今年で戦後78年。民放テレビ各局は終戦記念日である8月15日周辺に特番や特集などを組んだ。このうち、特徴的だった6社の事例を紹介する。
アメリカ人から見た原爆
テレビ大分は8月11日、特番『或る米兵の写真~孫がたどった祖父の戦争~』(15・50―16・45)を組んだ。大分で外国語指導助手(ALT)として働くアメリカ出身のトレバー・スレビンさん(=冒頭写真)が、祖父が遺した写真を手がかりに戦争の記憶を調べる姿を追った。アメリカ海兵隊員として太平洋戦争に従軍した祖父は、原爆が投下されて間もない長崎を任務で訪れ、街や人を撮影した写真21枚を遺していた。トレバーさんは長崎で写真の場所を特定し、祖父の足跡をたどった。
報道制作部の白井信幸記者は「過去の戦争の話にせず、現代にも通じるよう、アメリカ人の考える『核』や『戦争』をテーマに、トレバーさんの本音に迫る取材を心がけた」とコメント。取材は2019年秋から始め、写真の撮影場所が撮影された場所の調査や、祖父の足跡を追って分かったことを講演で伝える姿、家族の来日など、トレバーさんの活動の軌跡を描いた。
また、写真をきっかけにトレバーさんは家族から祖父のことを聞き、除隊後に戦地の悪夢に悩まされ、PTSDのような症状がみられたことなども明らかに。白井記者は「戦争には勝者も敗者もないとあらためて実感した」と振り返る。視聴者からは「アメリカ人にスポットを当てたことが新鮮だった」「若い世代が伝え続けなければならないと感じた」などの反響があったという。白井氏は「戦争経験者が少なくなる中、トレバーさんのような若い世代の取り組みがますます大切になると思う」としている。
<トレバーさんの祖父と原爆投下後の長崎で撮った写真>
広島テレビは7月29日、ドキュメンタリー枠「WATCH」で『キノコ雲の上と下 祖父は、ふたつの原爆を見た』(24・55―25・25)を放送した。アメリカ人の映像作家のアリ・ビーザーさん(=写真㊦)と被爆3世の原田小鈴さんにフォーカスを当てた。アリさんの祖父は広島と長崎に原爆を投下した両方の爆撃機に搭乗した唯一の人物。一方、原田さんの祖父は出張で訪れた広島で被爆し、その3日後に満身創痍でたどり着いた故郷・長崎でも被爆した二重被爆者であった。
アリさんと原田さんは2013年から交流を続けており、アリさんが原爆に関する新たなドキュメンタリー作品を制作するにあたり、2023年3月に原田さんを訪ねて取材する姿を映した。ディレクターを務めた報道部の小田成実記者は「2人をとおして、戦争がもたらすもの、次の世代は何を伝えなくてはならないかを発信しようと思った」とコメント。番組では、2人の平和を訴える活動や思いを伝え、平和の意味を考えた。
番組の最後は原田さんの祖父が遺した言葉「本当のこと、真実は国境を越えて伝わっていくだろう。たとえその伝える声が初めは小さくとも、そのささやきを聞く人はいるはずだ。だから諦めてはいけない」で締めくくった。小田記者は「この言葉は、国境を越えて平和を訴えるアリさんの活動そのものだと思う。私たちも被爆地の放送局として、諦めずに発信を続けなくてはならない」と意気込む。
<広島平和記念資料館を訪れたアリさん>
調査から見えるもの
信越放送は8月16日、特番枠「SBCスペシャル」で『お寺と戦争と私』(19・00―20・00)を組んだ。浄土真宗本願寺派(西本願寺)が2022年、全国1万あまりの寺院を対象とした戦時調査の報告をまとめたことをきっかけに、仏教の戦争協力をひもとく番組を企画。プロデューサーを務めた制作部の手塚孝典氏は「不殺生や衆生の救済を説く仏教が、なぜ天皇制国家主義に迎合して戦争を推し進めることに加担したか、加害の視点から検証したいと考えた」とコメントしている。
各地を訪ね、僧侶たちの戦争の実像に迫った。手塚氏は「戦時中の膨大な資料の調査、全国の寺院が所蔵する資料をたどることに労力を費やした」と振り返る。京都の西本願寺では、戦時調査の中心的な役割を担った龍谷大学の新田光子名誉教授を取材。真宗大谷派(東本願寺)の中山量純さんには、朝鮮や満州への侵略に加担した宗派の不都合な歴史を聞いた。このほかにも、広島の寺院の資料から当時の僧侶の心情や、長野にある石の梵鐘の寺で戦争を風化させない思い、和歌山で非戦を貫いた僧侶の物語など、多角的に検証し、非戦や平和への道筋を考えた。
