2022年民放連賞最優秀受賞のことば(テレビCM) 東海テレビ放送 公共キャンペーン・スポット/生理を、ひめごとにしない。

桑山 知之
2022年民放連賞最優秀受賞のことば(テレビCM) 東海テレビ放送 公共キャンペーン・スポット/生理を、ひめごとにしない。

「タブー」という言葉の語源は、ポリネシア語で「生理」だそうです。生理はタブー。そんなふうに考える人が世界各地で存在します。日本国内も例外ではありません。相撲界やお祭りの一部催事などでは「女人禁制」が今も続いています。

仲の良い両親と三兄弟の末っ子として育った私。恥ずかしいことに、生理というものをきちんと意識し始めたのは、大学生ぐらいだったと記憶しています。人類が生きていくうえで必要不可欠なものなのに、なぜ認識できなかったのか、それは「なかったこと」にされてきたからです。家庭内で唯一の母親も、クラスメートの女の子も、学校の先生も、生理を"秘めごと"にして人に見せないようにしていたのと同時に、私自身も無自覚のうちに見ないようにしていたのです。 

社員300人ほどの東海テレビ内で生理休暇の取得状況を調べたところ、毎月利用している人がいることがわかりました。知られていないだけで、実は苦しんでいる人は存在するのです。

2019年に発達障害をテーマにしたドキュメンタリーCM「見えない障害と生きる。」を制作後、私は社会的マイノリティや刑事事件を主なテーマとして取材してきました。そんな中、とあるニュースで「生理の貧困」という言葉を目にしたとき、強烈な違和感を覚えました。果たして本当に生理用品の配置などといった支援が効果的なのか、もっと根本的な意識の変革が大切なのではないかと感じたのです。

周囲の女性に話を聞くと、「もっと気軽に話せるようになったらうれしいけど、オープンにずけずけと話してほしいわけではない」「知ってはほしいけれども、何かアクションを起こしてほしいわけではない」という声を多く耳にしました。相手との関係性にもよるとの意見もありました。"秘めごと"ではないものの、積極的に自分から話したいわけではない――。こうした機微を自分なりに咀嚼(そしゃく)しながら、制作に臨みました。

タイトルの「ひめごと」は"秘めごと"であり、"姫ごと"でもあります。女性の社会進出が途上の日本では、男性が女性のことを理解することが不可欠だと考えました。まずは自分の大切な人の生理がどういうものなのか知っておくことで、ともに生きるための準備ができるのではないかと思います。

インタビューの中で、上山真未アナウンサーはこのように話しました。「(生理について話すことは)局のアナウンサーとして求められていることではないかもしれない。でも今言わなきゃ、また言えなくなる時代が来る気がするから」。時折、言葉を詰まらせながら取材に応じてくれた彼女の覚悟は、並大抵のものではなかったと思います。

そして彼女は「一番変わらなければならないのは女性なのかもしれない」とも口にしました。生理は千差万別で女性同士でも知らないことが非常に多いことや、悪習を踏襲してきたことを受けた発言です。「女の敵は女」という言葉もありますが、批判を覚悟したうえで絞り出した一言でした。

作品中に登場する「生理研修」は、東海テレビ内の約30人に参加してもらいました。「結局俺らにできることなんてないでしょ」と言いながら参加する人もいましたが、いざ始まってみれば次々と噴出する質問の数々。勤続30年超のベテランが若手女性社員から教えを受ける姿を見て、自分の口から飛び出したのは「生理って、むしろ一番盛り上がる話題なんじゃないか」という言葉でした。生理がタブーでなくなったとき、そこには以前よりも優しい世界が確かに広がっていました。

このような栄誉ある賞を頂き、本当にありがとうございました。


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