【2025参院選報道】名古屋テレビ放送 東海3県の有権者へ "知るべき情報"どう選び伝えるか

久須美 慎
【2025参院選報道】名古屋テレビ放送 東海3県の有権者へ "知るべき情報"どう選び伝えるか

テレビの選挙報道はSNSの"敵"?

「そうやって世論を作ろうとするからオールドメディアは視聴者が減っていく」「メディアなんて、メディアの味方のとこしか放送しないからね」――放送した選挙企画の配信動画につけられた、ネガティブなコメント。選挙においてSNSが存在感を示す一方、テレビは公平性を重視するあまりに有権者の求める情報を「量・質」両面で十分に伝えていなかったのではないかなどと指摘されています。

そんな中で迎えた今回の参院選。名古屋テレビ放送(以下メ~テレ)では選挙期間中、平日夕方のニュース情報番組『ドデスカ+』内で毎日、関連企画を放送しました。共通テーマは「話そう、参院選」。"事前報道"に注力し、視聴者それぞれが選挙について周囲と話し、考えるきっかけになる情報を届けることを目指しました。「各争点」「公約比較」「就職氷河期」「比例代表の投票先の選び方」など、日替わりでテーマを設定。自局内での比較ではありますが、夕方ニュース情報番組内での選挙関連の放送実績は、前回の参院選時に比べて約2倍となりました(公示前日から13回・合計放送時間142分/前回2022年は6回・67分)。

何が有権者に"有用な情報"か? "質的公平"の模索

選挙期間中の「それぞれの候補の放送時間(尺)はなるべく同じにする=量的公平」は、私にとっても"選挙報道の常識"と思っていました。今回は、そのバランスが変わったとしても、有権者にとって"有用な情報"と判断したものを放送に反映しました。そのひとつが「政治とカネ」についてです。

【資料②】「政治とカネ」企画放送(ドデスカ+内).jpg

<『ドデスカ+』内で放送した「政治とカネ」企画>

メ~テレの放送エリア(愛知・岐阜・三重)内の愛知・三重ではそれぞれ政治資金収支報告書への不記載があった自民現職が再選を目指し、岐阜では政治資金規正法違反で在宅起訴された現職が不出馬を表明していました。このため、重要テーマのひとつとして設定しましたが、この問題を扱う際には展開上、自民候補と他の候補との放送尺をそろえる「量的公平」は担保できなくなります。

ただ、今回はこの問題が明らかになってから初めてとなる参院選です。不記載のあった現職議員や、政権与党がこの問題にどのように向き合ったのかについての情報は、有権者が投票先について考える重要な要素であり、有権者の関心が選挙に向かう公示後にこそ取り上げるタイミングでもあると考えました。当日の企画では、不記載について、愛知と三重の自民候補のみのインタビュー内容を放送しました。企画内では他の候補は顔写真を紹介する程度となり、候補者それぞれの放送尺はそろわない形となりましたが、"投票に資する情報"を伝えるということを念頭に置き、放送に臨みました。

放送エリアの全候補者の"第一声"を在名各局と共同で配信

放送エリアの選挙区候補者は計24人。地上波向けに編集した場合、それぞれの主張の"尺"は限られてしまいます。そこで今回は、名古屋の民放テレビ5局が運営する動画配信サービス「Locipo(ロキポ)」(※外部サイトに遷移します)で3つの選挙区すべての立候補者の「第一声」演説の動画を共同で配信しました。各局分担し撮影した第一声は、「有権者が全てを聞いて判断してもらうため」として、原則カットしない形で配信しました(累計の再生数は24人分で計約3,000回)。また、ANNで初めて実施した「X全量分析」(Xのすべての投稿の分析調査)の結果をメ~テレのローカル選挙特番内でも活用し、SNS上での参政党への関心の高さなどについて放送しました。

【資料③】第一声配信(Locipo).png

<「Locipo(ロキポ)」で配信した「第一声」演説の動画>

行政担当や支局担当の9人の記者に加え、担当外の記者やクロスメディアのメンバーなどが連携して伝えた今回のメ~テレの参院選報道。これらの取り組みが、視聴者に"有用な情報"として届けられたのかの検証も必要ですが、何より大事なのは、視聴者からの信頼です。冒頭のSNS上のコメントのような、視聴者の"不信感"をいかに拭い、信頼される地域のメディアになれるか。「次の選挙に向けて」ではなく、普段からこの課題に向き合い続け、誠実な取材と報道に取り組んでいきたいと考えています。


名古屋テレビ放送 報道センター選挙担当
久須美 慎(くすみ・しん)

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