【2021年民放連賞審査講評(番組部門:ラジオ教養番組)】新しい時代の教養が問われる

山本 康一
【2021年民放連賞審査講評(番組部門:ラジオ教養番組)】新しい時代の教養が問われる

8月19日中央審査【参加/67社=67本】
審査委員長=隈元信一(ジャーナリスト)
審査員=おおたわ史絵(総合内科専門医、法務省矯正局医師)、洞口依子(女優)、山本康一(三省堂辞書出版部部長兼大辞林編集部編集長)

※下線はグランプリ候補番組


コロナ禍という史上まれに見る災害に立ちあって、このテーマを取り上げる番組が多く出てきたことは、当然ではあるとは言え、特筆すべきことである。ただし、取り上げ方は各局各様であり、ほかにも「戦争」「文化」など大きなテーマをどのようにわれわれの身に引き寄せて考えるかこそが教養の役割であり、それを形にするのがラジオの力のひとつであるだろう。とは言え、常に新たに生生流転する社会状況の中で、教養のあり方やそれを伝える方法もまたバージョンアップしなければならないのではないかという問題意識も今回エントリー作品の中に見られたと思う。いずれも優れた作品であり、評価は僅差で分かれた。

最優秀=ラジオ関西/「BORDER」~ヒョーゴスラビアにおける県境とは?~(=写真) エンターテインメント(娯楽・面白さ)とエデュケーション(教育・教養)を合成した「エデュテインメント」という領域があるが、これが新しい教養のあり方のひとつだとすれば、この番組こそまさにその代表であるだろう。5国にも及ぶ旧国名地域をひとつにまとめた兵庫県の特性を"連合国家"になぞらえ"ヒョーゴスラビア"と称したもの。テンポの良いナレーションに乗って、さながらロードムービーのように各地域を経巡って軽妙なレポートがなされるが、「遊び」のなかにも、その実、専門家やゲストのしっかりとした解説が入り、興味深く関心を深めて行くなかで、旧国名の「国境」を越えることで、「県境を越える移動の自粛」というコロナ禍対策のあり方にも目を向ける時代性、ジャーナリズム性がベースにあることが分かる優れた構成が特に評価された。

優秀=青森放送/ふれられない日常~視覚障害者とコロナ禍~ 毎回良質の教養番組を送り出す同局であるが、やはりその取り上げる着眼の見事さに一同うならされた。ソーシャルディスタンスはもちろん正しく実践されるべきものであるが、それが視覚障害者にとっては即刻生活に不便を生じ、職も奪われることになるだということに気づかせてくれた。ともすれば社会から取り残される人たちにしっかりと目を向ける、見事な番組。

優秀=ニッポン放送/「テレフォン人生相談」55周年記念!『加藤諦三、令和時代への提言』~心のマスクを忘れるな~ 長く人びとの悩み・苦しみに寄り添ってきた加藤氏が、コロナ禍に対して行う提言にはいずれも蒙を啓かれた。電話で相談できるというのがラジオならではの特性であるし、これからも大事な役割であると認識を新たにした。ひとりでの語りは繰り返しが多くなり、やや単調であったという声もあった。

優秀=栃木放送/CRTラジオスペシャル 民藝運動が問いかける、美しい暮らしとは 民藝の運動は、コロナ禍の渦中で「新しい生活様式」を求められる現在に取り上げるべき、まさにタイムリーな題材と言える。作家性と民衆性の対立、また1953年の座談会の貴重な音源をもっと掘り下げてもらいたかったという声もあった。きらりと光る佳作との評。

優秀=ZIP-FM/The Voices of Generation Z ~Z世代が問う原爆と平和教育~ Z世代によるZ世代のための番組という意欲的な構成。21歳の大学生にすべて任せ、インタビューを通じて従来の平和教育に対する彼女の疑問への答えを見つけていく成長物語になっている点も評価される。彼女以外の聞き役を置くとほかの世代にも聞きやすかったかも、という声も出た。

優秀=四国放送/阿波の民俗音楽と芸能を辿る~檜瑛司と阿波の遊行~ 貴重な音源と記録写真が檜さんの没後25年たって世に出たこと自体が偉業であるが、それを歌の音源、座談会、肉声記録を組み合わせて番組にしたことが評価される。他局もぜひこれに倣い、各地元の民俗芸能に目を向けた番組を作ることに期待したいという声があがった。

優秀=RKB毎日放送/永遠の平和を あるBC級戦犯の遺書 BC級戦犯、石垣島事件にスポットを当て、埋もれていた貴重な事実を掘り起こした高く評価すべき番組。題材・構成・演出などいずれも高い水準。同局で同じ題材・構成のテレビ番組もあり、ラジオならではの工夫が欲しかったという声があった。


各部門の審査結果およびグランプリ候補番組はこちらから。

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