2024年11月1日施行!よくわかるフリーランス法解説講座〔第5回〕 Q&A編その2 「就業環境の整備」「当局の調査・相談窓口等」

大東 泰雄、堀場 真貴子
2024年11月1日施行!よくわかるフリーランス法解説講座〔第5回〕 Q&A編その2 「就業環境の整備」「当局の調査・相談窓口等」

放送業界も深く関係する新たな法律「フリーランス法」について、解説講座を連載しています(連載まとめはこちら)。大東泰雄弁護士、堀場真貴子弁護士による共同執筆です。(編集広報部)


4回と第5回は、フリーランス法(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)に関して、よくある質問にQ&A形式でご説明します。第5回(最終回)は、フリーランスの就業環境の整備と、当局の調査・相談窓口等についてのご質問を取り上げます。

1. フリーランスの就業環境の整備についてのQ&A

質問6.的確表示義務の対象となるフリーランスの「募集情報」(①業務の内容、②業務に従事する場所・期間・時間に関する事項、③報酬に関する事項、④契約の解除・不更新に関する事項、⑤フリーランスの募集を行う者に関する事項)や、「募集情報の掲載日」は、募集する際、必ずすべての事項を掲載しなければならないのでしょうか。

【回答】
フリーランス法12条1項は、発注者(特定業務委託事業者)は、広告等により「その行う業務委託に係る特定受託事業者の募集に関する情報(業務の内容その他の就業に関する事項として政令で定める事項に係るものに限る。)を提供するときは、当該情報について虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならない。」と規定します。また、同条2項は、発注者(特定業務委託事業者)は、「広告等により前項の情報を提供するときは、正確かつ最新の内容に保たなければならない。」と規定します。

つまり、フリーランス法は、広告等によりフリーランスを募集する際に、政令で定める募集情報を記載するのであれば、これらについて虚偽表示や誤解を生じさせる表示をしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければならないとしているにとどまり、特定の募集情報を記載しなければならないというルールを設けているわけではありません。虚偽表示等が許されないのは、もとより社会的に当然のことですので、同法12条は、当然のことを念のため規定し、明確な法的根拠を与えたものということができます。

なお、虚偽表示等が禁止されるとともに、正確かつ最新の内容に保つことが求められる「政令で定める事項」は、ご質問で挙げていただいた①から⑤のとおりです。

質問7.育児介護等への配慮義務について、「継続的業務委託」(義務)と「それ以外の業務委託」(努力義務)で、それぞれどの程度の配慮が必要なのでしょうか。

【回答】
フリーランス法は、6カ月以上の期間で行う継続的業務委託(以下「継続的業務委託」といいます。)については、発注者(特定業務委託事業者)に対し、フリーランスが妊娠、出産、育児または介護等(育児介護等)と業務を両立できるよう必要な配慮しなければならないという法的義務を課しています(同法131項・特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令3条)。

他方、6カ月未満の期間で行う業務委託(以下「非継続的業務委託」といいます。)については、フリーランスが育児介護等と業務を両立できるよう必要な配慮をするよう努めなければならないという努力義務を課しているにとどまります(同法132項)。

どちらについても、求められる配慮の内容は同様ですが、前者は法的義務、後者は努力義務という点でレベル感が異なります。当局の調査においては、当然、前者の場合の方が厳しい見方がなされることになるでしょう。

この点、妊娠や介護といった個別の事情の発生は予測しがたいものの、継続的業務委託をする場合には、6カ月を超える期間の中でフリーランス側にさまざまな事情の変化が起こり得ること自体は、ある程度予想できますので、育児介護等と業務の両立に対する配慮が法的に義務付けられたものと考えられます。

他方、非継続的業務委託については、委託期間、業務の内容、発注時に育児介護等の事情の発生を予測できたかどうかなど、事情はさまざまだと考えられます。そこで、法的義務に至らない努力義務が課されていることを踏まえつつ、発注者とフリーランスの双方の事情を考慮し、協議しながら課題を解決していくことが望ましいといえるでしょう。

質問8.フリーランスへのハラスメント対策に係る体制整備の義務(14条)のうち、「フリーランスからの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」について、発注者は、具体的にどのような体制を整備しなければならないのでしょうか。

【回答】
フリーランス法は、発注者(特定業務委託事業者)に対し、ハラスメントによりフリーランスの就業環境が害されることのないよう相談対応のための体制整備その他の必要な措置を講じなければならないとしています(同法141項)。

そして、上記必要な措置の一つとして、フリーランスからの相談(苦情を含みます)に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備することが求められます(厚生労働省「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針」(以下「厚労省指針」といいます。)第452))。

