2023年民放連賞審査講評(青少年向け番組) 共感や社会的課題を意識させる

金山 勉
2023年民放連賞審査講評(青少年向け番組) 共感や社会的課題を意識させる

8月22日中央審査【参加/24社=24本】
審査委員長=金山 勉(ノートルダム清心女子大学教授)
審査員=最相葉月(ノンフィクションライター)、佐藤博之(日本PTA全国協議会理事)、藤田真文(法政大学社会学部教授)


家庭で親子が番組を視聴したり、子ども自身が興味をもって良質な番組視聴をしたりすることを願って民放各局は番組制作・編成に力を入れている。

審査対象となった参加番組は▷幼児・児童を含む青少年が楽しみ、共感できることで日々の成長・動機付けとなる▷青少年の成長過程で社会的課題を自分に引き寄せて考えさせようとするクリティカルな思考を呼び込む▷日々の放送番組の視聴ターゲットの一部として青少年層を意識した報道・教養番組として制作――などで、その中から青少年が現代社会で最も関心を持つべきグローバルな社会課題を身近で意識させてくれる番組を高く評価した。

最優秀=関西テレビ放送/ザ・ドキュメント ウクライナ、9×9の歌 明日をつくる子どもたちへ(=写真)
ロシアによるウクライナ侵攻以後、ウクライナから日本に避難した人々がどのような暮らしを送っているのか、またどのような支援を受けているのかは、なかなか見えてこない。その中で、ウクライナ語の語彙とリズムで九九の歌を作ろうとする研究者・学生と、これに協力するウクライナ人学生の活動に焦点を当てた。慣れない日本語学習環境の中で葛藤する子どもたちが、九九の歌によって母国語と異なる日本語で算数を学ぶ際の心理的ハードルを下げることが「できた」喜びを描いている。同時にその根底にある避難家族関係者の祖国愛と葛藤を深く描いている。青少年にとっても東欧で起きている戦争の悲劇は決して戦場だけで起きているのではないことを意識させてくれたことが最優秀に値すると判断された。

優秀=長野朝日放送/はじけろ!青春 特別編 高校放送部と一緒に番組作っちゃいましたスペシャル
青少年に向けたメディアリテラシー活動として、文化部活動の象徴ともいえる高校放送部が、長野ローカルで地域に向けて母校の旬のトピックを独自視点で取材した番組が放送されていることは意義がある。活動を総括する大文化祭としてのスペシャルでは、各校放送部の生徒が一堂に会しスタジオ収録にも参加して、日々の活動への熱意や関連エピソードを生き生きと語ったことが印象的。青少年層をローカル局と連携させた地道な取り組みの結果として生まれた「絆」が感じられる。

優秀=読売テレビ放送/こどもちょうせんバラエティ いろりろ
幼児向けの番組を制作することは決して易しいことではない。子ども番組が減ってゆく中、ユニークな企画とともに、質の高い青少年向け番組が継続して制作・放送されていることはすばらしい。例えば、子どもは言葉遊びが大好きなことなど、子どもについてよく研究した上で斬新な内容をラインアップさせている。短いコーナーを連ねることで、子どもたちの興味を切らさない工夫があること、またお笑いを盛り込むなど、関西の地域性を織り込み、親しみがもてるだけでなく、子どもの知的好奇心を刺激している点がよかった。

優秀=山口放送/熱血テレビスペシャル 俺たち ウォーターボーイズ‼ ~15歳 僕は見つけた~
地域を活性化するために活動を続けるシンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング)未経験者ばかりの「ウォーターボーイズ」。新規入会した15歳の少年が、同じチームの社会人の先輩たちに大事に育まれながらたくましく成長した6年間のプロセスを、ローカルの情報番組が逐次フォローし放送してきた。これを総まとめした感動的な番組。地域の人々と接しながら学び、支えられて成長してゆくことがいかに大切かを痛感させてくれる。自分の殻をどのように破ればよいか悶々とする同世代の青少年にも共感と元気を与えてくれるだろう。

優秀=福岡放送/リンゴ飴のこえ~難聴って、なんなん?~
障害のある人が実生活の中でその状況をどのように感じているか。それを理解することから社会の多様性実現が始まる。多様性を理解するだけでは社会は変わらない。理解の上に立ち社会全体で問題を解決しようと新たな可能性を見つけ、これに挑戦することの大切さを訴えかける。番組では共生社会実現の取り組みとして、耳に補聴器をつけたスタッフが営むリンゴ飴専門店の営みを紹介。これを後押しする難聴理解促進のための明るいメロディー「なんちょうなんなん~♪」の動画制作の取り組みが加わることで、地域に広がる理解の輪が多様化の実現に向けて浸透し始めたことを青少年にも実感させるものとなっている。


・各部門の審査結果はこちらから。

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