【最優秀受賞のことば】関西テレビ放送 アンメット ある脳外科医の日記(2025年民放連賞テレビドラマ番組)

米田 孝
【最優秀受賞のことば】関西テレビ放送 アンメット ある脳外科医の日記(2025年民放連賞テレビドラマ番組)

このたびは素晴らしい賞をいただき、ありがとうございます。手前味噌な話で恐縮ではありますが、一昨年(2023年)の『エルピス-希望、あるいは災い-』、昨年(24年)の『春になったら』に続き、3年続けて当社制作のドラマが最優秀をいただくことができました。諸先輩から受け継がれてきたカンテレ(関西テレビ放送)のドラマ作りが、このような形で評価していただけたことが、大変誇らしく、ありがたい気持ちでいっぱいです。

私が原作と出会ったのが2021年の夏。たちまち心惹かれ、絶対にドラマにしようと意気込んで動き始めた頃に、母に脳腫瘍が見つかりました。日々脳を侵されていく母を見ながら、脳外科医のドラマを作ろうとしている自分は一体何なのか。正直、心が折れかかる瞬間もありました。でも、本当に明るく強い人だった母は、予後不良の状態のなかでも「開きにくかった目が今日はパッチリしてる」「今日は一人で買い物に行けた」「家族が集まるのが楽しみだ」などと些細な喜びを見つけては、よく笑っていました。

その母を見ている自分のこの感覚。言語化するならば「希望」のようなもの。これがたくさんの人に伝わることこそが、アンメットの目指すべき姿なんじゃないか......今となっては、母が「アンメット」をここまでの作品に育ててくれたのだと感じています。「えらく都合のいい解釈やな」と、あちら側でニヤニヤしている母の顔が目に浮かびますが、よしとします。

そうやって生まれたこのドラマにとって最も決定的な出来事は、主人公・川内ミヤビを杉咲花さんが演じてくれたことです。彼女をそばで見ていると、驚くことばかりでした。誰よりも揺るぎなく作品に向き合う姿勢、周囲や社会を見つめる柔らかで鋭い視点、それら全てをお芝居に落とし込む比類なき表現力。「自然なお芝居」という形容のもっともっと奥にある、研ぎ澄まされきった彼女の表現が核にあったからこそ、「アンメット」の世界は私たちが生きる世界とどこかでつながっているような感覚を生み出すことができたのではないかなと思います。

エンターテインメントが多様化する時代、民放のドラマにも「テレビドラマとはこういうもの」という固定観念を捨てることが、時に求められるのではないか。そういう自分なりの思いがありました。その思いに共鳴し、一緒に挑戦してくれたキャスト・スタッフがいてくれたことに、いくら感謝してもしきれません。みんなで同じ熱を共有し、一つ一つ丁寧に大切に作り上げた「アンメット」がこのように評価していただけたことが、未来への何よりの励みになりました。

そして、登場人物たちと時間を共有し、ともに喜びともに泣いてくれた視聴者のみなさまに、心から感謝申しあげます。ドラマは一旦の終わりを迎えましたが、ミヤビとその仲間たち、そして患者たちが、今もどこかでそれぞれの希望を胸に暮らしている姿をみなさまが楽しく想像できていたとしたら、とてもうれしいです。


全部門の「審査講評」および「最優秀受賞のことば」はこちらから。
審査結果はこちらから。

最新記事