上記体制を整備するうえでは、まずは相談窓口を設ける必要があります。厚労省は、相談窓口をあらかじめ定めていると認められる例として、▼外部の機関に相談への対応を委託すること、▼相談に対応する担当者をあらかじめ定めること、▼相談に対応するための制度を設けることを挙げています(厚労省指針第452)イ)。公益通報者保護法とも交錯する部分ですので、同法に対応する内部通報窓口をフリーランスも利用できるようにする、同法に対応する窓口とは別のハラスメント相談窓口をフリーランスも利用できるようにする、新たにフリーランス専用の窓口を設置するといった選択肢の中から、各社の実情に応じて対応を検討すべきことになるでしょう。

また、設置した相談窓口について、フリーランス(特定受託業務従事者)に周知することも求められます。厚労省は、相談窓口をフリーランスに周知していると認められる例として、①業務委託契約に係る書面やメール等に業務委託におけるハラスメントの相談窓口の連絡先を記載すること、②フリーランスが定期的に閲覧するイントラネット等において業務委託におけるハラスメントの相談窓口について掲載することを挙げています(同上)。

上記①は、業務委託契約書や発注書の末尾等に、相談窓口の情報を記載しておくという手法です。やや仰々しく違和感を持つ向きもあるかもしれませんが、フリーランスに確実に伝わる手法です。上記②は、放送業界においてはさまざまな業務分野および場面でフリーランスの方々が活躍されているため、「フリーランスが定期的に閲覧するイントラネット等」にストレートに当てはまるものは、あまり使われていないかもしれません。

なお、上記①および②は、あくまで「例」ですので、それ以外の手法が禁じられているわけはありませんが、それ以外の手法(例えば、コーポレートサイトに問い合わせ先の一つとしてフリーランス相談窓口を掲載する手法)がどの程度柔軟に認められるかは、現時点では必ずしも明らかではありませんので、上記①および②以外の手法を用いる場合は、一定の法的リスクを伴うことにご留意ください。

質問9.フリーランスとの契約期間中に、フリーランスから契約解除の申し入れがあった場合、理由によらず、委託者は応じなければならないのでしょうか。
また、こうしたフリーランスからの契約解除を想定し、契約書等に「フリーランスから契約解除を求める場合は解除を求める1カ月前までに申し出ること」等の条項を設けることは可能でしょうか。

【回答】
フリーランス法は、発注者(特定業務委託事業者)が、継続的業務委託について、契約の解除または不更新をしようとする場合は、例外事由に該当する場合を除いて、解除日または契約満了日から30日前までにその旨を予告しなければならないとします(同法16条)。

他方、フリーランス法は、フリーランス側からの契約解除については、何も制限を設けていませんので、優越的地位の濫用や公序良俗違反とされない範囲内において、契約自由の原則に基づき当事者が自由に合意することができます。

この点、フリーランスとの間の契約は準委任契約に該当することが多いと思われますが、準委任契約は各当事者がいつでも自由に解除できるのが原則です(民法656条・6511項)。そこで、フリーランスからの契約解除について予告期間を設けておきたい場合は、契約書等に「フリーランスから契約解除を求める場合は解除を求める1カ月前までに申し出ること」等の条項を入れておくことが考えられます。

2. 当局の調査・相談窓口等についてのQ&A

質問10.公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省によるフリーランス法に関する調査(=「フリーランスとの取引に関する調査」など)の要請が自社に届いた場合、調査に応じなければならないのでしょうか。調査に応じなかった場合はどうなるのでしょうか

【回答】
202525日、公正取引委員会、中小企業庁および厚生労働省が合同で、フリーランス法に基づき、発注者に対し、フリーランスとの取引に関するオンライン調査を開始しました。上記調査は、「問題事例の多い業種」を中心とする発注者3万名に対し、オンラインによる選択型のアンケート形式の調査を行ったものであり、放送業も「問題事例の多い業種」の一つとされた情報通信業に含まれています。

上記調査は、フリーランス法違反またはそのおそれのある事実を発見し、個々の発注者に指導や勧告を行って是正させることを目的とする調査です。換言すれば、上記調査に対する貴社の回答は、貴社に対する公取委等の個別調査や指導・勧告の端緒となります。そのため、上記調査は、フリーランス法111項、2項、201項、2項の規定に基づき実施される正式な調査と位置付けられており、同法の適用を受ける発注者が報告をしなかったり、虚偽の報告をしたりした場合には、同法24条から26条に基づき、50万円以下の罰金または20万円以下の過料に処せられる場合があるとされています。

また、公正取引委員会は、これまでに得た情報を踏まえ、フリーランスとの取引が多いゲームソフトウェア業、アニメーション制作業、リラクゼーション業およびフィットネスクラブの事業者について集中的に調査を行い、45事業者に対して、契約書や発注書の記載、発注方法、支払期日の定め方等の是正を求める指導(※外部サイトに遷移します。以下同じ)を行っています。

