2021年の米広告費は、コロナ禍からの脱却が意識され、広告主が消費に関して強気に転じたこともあり、20年比で大幅に改善した。特にデジタルは大きな伸びを記録し、20年に苦戦したテレビも広告需要が復活。調査会社のeMarketerによれば、春に行われるテレビ広告の一括事前取引であるアップフロントの取引額は20年比7・6%増とされ、単価は各社でばらつきはあるものの16~20%の上昇となった。また、各社が注力する配信プラットフォームにおけるコネクテッドTV(CTV)在庫への強い需要も後押しし、交渉終了後には「史上最高のアップフロント」などの見出しが躍った。テレビは直前で広告枠を販売するスキャッター市場も堅調で、全体でも5%増となった模様だ。22年は調査会社によってばらつきはあるが、おおむね横ばいから微増と予想されている。
広告関連では、コロナ禍で取引量が増えたEコマースのマーケティングへのデータ活用を武器とするリテールメディア(小売業者が購買データ等を広告配信に活用する事業)も注目を浴びた。アマゾンを筆頭に、小売大手のウォルマートやターゲットなど、豊富なファーストパーティーデータ(自社が直接保有するデータ)を駆使した結果計測型広告が広告主の注目を集めた。
同様にモバイルゲームでも、ゲーム内広告が脚光を浴びた。ファーストパーティーデータを使用した正確なユーザー分析を武器に、他のゲーム開発会社や広告主に広告機会を提供するプラットフォームのApp Lovinなどが躍進し、株式公開や高い企業価値が話題となった。
どちらの例もメディア・広告以外の業界からの広告分野への参入であり、ポストクッキー時代のファーストパーティーデータの重要性が浮き彫りになった形だ。これまでデジタル広告で多用されてきたサードパーティークッキーは23年中にサポートが終了する予定で、次世代のソリューションの模索は続いており、こうした傾向は22年も継続するとみられている。
アップフロントやカレンシーも新時代に対応
コロナ禍における巣ごもりや可処分時間の増加でエンタメ視聴は増えたが、その恩恵を受けたのは、従来の放送よりもむしろ配信だろう。大画面で配信を視聴するCTVの隆盛や各社の配信戦略の積極拡大がそれを物語っている。
こうした変化は22年のテレビ広告取引形態にも影響を及ぼしそうだ。NBCUやDisneyは昨年から3月に広告テックやデータ系のイベント、5月にコンテンツ系のイベントと2本立てでアップフロントを移行しており、今年はFOXもこの動きに追随。テレビ広告に配信(特にCTV)などを含めて組み合わせた"ポートフォリオセールス"という新しい形に、アップフロントのイベント形態やセールス手法が変化していきそうだ。
もう一つは、テレビ広告の取引カレンシーであるニールセンの動向だ。ニールセンはコロナ禍でデータ調査の参加世帯へのメンテナンスが滞り、正確な視聴計測ができていなかったことが発覚し、MRC(米視聴指標監査機関)の認定を失った。これに端を発して、有力候補のニールセンに加え、ComScoreやVideoAmpといった競合他社が次世代のカレンシーを目指してネットワークや広告会社とのテストを開始している。これまでも、テレビとデジタルのクロスプラットフォーム計測指標は長らく議論されてきたが、いよいよ22年での実現が期待される。
各社が力を入れる配信競争も第二段階に入った。Disneyはコンテンツへの投資を増加し、Netflixへの追い上げを図る。NBCUはピーコックを北京五輪の配信ハブとし、会員増を狙う。ViacomCBSのParamount+は、欧州のサッカーコンテンツの拡充やパラマウント映画の優先配信などで他社に追随。WarnerMediaのHBO Maxは、これまで注力してきたコンテンツ重視の施策が花開き、当初より好調に推移している。これらの多くのサービスは20年に立ち上がっており、22年は顧客維持や国際展開などの点で真価が問われることになるだろう。