一般的に関心が薄いテーマであることなどから、同社のラジオ番組でパーソナリティを務めるフリーアナウンサーで西本願寺の僧侶でもある海野紀恵さんをナビゲーターに起用。視聴者が海野さんの取材を追体験しながらさまざま事実を知ることができるような構成とした。視聴者からは「仏教と戦争の歴史を初めて知った」といった意見が多く寄せられたという。
<広島で資料を見る海野さん>
ABCテレビは、テレビ朝日系列局が週替わりで制作するドキュメンタリー枠「テレメンタリー」で『国境へ集結せよ モンゴルに残るソ連軍 満州侵攻の痕跡』(同社=8月13日、4・50―5・20)を制作した。1945年にソ連軍が秘密裏に満州へ侵攻できた理由の一端を解明することを目的に企画したという。
ソ連軍がモンゴルに作った秘密基地や鉄道網などを明らかにしてきた歴史研究家の岡崎久弥さんの調査を取材。衛星画像でモンゴルと中国の国境付近に無数の掩体壕(えんたいごう・軍用機を敵の空襲から守るために掘った穴)の跡を見つけ、現地で調査することに。掩体壕の周辺からはドイツ製の食器やソ連軍のトラックの残骸を発見し、それらの痕跡がソ連軍による満州侵攻のものだと裏付けられた。
掩体壕など草原に広がる痕跡をドローンで撮影することに注力した。このため、現地での充電ができるよう、昼間に可搬型太陽光パネルから自動車用バッテリーへ、夜間にドローンのバッテリーへ充電。バッテリーは4つ用意し、さまざまなカットの撮影にチャレンジした。また、現地遊牧民もいないような過酷な道のりであったため、調査を断念する可能性もあったという。ディレクターを務めた報道局ニュース情報センターの吉原宏史氏は「調査では空振りもあったが、満州侵攻のものだと裏付けられる痕跡を見つけられたことは現地調査の大きな成果だ」とコメントした。
<掩体壕を調査する様子>
ウクライナ侵攻をめぐる世界情勢
長崎放送は8月1―4日、7―8日、平日夕方のワイド番組『Pint』で特集シリーズ「被爆78年 NO MORE...」を全6回で放送した。ロシアによるウクライナ侵攻などで核兵器使用のリスクが高まるなか、「二度と使ってはならない」との思いを込め、さまざまな切り口から原爆を考えた。
第1回では、核兵器をめぐる世界情勢やG7サミットについて、長崎大学核兵器廃絶研究センターの中村桂子准教授を取材。中村氏はG7の枠組みで核問題を考えることに限界が見えたとの見解を示した一方、G7サミットに関連する市民イベントにおいて環境問題やジェンダーなど他の問題に取り組む人たちから、核問題にも取り組んでいこうという声があがったことに希望があると説明した。報道制作部の早田紀子記者は「一人ひとりが行動を起こすことで、大きな力になり得ると伝えたかった」と特集の狙いを明かした。
このほか、被爆者や被爆2世である鈴木史朗長崎市長らを特集。昨年度に続き、地元出身の女優・宮﨑香蓮さんが被爆者を取材する企画も組み、若い世代への訴求も目指した。早田記者は「『正しい核保有国』であれば核兵器を持ってもよいと考える人が長崎ですら増えてきているように感じる」と現状を分析し、「『核兵器はなくすしかない』ということを率先して訴え続ける使命がある。『長崎の声』を放送で支えていきたい」と意気込む。
<中村桂子長崎大学准教授を取材>
北海道文化放送はYahoo!ニュースとの連携企画で、ロシア・モスクワの様子を伝える特集記事を発信した。同社の関根弘貴モスクワ特派員が、モスクワで起こったドローン攻撃やワグネルの反乱があった際の自身の感想や街の様子を紹介。あわせて、戦争している国とは思えないほど"いつもどおり"の光景が広がる街や、生徒数が減少しているモスクワの日本人学校の現状を伝えた。
特集を企画した報道情報部の喜多真哉氏は「ウクライナ侵攻の報道において、モスクワの市民や邦人の動向を追ったものがほとんどなかったことから企画した」とコメントした。映像取材は現場に負担がかかることから、テキストと写真で記事を構成し、同社ウェブサイトやYahoo!ニュースに掲載。ページビュー(PV)数も多く、コメントも800件近く寄せられている。喜多氏は「読者がロシアの現状を知るための題材を提供できたと思う。隣国との深まる溝をどうすべきか、今一度考えてもらいたい」と語った。
<モスクワ中心部の世界遺産「赤の広場」の様子 ©北海道ニュースUHB>