「2024年度のテレビ、ラジオ営業収入見通し」 ~テレビは3年連続のマイナス、ラジオは横ばいに~

木村 幹夫
「2024年度のテレビ、ラジオ営業収入見通し」 ~テレビは3年連続のマイナス、ラジオは横ばいに~

民放連研究所では、毎年1月末に次年度の会員社の営業収入予測を発表している。本年は1月30日に「2024年度のテレビ、ラジオ営業収入見通し」報告会をオンラインで開催した。本稿ではテレビ、ラジオの全体状況を中心に、その概要について紹介する。

なお、地区別の予測値などを掲載している見通しの全文および報告会説明資料は、民放連会員サイト(ユーザー名、パスワードが必要)に掲載している。

予測の前提

今回の予測では、2024年度の日本経済、企業収益の状況について、日本経済研究センターの「第196回四半期経済予測」(20231128日公表、1211日改訂)に準拠して、以下のような前提を置いている。

・日本経済は、24年度から25年度にかけて内需主導の成長になるが、低成長にとどまる。個人消費は、賃上げ、所得減税・給付金の効果もあり24年度は伸びを高める。設備投資は省力化投資や国内での能力増強投資の高まりから、徐々に伸びを高めていく。物価は輸入物価の下落からコアCPIが徐々に低下し、2%に近づく。24年内に金融政策は転換され、内外金利差の縮小により円高傾向に転換するため、外需の寄与度はマイナスに向かう。

・景気下振れのリスクとしては、ウクライナ・中東情勢、金融政策変更に伴う混乱などが考えられる。

具体的な予測値を図表1に示した。実質GDP23年度の1.6%増から24年度は0.6%増と減速し、物価上昇率の低下もあり名目GDP23年度の5.6%増から24年度は2.9%増へと減速する。企業収益は、売上高、経常利益ともにやや減速するものの、増収増益を維持するとの予測である。

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<図表1.予測の前提条件①:日本経済、企業収益>

ただし、現在の状況では、最大の前提条件はインターネット広告費の動向である。言うまでもなくインターネット広告費はテレビ、ラジオ広告費にも影響を与えている。以前は、特にテレビ広告費については、主に景気、企業収益との関係で予測を行っていたため、景気・企業収益の前提は非常に重要だった。しかし現在では、以前から景気・企業収益との連動性が見えにくかったラジオ広告費だけでなくテレビ広告費についても、景気・企業収益とは一見、連動しない動き方になっており、両者の関係性は非常に見えにくくなっている。そこで民放連研究所では、数年前からまずインターネット広告費(電通ベース)の予測を行い、それをテレビ、ラジオ広告費予測のための説明変数に用いている。24年度予測におけるインターネット広告費の前提(予測値)は図表2の通り。23年(暦年)の約13%増から、24年は5.2%増と伸び率が大きく低下するものの5%の成長は維持すると予測した。現在、インターネット広告費については景気・企業収益との関係で予測することが可能であり、インターネット広告費を説明要因に用いれば、テレビ、ラジオ広告費を説明する予測モデルを構築することが可能である。また、今回の予測から、インターネット広告費の総額ではなく、広告制作費と物販系ECプラットフォームへの広告を除いたベースであり、より媒体への広告費に近いデータと思われる"インターネット広告媒体費"を予測の対象にしている。

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<図表2.予測の前提条件②:インターネット広告媒体費(電通ベース:暦年)>

なお、テレビ、ラジオ営業収入の予測に当たっては、これらの前提条件を反映させた予測モデルによる予測値だけでなく、2312月から24年1月にかけて実施した民放連会員社に対するアンケート調査で得られた各社の見方の集計値も判断材料に用いている。景気・企業収益との連動性が見えにくくなった現在、アンケートによる各社の見方(予測)をより重視する決め方になっている。

2024年度のテレビ営業収入予測:タイム、スポット、営収合計とも3年連続のマイナスに

図表3に2024年度のテレビ営業収入予測の概要を示した。テレビ全体で、24年度は1.1%減と23年度よりも若干マイナス幅が縮小するとの予測である。23年度上期のスポットは、前年同期比7.1%減と大きく落ち込んだ。下期に入ってマイナス幅は縮小しているがプラスにはいたらず、通期で5.2%減と予測している。スポットは24年度も基調としてはマイナス傾向が継続し、2.3%減と3年連続のマイナスを予測。23年度、24年度とも東阪名のマイナス幅は系列ローカルよりも大きいことを見込んでいる。これは主に、現在のスポットのマイナスが全国広告主中心であることなどによる。タイムについては、23年度上期は大型スポーツイベントの中継が多かったこともあり、上期で2.1%減と22年度通期よりもややマイナス幅が縮小したが、下期には3.6%減と再びマイナス幅が拡大することを見込んでいる。24年度は、ネットタイムにはプラス要因になる五輪があるが、タイム全体としてプラスに転換することは想定しておらず、1.7%減と比較的マイルドなマイナス幅を予測した。なお、関東、近畿、中京の独立局については、24年度は全体で0.7%減と23年度(4.5%減)から大きくマイナス幅が縮小することを予測。

タイム・スポットが低迷する一方、その他事業収入はプラスに寄与することを想定している。テレビ全体のその他事業収入(テレビ営業収入のうちタイム、スポット収入を除く部分)は、23年度7.5%増、24年度1.9%増と営業収入全体のマイナス幅を減じることに寄与すると予測。足元で大きく増加している東阪名のその他事業収入は、23年度は約8%増と大きく増えることを想定したが、24年度はローカルと同水準の2%増とした。独立局のその他事業収入は、23年度、24年度ともに、局による違いは大きいが、全体ではややマイナスになることを見込んでいる。

