2025年の参院選は、テレビ各局の選挙報道にとって一つのターニングポイントになるものだったが、フジテレビも新たな一歩を踏み出すとともに、それによる課題も浮かび上がった。
事前報道の強化を至上命題に
今回の選挙報道の最大のテーマ、それは「事前報道の強化」だった。そもそも、ここ数年の選挙報道においては、選挙当日の開票特番について各テレビ局がしのぎを削る一方、投票が終わってからの報道ではなく、投開票前の報道をより求める声が高まっていた。さらに、SNSやネット動画等の影響拡大、真偽不明な情報の拡散という現象が起き、昨年の東京都知事選、衆院選、兵庫県知事選では、選挙期間中、公平性重視のため各メディアの報道が減少した結果、選挙戦中の動きを捉えきれず、SNSの情報が先行するという課題などが指摘された。
選挙報道の指針改定からスタート
これを受けて、フジテレビでも選挙報道の指針を改定し、「選挙報道の『質的公平性』の一層の重視」「SNS・動画による真偽不明情報や誹謗中傷等への対応」「取材時の記者・カメラマン等の安全対策」などを新たに掲げた。
そのうえで今回の参院選にあたり、フジテレビ系列一体で、事前報道キャンペーン「もっと 投票の前に」を立ち上げた。
「もっと 投票の前に」に込めた意味
このキャンペーン、当初は「選挙に向き合う」などやや固めのタイトルを考えていた。しかし、今回の選挙の事前報道を多角的な視点で幅広く正確に伝えることを考えた際に「もっと正しく」「もっと深く」「もっと知りたい」というコンセプトに行き着き、「もっと」を前面に出すこととした。
具体的な報道においては、昼のニュース『FNN Live News days』で各党の訴えと戦略・課題についての記者リポート。夜のニュース『FNN Live News α』では争点となっている政策についてデスクがリポート。そして夕方のメインニュース『Live Newsイット!』ではより幅広い角度での報道を展開し、情報番組の『サン!シャイン』では、情報番組ならではの角度をつけた視点で切り込んだ。ネット上でも、FNNプライムオンラインに党首演説のノーカット動画を掲載するなど、独自の取り組みを展開した。
<『Live Newsイット!』>
政策分析からファクトチェックまで多角的に
『Live Newsイット!』での報道内容については、従来からの選挙区モノや政策モノの拡充に加え、「ボートマッチ」「ファクトチェック」「組織票と浮動票」「石破首相や参政党代表の発言検証」「海外勢力の選挙介入」など幅広いテーマをとりあげた。さらに、日本最大級の選挙・政治情報サイト「選挙ドットコム」とコラボしてのデジタル解析やネット上の選挙戦の最新情報についても伝えた。
このうちファクトチェックに関しては、今回の選挙戦で大きな注目を集めたが、まずは何をチェックの対象とするかが、大きな課題だった。フジテレビでは、優先順位を検討する中で、自社の番組の放送責任に鑑み、各党首が出演した『日曜報道 THE PRIME』における党首の発言とその波紋をファクトチェックの対象とした。
<石破首相の発言のファクトチェック>
具体的には参政党・神谷宗幣代表による「外国人が購入した日本国内の不動産への相続税課税の実態」に関する発言が正確か否かの検証を行った。また外国人による都心の不動産購入に関連し石破茂首相の「(日本人は)都心に住まないといけないのか」との発言を「日本人は田舎に住め」と発言したかのように伝える動画がネット上で流布されていることをとりあげ、実際の番組での発言との照合を行った。
<参政党・神谷代表の発言のファクトチェック>
神谷代表の発言については、国税庁への取材による見解、参政党への取材による発言の真意を確認する取材を行った。さらに神谷代表がその後、『BSフジLIVE プライムニュース』に出演した際にも説明を直接求めるところまで取材を進め、一連について、番組での放送やオンラインの記事として伝えた。
浮上した課題にどう応えていくか
こうしたファクトチェックに関しては各方面からも一定の評価をいただき、価値があったとの認識を持っているが、参政党の支持者からは、神谷代表の発言を狙い撃ちにしたのではないかとのご指摘もいただいた。番組全体を俯瞰した際に、この発言が突出していたために当該発言をとりあげることになったのだが、今後こうした指摘に十分応えるためには、なぜこの事象を対象としたかについて、もう一段の詳しい説明があればより理解が深まるのかもしれない。ファクトチェックの信頼性を高めていく上での課題と感じる。
また、選挙戦中に神谷代表が「どんどんファクトチェックしてください」と発言したように、ある発信に疑問を呈する意味で指摘したことが、逆にその発信者を利するという側面も今回見て取れた。その発信者を利するか否かについては、1人を選ぶ選挙なのか、複数を選ぶ選挙や比例代表なのかによっても変わる部分があることも念頭に置き、慎重に判断する必要もあると考える。
一方で、一連の事前報道キャンペーンは、他のテレビ・新聞のキャンペーンや積極報道とも相まって、投票率の向上にもつながったのではないかと認識している。
「もっと 投票の後も」 カギは継続性
フジテレビでは、参院選から1カ月たった8月20日に「もっと 投票の後も」と題して、公約のその後をとりあげる報道を展開した。引き続き今回の参院選で踏み出した一歩を冷静に分析・検証し、継続的に報道することの重要性、そして次の選挙報道がより視聴者に信頼され重視されるよう、研鑽を積む必要性の認識を新たにした選挙戦だった。
フジテレビジョン 報道局政治部長
髙田 圭太(たかだ・けいた)