【2025参院選報道】テレビ朝日 新たな選挙報道の始まり「量と質」ともに切れ目のない報道を

能見 謙司
【2025参院選報道】テレビ朝日 新たな選挙報道の始まり「量と質」ともに切れ目のない報道を

テレビの選挙報道が直面したもの

2024年の衆議院東京15区補欠選挙や東京都知事選挙、衆議院選挙、兵庫県知事選挙などを通じ、テレビの選挙報道には、多くの問題が突き付けられた。公示・告示後に選挙報道が減るタイミングでのフェイクニュースの拡散、「選挙妨害」への対応など、いずれも従来の選挙報道の是非に関わるもので、今年7月の参院選に向けて新たな取り組みが必要だったのは言うまでもない。当社は、課題を3点にまとめたうえで対応した。

3つの課題と新たな取り組み

まずは「公平さを重視するあまり、公示・告示後における選挙報道が『量と質』の両面で十分だったか」ということである。これを克服するための取り組みの一つとして、選挙戦全体の情勢や各選挙区の情勢について調査・分析を実施し、各番組において展開した。公示日以降に選挙報道が極端に減ってしまう情報の空白を埋める、新たな取り組みとなったと同時に、有権者が投票を考える際の客観的な材料を提示することになった。

次に「有権者の興味関心を的確に把握し、投票行動に資する情報を十分提供できていたか」ということである。兵庫県知事選挙や東京都知事選挙などで浮き彫りになったのは、SNS上での動きがやがて大きなうねりとなり、投票行動に影響したという事実である。その際にテレビはただ傍観していただけとの指摘もあった。

そのため、SNSでの動きをどのように視聴者に伝えるかということを検討した結果、当社およびANN系列各局は公示日以降、外部の分析ツール(Meltwater社)を用いてXで公開されている全アカウントの投稿(リポスト、引用ポスト、返信も含む)の調査を実施して、SNS上での参議院選挙に関する投稿の動向を調べた。例えば、参議院選挙の公示日から1週間でX上ではどのようなワードに関心が集まっているか、また、各党の候補者と政党公式のXのアカウントではどのような「政策」に関連するワードが投稿され拡散されているのかなど、SNS上での関心がどこにあるのかを示した。

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<参院選投開票日(7月20日)の様子>

そして3点目は「選挙、候補者に関する SNS 上のフェイク情報や真偽不明な情報について、ファクトチェックした上で、有権者に示すことができていたか」ということである。当社およびANN系列各局では、意図的に作られた偽情報・誤情報を検証する企画VTRを公示前2週間にわたってANN昼ニュースを中心に展開した。事前に拡散が予想される偽情報・誤情報に対し、あらかじめ検証・解説する記事を出すことで視聴者がフェイク情報に敏感になる「プリ・バンキング」の効果を期待しての対応だった。

新たな選挙報道の始まり

振り返ると、この参院選は新たな選挙報道のスタート地点だったといえる。これまでの選挙報道が投開票日に重きをおき開票速報などに注力してきたのに対し、今回は参院選の公示日から投開票日まで、『ANNニュース』や各ベルト番組において、切れ目のない選挙関連のニュース出稿を継続した。この途切れることない出稿のため、当社およびANN各局では、取材や出稿に関する組織や業務フローを見直すなど大きな転換をはかった。各ベルト番組では選挙関連企画が前回の衆院選よりも急増し、当社ニュースサイトの「テレ朝NEWS」では選挙特設ページへのアクセス数が増加するなど、一定の結果は残せたと思っている。

ただ、投票行動が変容している中、今回の対応が正解だったとはまだ断定できない。引き続き、選挙報道のあり方について検討していきたいと思う。


テレビ朝日 報道局ニュースセンター ニュース統括担当部長兼コメンテーター室
能見 謙司(のうみ・けんじ)

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