放送局にとって映像の出口は増加傾向にあり、番組を制作するうえで、いかに"効率よく"そして"質の高い"コンテンツを生み出せるかが今後さらに重要となります。これらの課題に対してアプローチすべく、AI業務支援システム「エイディ」を社内開発しました。
最初は1人でのプログラム開発から始まりましたが、今では40人近い制作者や技術者が「エイディキャンプ」というチームに参加しています。業務効率化や新しい番組表現に対して積極的な仲間たちと、導入から約1年という期間にもかかわらず数多くの活用実績を生みだしました。
エイディは入力された映像に対してAIを用いた画像認識を行い、さまざまな用途に応じた結果をデータや映像として出力するシステムです。クラウドサービスは用いずに開発したため、使用時もインターネット接続を必要としません。放送設備とのセキュアな連携が行いやすく、同時に映像をアップロードせずに内部で処理させることにより高速処理を可能とし、多くの生放送番組での活用を実現しました。
効果①「業務効率化・高度化」
2021年の夏季に開催された大型国際スポーツ大会で初めて活用し、国際映像内のテロップをエイディで認識して「英語テロップの日本語自動変換」を行いました。その後も、アーバンスポーツ、野球、バスケットボールといった複数競技のスコアボードなどの映像から「競技スコアの自動読取・入力」による番組制作の効率化・高度化、配信番組や天気予報の「コンテンツ自動監視」、さらには編集時に時間を要する作業の一つである「モザイク処理の自動化」など、幅広い現場における効率化を次々と実現しました。
効果②「新たな番組表現」
新たな番組表現を行う際には、番組制作者のアイデアにレスポンス良く対応できるスピード感が必要とされます。「マスク着用率の自動算出」や、「ボールの軌道CG」については、要望を受けた当日中にデモンストレーションを行い、番組方針の決定を遅延させることなく番組への導入を行いました。また、特定の選手を追従する「CGトラッキング」は編集映像の中で頻繁に用いられますが、エイディにより生中継でも活用できるようになり、番組表現の選択肢を広げることができました。
効果③「新しいCG合成」
エイディではさまざまな物体の形状を認識して、KEY信号を出力して合成することができます。従来、グリーンバックによる手法が背景CG合成に最もよく用いられていますが、グリーンバックの形状でしか合成できず、CGの形に合わせた合成は不可能でした。この課題を解決するとともに、物体の前後方だけでなく、物体間への合成もエイディにより可能としました。これは距離推定機能により、CG位置と実際の物体のどちらが遠いかを判別し、より遠い物体が隠されるようにKEY信号を出力することで成立します。これまでの生放送ではできなかった自由度の高いCG合成をエイディにより実現しました。
既に社内の多くの職場で活用できることが証明されましたが、制作番組のみならず、業界を超えた応用も期待できると、多くの声が寄せられています。
さまざまな要望に対して幅広く応えられるよう、今回の受賞を励みに今後もさらなる開発を進めてまいります。