仏無料放送連合の有料配信サービス"Salto"  立ち上げ2年あまりで廃業へ

編集広報部
仏無料放送連合の有料配信サービス"Salto"  立ち上げ2年あまりで廃業へ

フランスの公共放送フランス・テレビジョン(FTV)は1月20日(現地時間)、経営委員会(CSE)の臨時会合を開き、赤字続きのジョイントベンチャー(JV)「Salto」(フランステレビジョンとTF1、グループM6の民放2社が立ち上げた有料動画配信サービス)からの撤退を協議した。会議の出席者によると、FTVのエルノット社長が、民放2社との意見の対立などを理由に、「Saltoを諦めなければならない」と語ったとのことだ。均等に株を持つ民放2社がすでに昨年11月、撤退を表明していたため、今回のエルノット社長の発言で、saltoは完全に後ろ盾を失ったことになる。近日中に売却先が見つからなければ、「放送連合の試み」はわずか2年あまりで廃業となる。

「放送連合によるSVOD計画」は、急速に台頭した米大手配信サービスへの対抗策として浮上し、マクロン政権からも支持を得ていた。2018年6月、FTVは民放最大手TF1や2番手のM6グループとJVsalto設立を決め、均等に出資して共同で事業に取り組むことを表明した。

しかし、「フランス版ネットフリックス」として業界の注目を集めたSaltoは、スタート時から苦難に見舞われる。アメリカのディズニー+が、コロナ禍のロックダウンが始まった20年4月にフランス進出を果たすなか、Saltoの共同株主3社は、コロナ禍による影響を懸念してサービス開始を20年春から10月に延期し、国内のVOD需要が高まった好機に市場参入するチャンスを逃した。加えて、公正取引委員会がSaltoの承認条件として、放送やデジタルプラットフォームとのクロスプロモーションを禁じたことが足かせとなり、サービスの認知度が上がらなかった。

オリジナル作品を揃えて奮闘したものの、21年の年間売上は1,710万ユーロに留まり、同年12月時点でかろうじてアップルTVと並ぶ程度の利用シェア(8.6%)を獲得したが、半年先行したディズニー29.5%)やトップのネットフリックス(63.1%)など、米大手の優位を覆すことはできなかった。

さらに、Saltoを2年あまりで廃業に追い込む契機となったのは、グループM6の売却計画だった。これは、同社の支配権を持つ独大手メディアのベルテルスマンが、全持ち株の売却を決めたためだ。仏有料TVのカナルプリュスを所有するヴィヴェンディや、TF1の親会社(ブイグ)らが水面化で獲得競争に動きだしたのは、Saltoのサービスが開始されてまもなくのことだった。

最終的にグループM6とTF1との合併案が残り、規制当局による審査が進められるなか、saltoの将来については、株主3社の間で暫定合意(=合併が正式承認されれば、FTVは持ち株を民放側に売却しSaltoから撤退する)が結ばれた。実は、この時点(22年6月)で「放送連合による共同事業」というSaltoの起業精神は、失われていたとも言える。

その後、規制当局の強い反対があり、TF1とグループM6は合併を断念。22年9月、ベルテルスマンはグループM6の売却計画を一旦白紙に戻したのだが、Saltoの運命は11月に暗転する。民放側が揃って事業撤退を表明したためだ。民放2社の株をFTVが買い取る考えはなく、別の買い手探しが始まったものの、噂されたアマゾンやヴィヴェンディとの交渉は進展しておらず、現段階で有力な候補はないとのことだ。

実のところ、Saltoの利用シェアも22年1月をピークに下がっている。ロシアのウクライナ侵攻による物価高騰で、人々のSVODへの支出や契約サービス数が減っており、Saltoも影響を受けている格好だ。

地元メディアによると、Saltoの累積負債額は3社合わせて2億ユーロに及ぶとされ、さらに毎月約600万ユーロの損失を出している。そのため、早期にSaltoを廃業し、同社のアセットを切り売りして損失の一部を回収するしか選択肢がなくなってきている。とりわけ公共放送のFTVに対しては、赤字が続くSaltoからの撤退を求める声が、フランス議会の元老院からも上がっており、待ったなしの状況だった。

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