東海テレビ「土ドラ」 作り続ける原点――続・人の心を震わせる忘れられないドラマを

市野 直親
東海テレビ「土ドラ」 作り続ける原点――続・人の心を震わせる忘れられないドラマを

「唯一、わが国が誇れるものがあるとしたらそれは......『とにかく作り続けてきたこと』です」。先日放送が終了した土ドラ『テイオーの長い休日』。テレビ局が2時間ドラマを作らなくなったために仕事を失った"2時間サスペンスの帝王"熱護大五郎。船越英一郎さんが演じるそのかなり偏屈な男は再びスターの座に返り咲けるのか......。そんなヒューマンコメディの最終回、2時間ドラマで有名な千葉県のあの"崖"のシーンで出てきたセリフです(脚本:入江信吾、プロデューサー:松本圭右・井上竜太、制作:東海テレビ・ホリプロ)。

まさに作り続けること......おかげさまで「東海テレビのドラマ」も1964年5月4日スタートの「昼ドラ」(昼の帯ドラマ)を経て、2016年から現在まで放送中の「土ドラ」(東海テレビ・フジテレビ系、土、23・40―24・35)へと形を変えながら、今日まで連続ドラマを作り続けてまいりました。これもひとえに支えてくださった視聴者の皆さま、スポンサーの皆さまのおかげであり、そしてあらゆるポジションで携わったスタッフ、さらには出演者の皆さまの努力と勇気の結実だとあらためて感謝しております。

今やチーフ格となったカメラマンがキャリアのスタートは「昼ドラ」のケーブルアシスタントだったとか、初めての現場が「昼ドラ」の制作見習いだった方が「土ドラ」のプロデューサーとなり数々の賞を受けることとなったなどと聞くたびに、東海テレビのドラマがさまざまな方に支えられてきた事実を日々実感せずにはいられません。

多種多様なドラマを

さて、「土ドラ」は「オトナの土ドラ」として2016年4月、人の"心の奥に潜む狂気"をテーマにした心理サスペンスドラマ『火の粉』をその第1作としてスタートしました。途中、さらに多くのお客さまに見ていただけるよう「土ドラ」に枠タイトルを変えながら多種多様なドラマを放送してきました。

あえてジャンル分けするならば、『絶対正義』『恐怖新聞』のようなサスペンスやホラー、『さくらの親子丼』『僕の大好きな妻!』のような社会派エンターテインメント、『その女、ジルバ』のような人生賛歌、ほかにも『おい、ハンサム!』(日本映画放送さんとの共同製作)や『最高のオバハン 中島ハルコ』『三千円の使いかた』など、一言では説明できない面白さを備えた、まさに多種多様なドラマを、多種多様な制作形態で6人のプロデューサーたちが制作してきました。

そして現在放送中の「土ドラ」は『東海テレビ×WOWOW共同製作連続ドラマ ギフテッドseason1』。天才刑事と高校生のバディが斬新な推理と異能力で事件解決に臨む本格ミステリーで、WOWOWさんとの共同製作の4作目となります。season1終了後にseason2をWOWOWさんで放送・配信するという形式で、こちらもまたこの形態でひたすらに作り続けてきたたまものです。文化の異なる2社ですが、毎回、両社のプロデューサーが同じ目的を持ってseason1のストーリーや台本を一緒に作るところから始めています。両社の製作スタンスの利点を活かしつつ、よりダイナミックに物語を作り上げる作業は作り手にとってもこの上ない刺激です。こうした多種多様なドラマを、"土曜日の夜のひととき"に皆さまそれぞれの形で楽しんでいただければ幸いです。

配信時代でも変わらぬセオリー

"土曜日のひととき"とあえて申しあげましたが、「土ドラ」も配信を意識せざるを得ません。これまでは、眠たくなる時間だからこそ画面を注視してもらえるよう、音を逆回転させたり、セリフを激しくしたり、雨や雷を多用したりすることもありましたが、もはや放送時間はもちろん、制作局、制作時期もある意味、関係なくなっている時代。あるOTTサービスで前述『火の粉』が新作としてランク入りしたのも、放送から7年以上経過したつい最近のことでした。

だからこそ、生活習慣として毎週決まった時間に見たくなるようなドラマや東海テレビならではと喜んでいただけるドラマの模索もしておりますが、一方で、いつ、どこで、どこから見ても楽しんでいただけるドラマとして多くの作品群のなかから選ばれるための施策も大切にすべきと考えております。さらにはゲームやSNSをライバルとして視聴時間を獲得することも必要です。

そんな状況で、いつも思い出すのは、25年前の昼ドラ時代から先輩に教わってきた幾多の東海テレビのドラマ制作のセオリー。例えば「愚直に人間を見つめること」「今日見てくれた人が明日も必ず見たくなる作りであること」、そして「変わらないために変わり続けること」などが挙げられます。

変わらないこととは、見てくださる方の心が震え、忘れられなくなるドラマを1話ごと、丁寧に作り続けること。冒頭の土ドラ『テイオーの休日』でも第2話(脚本:入江信吾)で「こんな、政治の産物みたいなホンで誰が幸せになるのですか。一番大事なのは視聴者に楽しんでもらうことではないのですか。あなた方は一体、どこを向いて仕事をしているのですか......」と、主人公の熱護大五郎が熱き想いをドラマ制作者たちに向けて言い放っています。

私は今回、2007年に『月刊民放』(発行:民放連、21年3月に休刊)以来、東海テレビのドラマについて2度目の寄稿の依頼をいただきました。あらためて当時の誌面に目を通してみると、そこに記した多くの先輩たちから聞かされたドラマ制作のセオリーが、今も十分に通用していることに驚きました。16年前に執筆した際のタイトルは「人の心を震わせる忘れられないドラマを」。今回、タイトルに「続」をつけて前回の続きにした理由はここにあります。私は、しっかりとお客さまを見て作ることこそコンテンツビジネスの原点だと思います。

そしてその原点を守るためにも、時代が変わり技術が進歩するなかで、東海テレビのドラマ制作は、これからさらに国内外を問わずさまざまなメディアや制作会社の方々と「変わらないために変わり続ける」チャレンジを続けたいと思っています。ローカル局である東海テレビのドラマには小さな石の礫(つぶて)しかつくれないかもしれません。でも、その礫を固くして、見てくださる方々の心に、時間と場所を超えて幾重にも広がっていく波紋を残すことはできると強く信じています。これからも東海テレビのドラマをどうぞよろしくお願いいたします。

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