世界的に低下するニュースへの信頼度・関心 進むマス・メディア離れ 比較的軽度だが、日本でも似た傾向 報道避ける割合も微増

水野 剛也
世界的に低下するニュースへの信頼度・関心 進むマス・メディア離れ 比較的軽度だが、日本でも似た傾向 報道避ける割合も微増

ニュース離れ、マスコミ離れが止まらない。SNS全盛の時代、とくに若者は見むきもしてくれない。放送・活字を問わず、こうした嘆きをよく耳にするが、印象論ではなく、実際はどうなのか。

今回紹介する『デジタル・ニュース・レポート』は、この問題を現時点でもっとも大規模、かつ実証的に確かめようとした調査報告書である。イギリスのロイター・ジャーナリズム研究所の委託で、2022年1―2月にかけ、日本を含む6大陸・46カ国の約9万3,000人(日本は2,015人)にオンライン上でアンケートを実施した。ほぼ同時期に、補完的なインタビューなども複数の国で実施している。初回の調査は2012年に公表され、これが11回目である。

レポートは160ページを超す長大なものだが、本稿では全体にわたる主要な知見を概説しながら適宜、日本での結果も紹介し、最後に若干の考察を示す。

結論を先んじれば、調査内容は世界・日本の放送界にとって、楽観を許さぬものだった。ニュースへの信頼度・関心、ニュースを知るためのマス・メディア接触は、いずれもこの10年で低下しつづけており、さらには、あえて報道を避ける傾向が若者を中心に徐々に強まっている。ただし、全体的に日本は他国と比べ軽度にとどまっている。

 ニュースの信頼度低下 日本はほぼ平均値

まず、約半数の21カ国でニュースに対する信頼度が低下している。向上したのは、微増の日本(44%)を含む7カ国にとどまる。全体平均は42%、最高はフィンランド(69%)、最低はアメリカ・スロバキア(26%)である。昨年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行を受け一時的に高まったが、ふたたび減少傾向に転じている。要因は国により異なるが、報告書は政治的な意見の対立や広がる貧富の差などをあげている。

日本(44%)は平均をやや上回り、昨年から2ポイント上昇している。シンガポール(43%)、カナダ・ポーランド(42%)などと同水準で、特段、信頼されているわけでも、不信を買っているわけでもない、といえる。

全体に共通する特徴として、非営利の放送局に対する信頼度は比較的に高い。日本も同様(NHK、57%)だが、それでも他の主要国と比べれば低く、フランス(FTV、53%)、イギリス(BBC、55%)はかろうじて上回っているが、フィンランド(Yle、84%)、ドイツ(ARD、67%)、オーストラリア(ORF、66%)とは大きな差がある。

ニュースへの関心低下 
年前から20ポイントも下落 日本はほぼ変化なし

信頼度だけでなく、ニュースに対する関心も低下しつづけている。「とても」「きわめて」関心があると答えたのは全体の半数弱(47%)で、2015年(67%)から20ポイントも下落している。スペイン(85%→55%)やアルゼンチン(77%→48%)は落ち幅が約30ポイントときわめて大きい。

日本はここ数年40%台で安定的に推移し、2022年(44%)も大きな変化はないが、数値それ自体はけっして高いわけではない。同じく変動の少ない他の主要国を見ると、フィンランド(67%)、ドイツ(57%)、オランダ(55%)は10ポイント以上も上回っている。

あえてニュースを避ける傾向の高まり
ウクライナ侵攻でさらに加速

関心が希薄化しているどころか、ニュースを意図的に避ける傾向さえ強まっている。全体で実に4割近く(38%)が「ときに」、あるいは「しばしば」積極的にニュースに触れないようにしていると答えており、2017年(29%)から10ポイント近く増えている。とくに顕著なのがブラジル(27%→54%)とイギリス(24%→46%)で、ここ5年間でほぼ倍増している。

要因は複数ある。最多は「政治とCOVID-19ばかり」(43%)で、同じ題材に飽きていることがわかる。次に多いのが「気分に否定的な影響を及ぼす」(36%)で、「ニュースの量に疲れる」(29%)、「信用できない、偏っている」(29%)がつづく。「情報に対して何もできない」(16%)、つまり無力感を抱いている人々も一定数いる。とくに35歳以下や低学歴の層は、内容を理解できないことを理由に報道を避ける傾向が強く、アメリカ・オーストラリア・ブラジルでは約15%がこれに該当する。

程度の差はあれ、日本にも似た傾向が見られる。まず、自ら報道を忌避する割合それ自体は全体平均(38%)から20ポイント以上も低く(14%)、あえて背を向けているのは少数派にとどまる。しかし、2017年は6%、2019年は11%で、着実に増えている。

