【最優秀受賞のことば】ワールド・ハイビジョン・チャンネル(BS12 トゥエルビ) #つなぐひと~わたし、義肢装具士になりました~(2024年民放連賞テレビ教養番組)

横山 直子
【最優秀受賞のことば】ワールド・ハイビジョン・チャンネル(BS12 トゥエルビ) #つなぐひと~わたし、義肢装具士になりました~(2024年民放連賞テレビ教養番組)

"義肢装具士"という職業をご存じだろうか?
「義肢」とは失われた部分の機能を補助する人工の手足で、「装具」とは痛みや損傷、まひなどが生じた身体の機能を補うために取り付ける器具。その「義肢」と「装具」で患者の手足をつなぎ、さらに未来をつなぐ仕事が"義肢装具士"である。

このテーマを選定し取材をしようとした理由は、義肢装具士が目立たないながらも大変貴重な職業であること、そして、若者たちの職業選択の一助になればという願いからだ。

義肢装具を作る会社は全国に約300社ある。大手などさまざまな義肢装具社がある中、人口わずか400人の町、世界遺産石見銀山の麓、島根県太田市大森町に存在する義肢装具会社「中村ブレイス」で働く義肢装具士に注目した。この小さな町の会社では多くの若者が働き、日々キラキラした笑顔で働く女性社員がいるのが大変印象的だ。若者たちはどんなきっかけで、義肢装具士の道を選んだのか。そしてこの仕事に向き合う理由は一体何なのだろうか?

中村ブレイスは、山々に囲まれ、かつての武家屋敷や商家・町家がいまだ存在する土地にある。創業者の中村俊郎氏は「町を復活させたい」という熱い信念から、古くからある建物や古民家を改修し、社屋や独身寮・住宅として再生した。そこに従業員たちが入居し日々作業に従事している。朝8時15分から作業がスタートし、各作業場にはクラシック音楽が流れる。就業中には、総務部の軽快なアナウンスで1日2回ラジオ体操が行われ、作業で固まった身体をほぐし再び作業に向き合う。会社に食堂がないため、昼時には各自持ち寄ったお弁当を広げ、20代から60代の従業員が和気あいあいと会話を楽しみながら過ごすのがいつもの風景だ。従業員たちは、古き良き文化を遺すこの大森町で、自然と文化と共存し、義肢装具を求めて訪問してくる人々により良いものを提供できる唯一無二の心を育んでいると実感した。

一方、驚いたのが糖尿病と足の切断の関係性だ。

当初、義肢装具士が製作する義足は、不慮の事故や先天性の病気等で手足の一部がない、切断せざるを得ない方々が利用することが多いと思っていた。しかし、昨今の義足利用者および必要とする方は糖尿病を患った高齢男性患者が多数を占めているそうだ。糖尿病からの神経障害や血管障害の合併症をおこし、足の切断を余儀なくされる。

日本人の5~6人に1人が罹患していると言われる糖尿病がきっかけで、義足が必要となることがあるという。番組で取り上げた定食屋の店主もまさにその一人だった。もともと糖尿病を患っていたが、ガラスの破片を足で踏んだだけで、足の切断に至る現実を目の当たりにすることになった。

この作品をとおして、貴重な仕事である若き義肢装具士と共に糖尿病がきっかけとなり義足が必要となる現実が間近にあるということを一人でも多くの人に伝えることができればと願っている。


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