事前報道重視~新しい選挙報道プロジェクト~
最近の各種選挙の過程で、テレビの選挙報道は「消極的」とも言われました。今回の参院選報道を質・量ともに従来の選挙報道を見直す"転換点"とするべく、1月に社内でプロジェクトを立ち上げ、専門家や研究者の意見、編成や法務など他部署の協力も得ながら具体策を練りました。従来は、投開票日夜の特番でいち早く選挙結果を伝え今後の政治情勢の先読みにつながる情報を提示することに、多くの労力を割いてきました。しかし、生活者の中には「投票先を考えたいのに情報が少ない」「何か隠しているのではないか」という不満もあることがプロジェクト内で議論になりました。その結果、「投票の判断材料となる有益な情報の発信量を増やす」ことの重視を決めました。
3カ月前「選挙報道」開始
投票に向けた情報収集へのきっかけにしてもらえるよう、最初の「選挙企画」を放送したのは公示の3カ月前。経済対策をテーマに取り上げ、ウェブ配信ではその時点で立候補を表明していた東海3県の予定者全員の政策・スタンスを記事化しました。投開票日までの3週間には、前回衆院選と比べて約3倍の数の企画を放送。ウェブ配信もオリジナルコンテンツの導入など刷新し、選挙への関心の高さも相まって前回よりも多くの人に閲覧されました。総じて、取材の手数や時間は従来よりもかかったものの、これまでよりも「取材した情報を生かし切る」ことにもつながりました。
コンテンツに3つの軸
「何で選ぶ?」「誰を選ぶ?」「それってほんと?」
「情報は、伝わって初めて意味を持つ」と言われますが、ことさら「映像が付いてこない」「理屈っぽくて伝わりづらい」とも言われがちなのが選挙報道。そこで、「何で選ぶ?」「誰を選ぶ?」「それってほんと?」の3つのフレームを打ち出しながら、放送/配信の出し口の違いも考慮しながら取り上げるテーマや内容を考えました。
<3つの軸でコンテンツを作成>
「何で選ぶ?」は、争点や社会課題などを軸に各政党の公約や方針を伝えるフレーム。「誰を選ぶ?」は各候補者の主張や人柄などを重視したフレームで、ウェブではより詳細に伝わるよう争点に関する全候補者の動画も配信しました。「それってほんと?」はファクトチェック的なフレームで、期日前投票や外国人政策などについてSNSで飛び交う諸説の真偽を関係者取材や分析ツールを使って取り上げました。意識したのは、事前にポイントを知った上でSNSを参照できるような情報を提供することや、選挙期間中の情勢の変化を見極めながらテーマ設定することです。
<SNSで飛び交う諸説の真偽を取り上げ>
初めての合同企画「民放5局が発信で連携」
名古屋地区では今回、民放テレビ5局が運営する動画配信サービス「Locipo(ロキポ)」(※外部サイトに遷移します)の中に参院選の特設サイトを設置。5局で作業を分担し、東海3県の全候補者の第一声を"ノーカット配信"したほか、各局がニュース番組で放送したVTRをまとめて見られる形を取りました。各局とも「局の垣根を越えて、地元の生活者に投票の参考になる材料をより多く届けたい」との思いは同じで、タッチポイントを増やす策として検討を開始。素材の集約方法や公平性などについて議論を重ね、初となる試みが実現しました。
<「Locipo(ロキポ)」で東海3県の全候補者の第一声を配信>
「着眼点を公平に」 次回に向けて課題も
プロジェクトでは「公平性」についての研究・議論にも時間を割き、報道の指針を策定しました。日々の取材やコンテンツ作りで特に重視したのは「取り上げる根拠・ニュース性を議論して明確化し、その着眼点を公平に適用する」という姿勢。時間に限りもある放送でそれを実現するために、1つの選挙区の候補者を複数の日付に分けて放送することもありました。
コンテンツ量の充実が実現した一方で、課題も見えました。マンパワーにも限りがある中で、参院選よりも選挙区や候補者が大幅に増えることが予想される衆院選でどんな取材・報道を行うのか、投開票日が近づくにつれ争点や情勢がめまぐるしく変動することへの対応、配信も含めたコンテンツをより多くの生活者に届ける工夫など、課題の抽出と解決への模索が続いています。
中京テレビ放送 報道局報道部長
渡邊 祐史(わたなべ・ゆうじ)