超程度の水準での推移だが、企業物価は前年比9%を超える水準での推移が年初より継続している。また、株は長期金利の上昇や海外における急速な金融引き締めにより、国内、海外とも明らかな下降局面に入っている。最大かつ最も広範囲に影響を与える可能性があるリスク要因と言えたロシアによるウクライナ軍事進攻は現実のものとなり、エネルギーだけでなく、幅広い資源価格や食料価格が高騰している。4つのリスク要因のうち、3つまでが顕在化した。

日本経済、企業収益の前提は大幅下方修正

このため、テレビ、ラジオ予測の前提となる日本経済、企業収益の予測値は、1月予測時点で、22年度実質GDP成長率は3.0%増であったものが、現時点(6月)では1.6%増。同じく22年度法人企業経常利益は1月時点で13.6%増益であったものが、6月時点では22.0%減益と大幅な下方修正になっている(いずれも日本経済研究センター「改訂第190回四半期経済予測」[22年6月9日]より)。ちなみに法人企業経常利益はコロナ禍の20年度でも15.6%減益であった。

経常利益の大幅な減益局面への転換の主な要因は、急速な円安と資源価格等の高騰による企業物価の上昇を販売価格に転嫁しきれないためである。この要因による減益局面への転換は22年46月期から顕在化するとされており、夏場を経て、10-12月期には50%近い大幅減益が予測されている(図表3)。

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<図表3 日本経済、企業収益の四半期別予測>

企業の大幅減益はスポットを直撃

テレビ放送事業者の収入の中核であるスポット収入は、景気変動、特に企業利益の動向の影響を大きく受ける。民放連研究所が作成した法人企業経常利益(前年同期比)で四半期別のテレビスポット(前年同期比)を説明する回帰モデルによる予測結果を、東阪名と北海道・福岡別に図表4に示す。

〇東阪名15社               〇北海道・福岡10

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<図表4 四半期別テレビスポット予測(前年同期比)>

足元でモデルの適合度はかなり良い。前提とした法人企業経常利益の水準が実現すれば、テレビスポットは22年4-6月期より明確なマイナス局面となり、4-6月期同様のマイナス水準になる7-9月期を挟んで、10-12月期には20%を大きく超える大幅なマイナスになる可能性がある、との予測である。この予測が実現すれば、22年度四半期テレビスポットの年平均増減率は、東阪名、北海道・福岡とも約14%減となり、コロナ禍の20年度の水準(東阪名13%減、北海道・福岡11%減)とほぼ同水準になる。

AIモデルでも秋より大幅減に

民放連研究所では、昨年末より、四半期スポット予測モデルに加え、月次スポット予測モデルも運用している。月次モデルは、景気動向指数(CI)の先行系列を構成する11の指標を説明変数候補に用いた機械学習モデル(AIモデル)である。これらの指標がテレビ、ラジオスポットに6カ月先行するとの仮定の下、5月から10月までの月次スポット前年比の予測も実施した。結果を図表5と6に示す(4月までは実績)。

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<図表5 AIモデルによる月次テレビスポットの予測(前年同月比)>

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<図表6 AIモデルによる月次ラジオスポットの予測(前年同月比)>

テレビスポットは5月以降、下降トレンドになり、10月には東阪名で81.3、北海道・福岡で89.490を割り込む。ラジオスポットも同様に5月以降下降トレンドであり、中波、FMとも10月には80台前半の水準になる。

月改訂予測ではテレビ、
ラジオともスポットを大幅に下方修正か

月の「テレビ、ラジオ営業収入見通し」は、毎年9月に改訂している。9月改訂は、1月予測同様、8月に実施する会員社へのアンケート調査結果とその時点での日本経済、企業収益の予測をもとに行う。1月予測でも前年の五輪の反動でマイナス予測だったテレビのタイムについては、それほど大きな下方修正にはならない可能性が高い。また、テレビ、ラジオとも、22年度のその他事業収入は、いまだコロナ禍による大幅減から回復する途上であるため、これも大きく下方修正する可能性は少ない。従って、20年度のテレビ11.3%減、ラジオ16.0%減という水準を上回る大幅減収になることは考えにくい。

とはいえ、テレビ、ラジオとも2%を超える増収を予測していた年初予測からは、全体として大きく下方修正する可能性が高まっている。9月改訂予測は9月末に発行する「民放経営四季報 秋」誌上で発表する(民放連会員社に送付するとともに、民放連ウェブサイトの会員ページにアップする予定)。

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