「2023年度のテレビ、ラジオ営業収入見通し」 ~テレビは辛うじてプラス転換、ラジオは3年連続のプラスに~

木村 幹夫
「2023年度のテレビ、ラジオ営業収入見通し」 ~テレビは辛うじてプラス転換、ラジオは3年連続のプラスに~

民放連研究所では、毎年1月末に次年度の会員社の営業収入予測を公表している。本年は1月31日に「2023年度のテレビ、ラジオ営業収入見通し」報告会をオンラインで開催した。本稿ではテレビ、ラジオの全体状況を中心に、その概要について紹介する。

なお、地区別の予測値などを掲載している見通しの全文および報告会説明資料は、民放連会員サイト(ユーザー名、パスワードが必要)に掲載している。

予測の前提

今回の予測では、日本経済、企業収益について、日本経済研究センターの「第192回四半期経済予測」(20221115日公表、12月8日改訂)に準拠して、以下のような前提を置いている。

2023年の日本経済は、世界的な物価高騰・景気減速のなか、内需主導での回復が続く。個人消費は、エネルギー、食品価格の上昇などが実質所得を押し下げるものの、サービス消費がコロナ禍から正常化するプロセスが継続して、景気回復を主導する。為替レートの円安水準での推移、サービス業活動の正常化などを背景に企業の利益率低下は限定的なものになるため、設備投資は確実に増加していく。

・ただし、景気下振れのリスクはかなり大きい。米欧でのインフレ高進が想定以上に長期化した場合、一段と強力な金融引き締めが行われ、景気のさらなる減速により、輸出が一層停滞し、日本経済に大きなマイナス影響を及ぼすことが想定される。

具体的な予測値を図表1に示した。2023年度は、実質GDP0.8%増と22年度からは減速するが、物価水準が引きつづき上昇するため名目GDP2.9%増となる。企業収益は、増収は維持するが、物価上昇によるコスト増の影響などもあり、減益となる。

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<図表1.予測の前提条件

なお、テレビ、ラジオ広告費の水準に影響を与えているインターネット広告費の水準については、2023年は7.0%増との前提を置いている。

2023年度のテレビ営業収入予測:
タイム、スポットは微減も
営収合計では辛うじてプラスに

図表2に2023年度のテレビ営業収入予測の概要を示した。22年度上期のスポットは、前年同期が大幅増だったにも関わらず2.4%減と健闘したが、下期から急速に市況が悪化した。23年度のスポットも上期はマイナスが予測されるが、下期にはプラスに転じ、年度のスポットは全社で0.2%減とほぼ横ばい程度の水準を予測する。ただし、東阪名0.0%に対し、ローカルは0.7%減であり、東阪名の中でも関東広域圏1.0%増に対し、近畿、中京はどちらも2%強のマイナスを予測しているなど、全国的な回復は見込んでいない。タイムについては、22年度は、21年度の五輪の反動もあり比較的大きなマイナスになったが、23年度は全社で1.0%減と近年の平均的なマイナス水準を予測。

タイム・スポットが停滞する一方、コロナ禍からの正常化でイベント等を中心とするその他事業収入が全国的に増加する傾向が継続するため、23年度のテレビ営業収入全体は0.2%増と辛うじて増収に転換する。ローカルは全体で0.6%減とプラスにはわずかに届かないが、地区別では3分の1弱の地区で、いずれも水準は高くないものの、プラスを予測しており、全国的なマイナス予測ではない。独立局は全社で0.5%増と、22年度の微減から微増へ。通販番組/CMの需要に懸念があるなか、自治体案件の獲得や各種事業収入の掘り起こし、ネット・SNSと連動した広告企画などによる底上げが計画されている。

業種別の広告出稿では、会員社へのアンケート調査の回答では、22年度に広告出稿が低調だった自動車の回復への期待が多い。同様に、経済の完全正常化に伴い本格的な回復が期待される交通・レジャーや外食・各種サービスへの期待も多い。一方、22年度に不調だった化粧品・トイレタリーの復調への期待はローカル広告では非常に少なく、全国広告でも多くないのが特徴的。