なお、ロシアのウクライナ侵攻後、ニュースを忌避する傾向はさらに加速しているように見える。侵攻から約1カ月後に実施した追加調査(英・米・独・ブラジル・ポーランド、各約1,000人)では、それ以前から高いブラジル・イギリス以外のカ国で4―7ポイントも上昇している。

進むマス・メディア離れ
日本では
15%が1週間で無接触

ニュースへの信頼度・関心の低迷と表裏一体なのが、既存マス・メディアの利用頻度の減少である。これも世界的な現象で、テレビ、ラジオ、新聞・雑誌への接触は、少なくともこの10年で一貫して低下しつづけている。

既存マス・メディアはオンライン上でも報道を展開しているが、その利用率は横ばいか微増にとどまり、視聴者・読者の落ち幅を挽回できてはいない。

顕著な例はアメリカで、2013年から22年にかけて、1週間にニュースの情報源としてテレビ(72%→48%)、ラジオ(28%→16%)、印刷媒体(47%→15%)を利用する割合は大幅に減少している。対して、SNSを含めたオンライン(69%→67%)はほぼ変わらない。そして、もっとも注目すべき特徴として、それらいずれも利用しないという回答は着実に増えている(3%→15%)。22年の数値は日本(15%)もまったく同じで、10人に1人強は1週間でまったくマス・メディアなどからニュースを得ていない。

有料ニュース利用率は横ばい
「朝はテレビ」の日本

オンライン上のニュースに対価を払う(寄付を含む、受信料などは含まず)割合は横ばいで、収益源としては大きく期待できない結果となった。新聞・雑誌を含め有料のニュース配信が普及している20カ国の平均は2割弱(17%)で、昨年と変わらない。

ただし、国による差も目立つ。上位層のノルウェー(41%)、スウェーデン(33%)、アメリカ・フィンランド・ベルギー(19%)と、下位層のイギリス(9%)、日本(10%)、フランス(11%)には相当な開きがある。

全体的な共通点もある。課金ニュースの利用者が比較的高齢(平均47歳)であることだ。30歳以下の割合が相対的に高いのはオランダ(34%)、スペイン・フランス(28%)で、アメリカ(17%)、スウェーデン(16%)、ノルウェー(14%)、日本(13%)などは2割以下である。若者は「ニュースは無料」と考えがちで、この認識は今後も強まると思われる。

興味深いのが、「朝一番」でニュースに接する媒体を尋ねた設問だ。世界的にはスマートフォンが優勢で、ノルウェー(43%)、スペイン(39%)、フィンランド(36%)、イギリス(35%)などで他の媒体を大きく上回っている。

ここで特徴的なのが日本で、テレビ(45%)が単独で著しく高く、スマホ(24%)、印刷媒体(8%)、ラジオ(3%)とつづく。これは多分に生活習慣の問題といえ、「朝はテレビ」は日本の放送界にとって死守すべき生命線の一つだといえる。

憂慮すべき民主主義への影響
日本も他人事でない

最後に、筆者による若干の考察を示す。

まず、現在のメディア環境をかんがみれば、全体として調査結果それ自体は、けっして不自然ではない。ネットを中心に媒体の選択肢が格段に増え、真偽を問わず、とても処理できない量の情報摂取が可能になった分、ニュースや既存メディアに割く時間、寄せる信頼が減じるのは、ある程度は理解できるなりゆきだ。ロシアのウクライナ侵攻後にニュースを避ける傾向が強まっていることも、少なくとも短期的には、情報過多でとかく集中力を持続しにくい現代人らしい結果だといえる。

だが、それが民主主義に及ぼす長期的な影響に思いをはせれば、単に受け手の自由な嗜好・選択では済まされぬ、かなり憂慮すべき問題である。健全な社会や国を実現・維持するためには、一定数の市民が日々のニュースに関心をもち、それに応える職業的倫理観を備えた報道機関が必須だからだ。

アメリカのある地域で地元新聞の廃刊後に選挙の立候補者数や投票率などが低下したという研究や放送を含む既存のマス・メディアに比べSNSは「知った気」にさせるという研究もある。

気候変動のごとく、このまま市場原理だけに身をゆだね、ニュース、それを伝えるマス・メディアの存在感が弱まりつづければ、ある時点で境界線を越え、取り返しのつかぬ事態になりかねない。これは、けっして他人事ではない。地球上のすべては連関しているし、総じて他国ほど深刻でないにせよ、日本も同じような方向に進んでいるのだから。

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