業種別の広告出稿では、会員社へのアンケート調査の回答では、24年度は飲料・嗜好品、自動車・関連品、交通・レジャー、化粧品・トイレタリー、金融・保険、情報・通信などへの期待が大きい。より具体的には、アルコール飲料、自動車メーカー、観光、映画、トイレタリー全般、NISA関連の金融、携帯キャリアなど。他にはローカル広告で活性化しているリクルート対策の出稿などへの期待も大きい。

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<図表3.テレビ営業収入予測の概要>

2024年度のBSテレビ営業収入予測:横ばいないし微増を継続

BSテレビについては、広告を主要な収入源とする民放連会員9社の2024年度営業収入の合計は1.4%増(23年度0.6%増)と予測。在京キー局系5社では0.1%増(23年度1.3%減)。コロナ禍後の通販番組、通販系スポットの低迷を受けて、CM料金の見直し、新規広告主の開拓、スポーツ中継によるコンテンツ強化や関連イベントでの収入確保、SNSや配信と連動した出稿企画などの対策が講じられている模様。 

2024年度のラジオ営業収入予測:全体で横ばい、中短波微減、FM微増

図表4に2024年度のラジオ営業収入予測の概要を示した。24年度はラジオ全体で0.0%、中短波0.9%減、FM1.0%増と中短波は23年度の1.2%減とほぼ同程度の微減水準となり、FMは23年度の2.3%減から微増程度の水準に転じることを予測。ラジオ社収入の大部分を占めるタイムは中短波でマイナス、FMで微増だが、スポットは、中短波、FMともマイナス幅は大きく縮小するもののマイナスを継続。テレビ同様、ラジオもその他事業収入(ラジオ営業収入のうちタイム、スポットを除く部分の合計)はプラスを見込んでおり、24年度の中短波で1.9%増、FMでは4.6%増の水準を見込む(ラジオ全体では2.9%増)。

テレビとは異なり、ローカル広告の比率が大きいラジオでは地区による違いがかなりある。24年度は関東、北海道、東北、福岡で地区・ブロック全体としてプラスを予測した。総じて中波はマイナスを予測する地区が多く、FMはプラスを予測する地区が多い。

業種別の広告出稿では、会員社へのアンケート調査の回答では、交通・レジャー、官公庁・団体、流通・小売業、飲料・嗜好品、金融・保険への期待が多い。プロポーザルやタイアップ企画での官公庁への期待が大きいのはラジオの特徴のひとつ。

デジタル分野での取り組みでは、ポッドキャストへの取り組みが広がっており、運用型広告への期待もある。radiko関連では、データの有効利用が模索されている模様。

図表4.jpg<図表4.ラジオ営業収入予測の概要>

テレビ、ラジオとも"値上げ"が最重要の課題

物価水準が幅広い分野で上昇し、値上げによるデフレ脱却、名目成長率アップが日本経済全体にとって重要な課題になっているなか、テレビ、ラジオの広告単価は、横ばいないしは、世の中の趨勢に反してむしろ低下している。

民放連研究所では、この問題を中心に、主にテレビスポット営業が現在抱える問題点を洗い出すためのヒアリング調査を、全国で昨年秋から年初にかけて実施した(全国13地区31社)。テレビスポットのパーコスト(PRPパーコスト)は東阪名では、現在、全体として横ばいないしは若干の低下程度の水準で推移しているとみられるが、ローカル地区では良くて横ばいであり、中期的なマイナス傾向が継続している地区も多い。ローカル局には「自分が現役の間には、何をやってもパーコストは上がらないものと諦めている」「可能なものなら、営業努力次第で値上げも可能な1本単価売りの割合を増やしたいのだが......」といった声は多い。一方で、視聴率の低下(=PRPベースのCM在庫量減少)は東阪名や大都市圏だけでなく、一部のローカル地区でも急速に顕在化している。今後、スポットの市況が好転し、各地でスポット発注量(PRP)が収容限界を超える(パンク)するような事態になったとしても、パーコストは上がらない、もしくは全体的にパーコストを下げることでPRPだけ増やしつつ、一定水準の出稿金額を維持されるのではないかとの懸念は、少なくともローカル局では共有されているように見受けられる(既に一部の地区ではそういう傾向が現実に現れているようである)。

いわゆる"カロリーアップ"の問題はテレビだけでなくラジオも含めて、目下、最重要の営業課題と言える。自明のことながら、値上げがもたらす利益へのプラス効果は極めて大きい。全体の経常利益率で3%、系列ローカルテレビ社では1%にまで低下した(23年度上期決算)地上波放送にとって、コストを犠牲にした増収策は過去のものであり、値上げこそが最も重要な取り組みではないだろうか。需要や経済情勢によっては値上げも可能な広告取引環境を実現するには、民放発足以来70年間、基本構造が変化していない現在のCM取引のシステム自体を再構築する必要がある。そのためには、個々の放送事業者や放送業界だけでなく、放送広告に関わる業界横断的なコンセンサス形成が必要になると考えられる。

もちろん、値上げのためには、広告主、代理店の利便性向上に加え、テレビ、ラジオが値上げに値する媒体価値を持っていることを、顧客である広告主に納得してもらうことが大前提である。放送の媒体価値、媒体力を客観的かつ明示的に可視化して広告主にアピールすることの重要性はますます増大している。その際、リーチや認知、あるいは態度変容だけでなく、購買ないしはKPIへの寄与までデータで示すことを求められる時代になっていることも忘れてはならないだろう。

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