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<図表2.テレビ営業収入予測の概要

2023年度のBSテレビ営業収入予測:微増を継続

BSテレビについては、広告を主要な収入源とする民放連会員7社の2023年度営業収入の合計は1.5%増(22年度1.2%増)と予測。経済がコロナ禍から正常化する過程での消費行動の変化に加え、物価高も通販番組/CMにとってマイナス材料となるため、各社とも通販以外の出稿確保に注力している。イベントやネット・メディアとの連動企画に加え、編成方針の差別化や新しい広告セールス手法の開発などさまざまな対策が模索されている模様。

2023年度のラジオ営業収入予測:
3年連続の増収。中短波、FMともにプラス。

図表3に2023年度のラジオ営業収入予測の概要を示した。23年度はラジオ全体で1.9%増とコロナ禍2年目の21年度以来、3年連続のプラスを予測する。中短波0.8%増、FM3.3%増と中短波は22年度の横ばいから微増程度の水準に転じ、FMは3%を超えるプラスへとプラス幅をやや拡大させる。ラジオ社収入の大部分を占めるタイムは中短波、FMともプラスだが、スポットについては、FMで水準はそれほど高くないもののプラスに転じる一方、中短波ではマイナスを継続すると予測。その他事業収入は、経済・消費活動の正常化に伴い、イベント収入のさらなる増加が期待されるため、中短波でもプラス見込みだが、特にFMで好調が持続することを見込む。

地区別の予測でも多くの地区で全体としてプラスを予測するが、中波についてはマイナスの地区も散見される。ただし、そのマイナス幅は1%未満と微減程度の水準。

業種別の広告出稿では、会員社へのアンケート調査の回答では、テレビ同様、交通・レジャーや自動車への期待が多いが、ラジオの特徴として、官公庁からの出稿への期待が多い。官公庁への期待はローカル広告だけでなく、全国広告でも多い。ほかには22年度に好調だったとみられる不動産への期待も多い。

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<図表3.ラジオ営業収入予測の概要

広告効果の"見える化"で出稿促進

2023年度のテレビ営業収入を予測するに当たっては、視聴率の動向も大きなカギを握っている。22年から顕著になったPUT(総個人視聴率)の低下により、スポットの供給量(PRP)が多くの地区および全国レベルでかなり低下している。景気は回復基調にあることを予測するとはいえ、23年度もPUTの低下が継続するのなら、企業収益が減益局面にある不利な状況下にあって、PUTの低下を補う以上の単価アップを実現できなければ、(ローカル局の場合、東京・大阪支社扱いの全国)スポットはマイナスになる。そのため今回の予測では、テレビスポットは、単価アップの可能性が高い関東広域に加え、アンケートの回答で(低い水準ながらも)プラスを予測した一部の地区のみでプラス予測とし、それ以外の多くの地区ではマイナス予測とした。

単価アップで増収を図るには、広告主に対してテレビ広告の効果を明示的に示し、納得して値上げに応じてもらう必要がある。テレビの広告効果をリーチや認知だけでなく、興味・関心、態度変容などのミドルファネル、さらには購買に至るプロセスで明示的に示せる営業活動の重要性がますます高まっていると言えよう。

これはラジオ広告についても同様だろう。営業の通貨として使用される媒体データが存在しないラジオでは、デジタルメディア・デバイスから得た各種データを利用してラジオの広告効果を明示的に提示し、広告主・広告会社に出稿を促すことが重要であり、そうした取り組みは既にいくつかの社で進められている。

デジタル技術を活用した広告効果の"見える化"は、ネット・メディアへの対抗の観点だけでなく、近年主流になっている、ネットと放送を組み合わせた広告キャンペーンにおける放送の役割や貢献度を明確にする意味でも重要である。

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