これまでの当社の選挙報道に「量」が少なかったという思いはありませんでした。「有権者の投票行動に資する報道」は、入社以来たたき込まれた方針で、「やるのが当たり前」だったからです。しかし、事前報道に対するメディア批判をひしひしと感じる中で、厳しく見直す必要があると考えました。何をどう変えるのか、変えないのか......試行錯誤を繰り返した参院選を振り返ります。
"争点"は事前 当日は"結果" 方針は変えず
選挙報道の見直しは、私が選挙特番のプロデューサーを務めることになった2024年の衆院選前に一度行っていました。過去の投開票日の選挙特番では、ゲストを呼んだり、争点について長尺の特集を作ったりと、見応えはありましたが、「投票を終えた視聴者が知りたい情報なのか?」という疑問が残りました。そこで特番のゲストと長尺VTRはやめ、"結果"を伝えるライブショーに。"争点"は事前に集中投下......という方針を作りました。これが参院選の事前報道を検討したベースです。
変えたことは「量」と「出し方」
本格的に選挙班が動き始める前の2025年春、過去の参院選の「事前報道」を検証しました。3年前は、ほぼ毎日、日々の動きとは別に選挙関連の5分程度のミニ企画を出し続けていた一方、各政党の考え方の違いが分かりづらく、「平日3時間の番組内での5分」は、印象が薄かったのかもしれません。そこで、報道の「量」を大幅に増やし、公示直前から15日間は、特集枠10分をすべて選挙関連とするほか、定時性をもたせることで印象付けも狙いました。報道部内に示した方針は次のとおりです。
平日夕方『newsX』での事前報道の方針
JNNのキャンペーンとリンクするよう、「選挙そのまえに」というワッペンを作ったうえで、②→③で課題と、各党のスタンスの違いの両方が伝わる構成を目指しました。
<『newsX』での事前報道①>
スタッフ増員で"集中投下" 事前報道の「量」は2.5倍に
選挙班の本格スタートは5月下旬になりました。特集を出し続けるため、選挙班を2人増員したほか、ファクトチェックに対応できるよう遊軍的なポジションも作りました。ネタ選定はあくまでも記者の関心に基づくものが原則で、映像化が難しい「選択的夫婦別姓」なども当事者への取材にこだわり、展開は選挙デスク、統括編集長、特集デスク、行政キャップらによる週1回の会議でスーパー表記など細かな部分まで議論しました。OA実績は次のとおりです。
<平日夕方3時間のローカル枠での事前報道の実績>
「期日前投票の利用者増」など当日モノを、上記②→③の前に加えたことで、日々の「選挙そのまえに」のコーナー尺が増えました。
<『newsX』での事前報道②>
定まった方向性とマンパワーの課題
結果的に東海3県の投票率は前回参院選よりも5~7ポイントアップしていて、事前報道がその一助になったのであれば光栄です。投開票日の特番は「選挙どうなった」として、衆院選と同様、VTRはほとんど作らず、ライブショーにしました。期日前投票の利用者が増える傾向にある中、"争点"は事前、当日は"結果"という方向性は今後も維持すべきと感じています。
一方、課題もハッキリしてきました。事前報道の強化で投開票日までの長期戦を「気合で乗り切る」面があったのは否めません。また、扱うネタの基準は設けていたとはいえ、ファクトチェックでオンエアに至ったネタはゼロ。突然やってくる衆院選で、事前報道の質・量を担保できるのか......。「視聴者が知りたい情報」を出し続けられる、持続可能な態勢づくりが必要です。各局の皆さまの報道も参考に「選挙の前にはテレビ」「選挙の夜もテレビ」という人が増えてくれるよう、試行錯誤を続けていきたいと思います。
CBCテレビ 報道局報道部
尾関 淳哉(おぜき・じゅんや)