2022年春クール総括 「17才」の鬱屈した想い、中年男性や働く女性の困難など描く 競合枠との差別化にも挑戦

成馬 零一
2022年春クール総括 「17才」の鬱屈した想い、中年男性や働く女性の困難など描く 競合枠との差別化にも挑戦

2022年春クールのドラマは、新しい試みに挑戦した意欲作が印象に残った。

その筆頭が、NHKの土曜ドラマ(土曜22時枠)で放送されていた『17才の帝国』だろう。本作は政治AIによって統治された実験都市ウーアの総理大臣に就任した17才の高校生・真木亜蘭(神尾楓珠)が主人公のSF青春ドラマだ。制作統括は連続テレビ小説『あまちゃん』や大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』を手がけたNHKの訓覇圭。プロデューサーは『カルテット』(TBS系)や『大豆田とわ子と三人の元夫』(関西テレビ・フジテレビ系)を手がけた関西テレビの佐野亜裕美。そして、脚本は『けいおん!』『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』『平家物語』といったアニメの脚本家として知られる吉田玲子など、多彩なメンバーが揃った。細部まで作り込まれた世界観と、10代の少年少女を中心とした青春ドラマ、そしてAIによる政治が行なわれたらどのようなことが起きるのか? という政治シミュレーションの要素が盛り込まれた本作は、テーマ、映像、プロダクションデザイン、脚本、芝居といったあらゆる面で新しいことを試みようという意思が感じられる、志の高い作品だった。

サンセット・ジャパン(経済の日没)と語られる日本の惨状は、近未来(202X年)という設定だが、急速に円安が進む中でドラマを観ていると、背筋が凍るようなリアリティが感じられた。観るべき要素の多い作品だが、フィクションを通して「没落していく日本」と真正面から向き合おうとする作り手の姿勢に心が打たれた。全5話という短さゆえに、物語が駆け足となってしまったのは惜しいが、最終話まで見終えると、一気に駆け抜けていく速度も含めて、本作の魅力だったと感じる。

解釈の幅が広く、年齢や立場によって見方が大きく変わる作品だ。これから17歳になる子どもたちには政治について考える入り口に、いま17歳の少年少女にとっては思春期の鬱屈した想いを受け止めてくれる心の防波堤に、そしてかつて17歳だった大人たちにとっては「心の奥底で眠っている17歳の自分」と再び、出会わせてくれる作品だった。この『17歳の帝国』自体が、実験都市ウーアのような、ドラマの可能性を広げる作品だったと言えるだろう。

大人になってもふてぶてしい二宮和也の芝居を堪能
着地場所を求め足掻く姿を演じる木村拓哉

TBS系の日曜劇場(日曜21時枠)で放送された『マイファミリー』は、誘拐事件を題材にしたサスペンスドラマ。事件の謎や犯人の「考察」が盛り上がり、今クールのドラマの中で一番の話題作となった。

ゲーム会社の社長・鳴沢温人(二宮和也)の娘が何者かに誘拐される場面から始まり、犯人と警察の間で板挟みとなる中で、なんと娘を取り戻そうとする姿は、製靴会社の重役が誘拐事件に巻き込まれる姿を描いた黒澤明の映画『天国と地獄』の令和版と言える内容で、オンラインゲームや動画配信の見せ方がとても上手だった。

何より素晴らしかったのは、本作で主演を務めた二宮和也のふてぶてしさ。ワンマン社長の鳴沢は仕事に没頭するあまり家族をないがしろにしており、夫婦関係も冷めきっていた。彼が節々で仕事仲間や家族にみせる素振りはどこか人を見下しているようで、第一話の印象は最悪だった。そんな鳴沢が誘拐事件をきっかけに自分のダメなところ向き合い、家族を守るために父親として再生していく姿が本作一番のみどころだ。国民的アイドルでありながら、陰気な青年や生意気なチンピラを演じさせると二宮は魅力的だったが、アラフォーとなった現在でも、その存在感は変わらない。妻の未知留が「山田太郎ものがたり」(TBS系)で共演した多部未華子だったことも嬉しい配役で、大人になってもふてぶてしい二宮の芝居が堪能できたドラマだった。

同じジャニーズアイドルの木村拓哉が主演を務めた『未来への10カウント』も、中年男性が自分自身の中の"弱さ"と向き合うドラマとなっていた。テレビ朝日系で木曜夜21時から放送されていた本作は、ボクサーとしての夢に挫折した後、度重なる不幸が続き「いつ死んでもいい」と自暴自棄になっていた桐沢祥吾(木村拓哉)が母校のボクシング部のコーチとして高校生の若者たちと向き合うことによって「生きる気力」を取り戻していくドラマ。

