8月21日中央審査【参加/101社=101本】
審査委員長=鏡 明(評論家、元電通顧問、ドリル エグゼクティブ・アドバイザー)
審査員=奥貫 薫(俳優)、北脇朝子(マガジンハウス『an・an』編集長)、たかのてるこ(地球の広報・旅人・エッセイスト)
※下線はグランプリ候補番組
2023年の番組部門「テレビエンターテインメント番組」の審査は3年ぶりに対面で実施された。リモートであっても審査には支障がなかったが、対面の方が論議に白熱した雰囲気が加わったように思われる。最終審査に残った番組は、いずれも優れたものだった。バラエティ的な番組が例年より多く見られた。テレビの現在を反映した結果であり、またコロナ禍を乗り越えた結果でもある。歓迎すべきことだ。ドキュメンタリーとバラエティ的な番組の間の大きな差異をどう考えるか、毎年論議になるのだが、今年はそれがより明確なものになった。これはエンターテイメント番組の難しさでもあるが、この種目の面白さでもある。
最優秀=テレビ静岡/テレビ静岡55周年記念「イーちゃんの白い杖」特別編(=写真)
25年前に出会った全盲の少女の成長に寄り添って取材を続けた労作。何よりもまず自分たちの苦悩や困難を包み隠さず示してくれた主人公の少女と家族の勇気、そしてそれを可能にしたスタッフの努力に拍手を送りたい。ポジティブな面だけではなく、少女の挫折、いじめといったさまざまな障害も描くことによって、全体を深いものにしている。そして主人公が素晴らしいパートナーを見つけるという最後のエピソードに至る展開は、奇跡的なドラマのようでもあった。見終わった時には誰もが主人公と家族の幸せを願うようになるだろう。
優秀=山形放送/やまがたZIP!スペシャル 空飛ぶ車いす〜やりたいことをあきらめない〜
パラグライダーによって車いすで空を飛ぶシーンが、やりたいことを諦めないことの象徴になっている。難病や障害のある人たちに仕事と職業訓練の受け皿を提供するために、難病のある主人公が自分の夢であった自動車整備工場を立ち上げる。そこに集まってくる人たちの努力、そしてそれを支える南陽市の人たちの温かさ。都市社会から失われつつある人と人のつながり。これらを捉えているローカル局ではの視線が素晴らしい。
優秀=TBSテレビ/不夜城はなぜ回る
夜中に明かりがついている建物の中で何が行われているのか? 一人のディレクターの好奇心から、取材が始まり、番組が生まれる。テレビにそうした自由さが残っている。それを感じさせてくれた素晴らしい企画だ。古民家の模型作りをライフワークにする人、タイ野菜を売るタイの老人。なかなか出会うことがない人たちを教えてくれた。
優秀=中京テレビ放送/こどもディレクター
大人になっても親に尋ねてみたいことがある。子にカメラを持たせて親子の会話を収録させるというアイデアが秀逸。タイトルからは、幼い子どもを想定してしまうが、そうではなく、親子関係における子どもという設定に意外性があった。子どものカメラの前だからこそ親が本音で語ってくれる。そして親が自分の親に話を聞きに行くという展開まであった。現在の親子関係をもう一度考えさせてくれる番組だった。
優秀=関西テレビ放送/マッチング❤︎ハウス
「お宅拝見」と「恋愛」を組み合わせるというアイデアが、新鮮。部屋を見て相手の生活や職業を推測し、自分とのマッチングを考えるという仕組みが面白い。バラエティ番組の定番であるスタジオのゲストの反応の良さも、この仕組みを盛り上げることに寄与していた。ただ取り上げた部屋の雰囲気が似通っていたり、マッチングの結果も予定調和的で意外性に欠けていたのが惜しかった。
優秀=山口放送/幸せフラガール
瀬戸内海の周防大島で育った少女がフラに夢中になり、ハワイに留学するという話を軸に、離島の文化のあり方、そして日本人のハワイ移民の歴史など、多くの側面を立体的に組み立てている。単なる少女の成長物語以上のものを、という狙いがよくわかる。ただ盛り込みすぎのきらいもあり、もっと時間が必要だったかもしれない。
優秀=RKB毎日放送/まじもん! 〜福岡えこひいきクイズ〜
クイズのプロたちと福岡のタレントが対決するクイズ番組。けれども、福岡の人間しかわからない問題、出演者の一人にしかわからない問題が出るなど、クイズ番組ではありえない不公平な方法で、地元タレントを勝たせる。このばかばかしさに徹した番組を制作したスタッフに拍手を送りたい。
バラエティ番組が最優秀を取れないという結果が、この数年続いているが、他のジャンルの番組が優れているということではない。ジャンルの問題ではないということは明記しておきたい。来年も素晴らしいバラエティ番組が制作されることを期待している。
・各部門の審査結果はこちらから。