【10月9日審査】
審査委員長=川喜田尚(大正大学 表現学部教授、TBSテレビ番組審議会委員)
審査員=川床弥生(読売新聞 文化部記者)
小松成美(作家、テレビ朝日放送番組審議会委員)
齋藤孝(明治大学教授、フジテレビジョン番組審議会委員)
酒井順子(エッセイスト、日本テレビ放送網放送番組審議会副委員長)
佐藤隆(東急エージェンシー 執行役員メディアソリューション本部本部長、日本広告業協会メディア委員会委員)
馬場剛史(KDDI 渉外・コミュニケーション統括本部ブランド・コミュニケーション本部長、日本アドバタイザーズ協会理事・メディア委員会委員)
平川翔(共同通信 文化部記者)
平野早矢香(ミキハウス スポーツクラブアドバイザー、テレビ東京放送番組審議会委員)
諸隈美紗稀(毎日新聞 学芸部記者)
「放送文化の向上に寄与した」とはどのようなことか――。いずれも秀作・力作と呼べる8作品が出そろった審査会は、そんな議論から始まった。各審査員が挙げた評価軸を総合すると、「真実性」「新規性」「タイムリーさ」の3点に集約されたように思われる。
グランプリに選ばれた静岡放送『SBSスペシャル 無限の檻〜袴田巖さんと再審〜』(=冒頭写真)は、「真実性」の軸で最も評価された作品と言える。58年間にも及ぶ袴田さんの裁判闘争を丹念に追った骨太なドキュメンタリーで、地元局ならではの豊富な映像素材を見事に生かした。
特に、死刑判決を下した裁判の過程で、内心では無罪だと思っていたという3人の裁判官の証言は非常に重い。冤罪がもたらす傷の深さや、再審に至るまでのハードルの高さも指摘し「今の問題として伝えている」「問題提起をしっかりやっている」といった称賛の声が相次いだ。
今年10月、袴田さんは国などを相手取って約6億円の損害賠償を請求する訴訟を起こした。問題は今なお続いており、そうしたタイムリーな状況の中で、本番組が再放送される意義は大きい。
準グランプリに食い込んだ朝日放送テレビ『ちょいバラ 濱田祐太郎のブラリモウドク』(=写真㊤)は、その圧倒的な「新規性」が買われたバラエティ番組だ。盲目のピン芸人である濱田さんが白杖を持ちながら、芸人仲間と共に街歩きをする。例えば、おしゃれな街として知られる大阪・堀江では「点字ブロックが1個もない」と毒づく。
「今までになかった笑いがあり、同時に考えさせられる」「障害のある人が『街へ出て行ってもいい』という勇気をもらえる」と絶賛する声があった一方、「どう受け止めていいのか分からず、一歩引いてしまった」という否定的な意見も出た。それでも「関西ならではの軽やかさが生きた、画期的な番組」との評価が勝った。
新型コロナワクチンの副反応や死亡事例について深掘りしたCBCテレビ『評価不能γ ワクチンの影』を強く推す審査員も多かった。「取り残された人々の声を伝える」という報道の意義を体現したようなドキュメンタリーで、インターネットを中心に根拠のない情報も飛び交うワクチンの功罪について、確かな取材に基づいて報道した点に敬意を表したい。
がんに冒された札幌在住の俳優・斎藤歩さんを取り上げた北海道テレビ放送『HTBノンフィクション「生ききる ~俳優と妻の夜想曲~」』に対しては、感情を突き動かされたとの感想が相次いだ。制作者と取材対象者が旧知の間柄だったという事情も影響し、作り手の揺らぎすらも映像に収めた唯一無二の番組だった。
自閉スペクトラム症(ASD)の弟を持つ青年の日常を描いたTBSテレビ『ライオンの隠れ家』、人間の多面的な姿を表現した関西テレビ放送『アンメット ある脳外科医の日記』は共に大変優れた連続ドラマだった。能登半島地震で被災した寿司店の親子を取り上げた中京テレビ放送『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』は幅広い世代に訴える力があり、富山テレビ放送『雲上の除雪隊~アルペンルートの春~』が映し出した立山の壮大な自然と人間の対比も忘れ難かった。

