今回の番組は、安倍晋三元首相の銃撃事件があった2022年7月から2023年5月までの、富山県内での旧統一教会と政治家および行政との関わりについて、その都度ニュースとして伝えてきた結果をまとめた、いわば、私たち報道局全体の集大成です。
振り返ると、富山県知事選で新人候補の新田八朗氏(のちに当選・現知事)が教団と関わっていたことを覚えていた記者、政治家のSNSなどから教団関連団体との関わりを示す写真などを次々に探し当てたデスク、その写真を政治家に示して教団との関わりの言質を取ってきた記者。また、県内の政治家約100人を対象に緊急アンケートを実施したほか、行政との関わりを調べるために情報開示請求も行いました。さらに、教団元幹部が県内に在住することを突き止め、単独インタビューに結びつけた記者らがいました。
確認できた事実は、一つ一つ報じていきました。さかのぼってみると、富山県知事との関係が明らかになった2022年7月下旬から9月下旬まで、土日を除けば、約2カ月間にわたってほぼ毎日、教団と政治家および行政との関わりを伝えてきました。富山県という狭いエリアの中で、常に取材などで顔を合わせる政治家と行政ですが、"忖度なしに対峙していこう"というスタンスで臨みました。その根底にあるのは「お前が伝えなければ、誰が伝えるのか」という私たちが目指している報道姿勢です。
伝えていく中で見えてきたことが2つありました。1つは、中央政府だけでなく、地方においても教団思想を、政治や行政に反映させようとした実態です。県在住の教団元幹部はインタビューで、「日本においてLGBT、同性婚は阻止するべき立場である。そうした働きかけを政治家に行っている」「現実の世界は政治が動かしている。だから宗教だけでなく政治や社会運動と連携しながらよりよい社会を作っていくのが教団の構想」などと、積極的に政治家と接触する狙いを生々しく語りました。
<知事選初当選で万歳する人の中に元教団幹部>
もう1つは、メディアに追及されるまで、教団との関わりを自ら口にして説明せず、教団との関わりを示す証拠を突き付けられても、はぐらかそうとする政治家の姿勢です。自分の都合の悪いことは、決して自ら公表することはありませんでした。今回も、自らの行動に"やましい"ことがなければ、堂々と公表し説明すべきですが、結果として誰一人いませんでした。市民は、選挙権を行使して自らの代わりとして首長や議員を選びます。選ばれたものは市民の意思を反映して権力を行使します。そうした民主主義の中で、政治家の姿勢はどうあるべきかを問いたいと考えました。
私は、神通川流域で発生した公害病・イタイイタイ病の取材を20年以上続けています。その構図は、財閥企業が富国強兵などの国策と一体となり、利益を追い求める中で下流に暮らす住民をないがしろにしたものです。約50年前の裁判で被害住民側が勝訴しましたが、今も新たな患者が出続けています。政治という権力が絡み、被害を訴える人がいるという点で今回の問題も通底しています。
民放連賞は、質の高い番組がより多く制作・放送されることを促す狙いがあるものですが、一方で、その時代にどんなことがあったのかを記録として残す役割もあるのではないかと考えています。そうした意味で、今回の受賞は、2022年度の日本の動きを"ローカルの視点"で記録した番組として評価されたものだと推察しています。また、この番組は、日頃のニュースを積み重ねて制作したものです。毎日伝えているニュースの一本一本が大切だということに、私たち自身があらためて気づきました。
番組の放送で、一連の取材が終わったわけではありません。"断絶宣言"した富山市を訴えた教団との裁判は今も続き、国の解散命令請求の行方も不透明です。今回の受賞を励みに、これからも地域に根差し、地域のために、さらに質の高い放送を目指して番組づくりに取り組みます。
<報道スタッフの集合写真>