脚本は、木村拓哉が型破りの検事を演じた『HERO』(フジテレビ系)の福田靖。近年の木村は、何らかの理由で仲間を失い、仕事に挫折した男が再チャレンジするという話が多い。国民的アイドルとして完璧なヒーローをドラマ内でも演じてきた木村が、自分の弱さと向き合い、着地場所を求めて足掻く姿は、彼と同世代である70年代生まれの筆者にとって他人事とは思えず、シンパシーを覚えた。

お仕事ドラマの傑作『悪女(わる)~』と
怪作『メンタル強め美人白川さん』

『マイファミリー』と『未来への10カウント』が中年男性の困難を描いたドラマだとすると、働く女性の困難を描いたのが『悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~』(日本テレビ系)だろう。

日本テレビの水曜ドラマ(水曜22時枠)で放送された本作は、1988年から97年にかけて連載された深見じゅんの漫画「悪女(わる)」が原作だ。92年に一度ドラマ化されたが、今回の「悪女(わる)」は時代を現代に映したリブート作品。落ちこぼれ社員の田中麻理鈴(今田美桜)は、同じ会社で働く憧れのTOさん(向井理)と出会うために、先輩の峰岸雪(江口のりこ)から出世の極意を学ぶことで、働くことの楽しさを知っていくという物語は原作どおりだが、職場のディテールが過去作とは微妙に変わっているのが令和版「悪女」の面白さだ。クライマックスでは、麻理鈴の師匠の峰岸が社内の女性管理職を5割に増やす「JK5」プロジェクトを推し進めていく様子が描かれるのだが、「JK5」によって社内の空気が荒れていく様子は、女性にとっても男性にとっても身につまされる演出こそコミカルだが、社会的なテーマを扱ったお仕事ドラマの傑作となっていた。

一方、よりパーソナルな視点から「働く女性の困難」を描いたのが、テレビ東京系の深夜ドラマとして放送されていた『メンタル強め美人白川さん』である。営業事務として働く白川桃乃(井桁弘恵)はポジティブ思考のおしゃれでかわいい女性。そのため、周囲の女子社員から嫉妬されることが多かったが、いつも前向きな思考で、悪意のある言葉や嫌がらせをはねのけていく。

劇中では白川さん以外の社員にも焦点が当てられるのだが、ドラマとして面白いのは、悩みを抱えている登場人物の心の声が演劇の台詞のように大声で独白されること。さまざまな登場人物の視点を通して浮き上がってくるのが、ポジティブで前向きな思考で自分の心を守り、他人の悪意を遮断するカーテンを引かなければ生きていけない白川さんたち働く女性が抱える生きづらさだ。おしゃれでポップな明るく前向きな話に思えるが、その裏側にある闇の部分までしっかりと描いたお仕事ドラマの怪作である。

同じ深夜ドラマでは、毎日放送のドラマ特区で放送された『教祖のムスメ』も印象に残った。本作は、元フジテレビの藤野良太(プロデューサー)と金井紘(監督)が脚本家の中村充俊とともに立ち上げたコンテンツスタジオ「storyboard」が企画・制作したオリジナルドラマ。ある高校に、謎の少女・桐谷沙羅(茅島みずき)が転校してきたことで、次々と怪事件が起こる様子を描いたサスペンステイストの学園ドラマとして物語は始まり、やがて、死刑が目前に迫ったカルト教団の教祖が起こした集団自殺事件にフォーカスが当てられる。近年、注目が集まる宗教二世の問題を、ドラマという枠組みの中で描いた社会性とエンタメ性が備わった作品となっていた。

フジ水22時 アクションで青春描く枠として定着を

最後に触れておきたいのが『ナンバMG5』。フジテレビ系で新たに作られた水曜22時からのドラマ枠で放送された本作は、ヤンキーと優等生の二重生活を送る難破剛(間宮祥太朗)を主人公にした学園ヤンキードラマ。『踊る大捜査線』(フジテレビ系)シリーズで知られる本広克行がチーフ演出を担当しているだけあって映像は細部まで作り込まれており、ヤンキー同士の激しいアクションと笑いと感動が矢継ぎ早に押し寄せてくる、勢いのあるドラマとなっていた。

前述した『悪女(わる)』と同じ水曜22時の放送だったが、日本テレビの水曜ドラマが働く女性を主人公にした作品を作り続けているのに対し、フジはヤンキードラマの『ナンバMG5』を第一作に持ってくることで、差別化に成功した。現在、同じ枠で放送されている『テッパチ!』は陸上自衛隊を舞台にした青春群像劇だが、アクションを通して男の子の青春を描くドラマ枠として定着してほしい。

(敬称略)

最新記事