今後も、さまざまな形での調査が続くであろうと予想されます。

質問11.フリーランス法に違反した場合、行政指導や罰則などはあるのでしょうか。また、同法に違反した場合、会社と従業員(社員)個人のどちらの責任が問われるのでしょうか

【回答】
(ⅰ)取引適正化に関するルールに違反した場合
公正取引委員会および中小企業庁長官は、発注者(法人である場合は当該法人)に対して指導・助言を行うことができます(同法22条)。この場合は、社名公表は基本的に想定されていません。

また、重大な違反が認定された場合には、発注者(法人である場合は当該法人)に対し、公正取引委員会による勧告(*)や中小企業庁長官による措置請求が行われるものとされ(同法7条、8条)、この場合には社名公表が想定されます。

(*)公正取引委員会は2025617日、小学館および光文社に対し、法施行以来初めてフリーランス法違反による「勧告」を行い、社名を公表しました。詳細はこちら[A][B]

さらに、発注者が正当な理由なく上記勧告に従わないときは、公取委は発注者(法人である場合は当該法人)に対して措置命令を行うことができ(同法9条)、当該命令に従わない場合は、従わなかった役員または従業員個人および法人が刑事罰(50万円以下の罰金)の対象となります(同法241号、25条)。

なお、公正取引委員会は、勧告に相当する事案であっても、発注者が違反行為を公正取引委員会に自発的に申し出、かつ以下の事由が認められた場合には、勧告は行わないとの運用を公表していますので(公正取引委員会「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律と独占禁止法および下請法との適用関係等の考え方4項)、自社内で起こっているフリーランス法違反を早期に発見することが非常に重要となります。

【フリーランス法違反を自発的に申し出た発注者の取り扱い】

○ 公正取引委員会が当該違反行為に係る調査に着手する前に、当該違反行為を自発的に申し出ている。
○ 当該違反行為を既に取りやめている。
○ 当該違反行為によって特定受託事業者に与えた不利益を回復するために必要な措置を既に講じている。
○ 当該違反行為を今後行わないための再発防止策を講ずることとしている。
○ 当該違反行為について公正取引委員会が行う調査および指導に全面的に協力している。

 
(ⅱ)就業環境の確保に関するルールに違反した場合

厚生労働大臣は、発注者(法人である場合は当該法人)に対して指導・助言を行うことができます(同法22条)。

また、重大な違反(募集情報の的確表示義務、ハラスメント対策に係る体制整備義務および中途解除等の事前予告・理由開示義務、不利益取扱の禁止違反に限ります。)が認定された場合には、発注者(法人である場合は当該法人)に対し、厚生労働大臣による勧告が行われるものとされます(同法18条)。

さらに、発注者が正当な理由なく上記勧告に従わないときは、厚生労働大臣は発注者(法人である場合は当該法人)に対して措置命令を行うことができ(同法19条)、当該命令に従わない場合は、従わなかった役員または従業員個人および法人が刑事罰(50万円以下の罰金)の対象となります(同法241号、25条)。

質問12.フリーランスとの間でトラブルが生じた場合の相談窓口などはあるのでしょうか

【回答】
公正取引委員会の担当部署はフリーランス取引適正化室等ですので、フリーランス法についての一般的な法解釈について疑問がある場合は、同室等に問い合わせることが考えられます。もっとも、同室等は個別のトラブルに関し発注者側に助言する窓口ではありません。

また、就業環境の整備に関するルールの問い合わせ先は都道府県労働局雇用環境・均等部(室)ですが、同様に、個別のトラブルに関し発注者側に助言することは想定されていないと考えられます。

そのため、個別のトラブルに関しては、弁護士にご相談いただくことが考えられます。


【執筆者紹介】

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のぞみ総合法律事務所 弁護士
  大東 泰雄(だいとう・やすお) 

 2001年慶應義塾大学法学部卒、2012年一橋大学大学院修士課程修了。2009年~2012年公取委審査専門官(主査)。2019年から慶應義塾大学法科大学院非常勤講師。
 公取委勤務経験を活かし、独禁法・下請法・景表法・フリーランス法等についてビジネスに寄り添った柔軟なアドバイスを提供している。


画像2.jpgのぞみ総合法律事務所 弁護士
  堀場 真貴子(ほりば・まきこ)

  2019年中央大学法学部卒、2021年一橋大学大学院法学研究科法務専攻修了。2022年弁護士登録、のぞみ総合法律事務所入所。
 独禁法・下請法・景表法・フリーランス法等を含む企業法務全般を取り扱う。

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