"演者"を育み、個々人の適性を探る場としての乃木坂46

香月 孝史
"演者"を育み、個々人の適性を探る場としての乃木坂46

横断的な視野でラジオ文化をつなぐ山崎怜奈

TOKYO FMの昼時間帯の顔としてすっかり定着した『山崎怜奈の誰かに話したかったこと。』(月―木、13001455)が、来たる10月で放送年目に入る。パーソナリティを務める山崎怜奈は、そのスムーズな語り口はもちろんのこと、他局番組にも広く目を配りながら、ラジオというメディア全体をゆるやかにつないでみせるような立ち回りで、自身の色を確立させている。

同番組企画の「ラジオフレンズWEEK」など、各局番組パーソナリティとの対話からしばしばうかがえるのは、山崎が発揮するラジオメディアへの感度の高さばかりでなく、対談相手と山崎とが相互に向けるリスペクトのありようである。そうしたトークの時間は、互いの持ち味や各番組の特性を紹介する場であると同時に、放送局は違えどもラジオという文化自体を受け継ぎ、ともに伝えていこうとする協働的な意思を垣間見せるものでもある。

今夏には番組初のイベント『ダレハナ夏祭り!』(11日)も開催、またTOKYO FMと文芸誌『小説現代』がコラボした『TOKYO FMサンデースペシャル ラジオ聴く百物語』(13日)では、ラジオパーソナリティである山崎自身の立場をフックにした「物語」として番組が構成されるなど、その存在感はさらに増している。

 ラジオでの活躍が
出身グループにフィードバック

「ラジオフレンズWEEK」企画と往還するようなかたちで、山崎がゲスト出演した日のTBSラジオ『アフタージャンクション』では、彼女が乃木坂46在籍時、大学受験期に「radiko」のエリアフリー聴取を通じてCBCラジオを聴くようになり、その来歴が同局の『ザキオカ×スクランブル』(土、16151645)など今日の仕事にまでつながっていることを語り、あらためて局を横断しながら自身のラジオへの愛着を示す機会となった。

こうした来歴に関するトークで言及されるように、山崎はもともとアイドルグループ・乃木坂46のメンバーとして、ながらく活動してきた人物である。『誰かに話したかったこと。』も2020年の放送開始当初は、「乃木坂46メンバー初の帯番組」という惹句とともにスタートしている。山崎がおよそ年半の乃木坂46所属期間のなかで、自身の立ち位置や適性をフラットに見きわめつつ開拓したその場所は、グループを卒業してのち重要な拠点となり、彼女は他の乃木坂46出身者にも例を見ないバランスの活動スタイルを築いている。

もっとも、月5日放送の『二軒目どうする?~ツマミのハナシ~』(テレビ東京)に山崎が出演した際の松岡昌宏、博多大吉とのやりとりからもうかがえたが、いまや山崎は「元乃木坂46」であることが必ずしも認識されず、事後的にグループでの長い活動歴が知られるケースも少なくない。これは間違いなく、一個人としての彼女のキャリアの順調さを示すものだ。

同時に、「元乃木坂46」の看板を意識させないほどに長期的な活躍を続けること自体が、乃木坂46という組織への、そしてグループに所属する後進メンバーへの最良のフィードバックでもある。

多様なプレイヤーを輩出する組織として

前節末尾のように記したのは、乃木坂46が長年にわたり、メンバーそれぞれの適性に応じて多方面のメディアで活躍する演者を輩出している組織であるためだ。

もちろん、乃木坂46は一般的には音楽グループとして認知され、音楽作品によってグループ全体の色を表現してきた。主たる活動も楽曲リリースやライブ等、音楽活動のスケジュールに則り、音源販売の記録や大型音楽特番の出演などによって、自らの立場をオーソライズしている(冒頭写真は20225月のライブ会場となった日産スタジアムの外観=筆者撮影)。

しかしその背景で乃木坂46は、グループ内で制作する大量のコンテンツにおいて、音楽にかかわらず広く演者としての経験を重ねる機会を、豊富に設けてきた組織でもある。加えてドラマや映画、演劇、ファッション誌、テレビバラエティやラジオ番組、広告等々、いくつもの分野と関わりを持ちながら個々人の活路を探り、長期的に演者を育む組織としてある。そして、それら広範な活動の総体が実質的にグループの訴求力となっている。

その意味で、音楽グループという枠組みばかりに還元して乃木坂46を評しても、とりこぼすものが大きくなる。総合的なエンターテインメントの土壌ないし機関のようなものとして捉えた方が、その存在や価値を理解しやすい。

これは何も乃木坂46に限ったことではなく、今日メジャーなフィールドで活動する多人数アイドルグループが大なり小なり備えている性質といえる。直接的な先達としては、AKB48グループが代表的なものだろう。あるいは、かつてソロで活動するアイドルの割合が現在より高かった時期ならば、一人の演者によるジャンル横断的な活動はより自然になされていたかもしれない。今日のメジャーシーンのグループアイドルは、アイドルという職能が本来的にもつそうしたマルチ性を組織として引き受け、個々人の適性をそのつど探る場としての性格を持っている。

表慶館.JPG

<2021年秋に東京国立博物館で開催された企画展示の外観=筆者撮影>

そのなかで今日、際立って好循環を生んでいるグループとして乃木坂46はある。生田絵梨花、西野七瀬、白石麻衣といった、グループ在籍時に中心的なポジションにいた人物たちの活動はその代表例といえるし、より報道メディアに近い分野でいえば市來玲奈や斎藤ちはるのようにテレビ局のアナウンサーとしてすでにキャリアを重ねている人物もいる。また先述のように、特有の道程でラジオスターになった山崎の存在も貴重である。その姿は、翻って乃木坂46を足がかりに長期的なキャリアを歩む後進の人々にとっても、将来の道としてさまざまな可能性があることの証左になり、道標にもなるはずだ。

そして今日、現役で乃木坂46に所属するメンバーの活躍も、いっそう目を引くようになった。グループを牽引する立場になって久しい山下美月は、NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の主要キャラクター・久留美役をはじめ、昨年後半以降は現在までほぼ絶え間なくテレビドラマに出演、近々でも10月スタートの日曜劇場『下剋上球児』(TBSテレビ系)への出演も発表されるなど、進境著しい俳優の一人である。あるいは毎週水曜の『乃木坂46のオールナイトニッポン』(ニッポン放送、25002700)パーソナリティも務める久保史緒里は、NHK大河ドラマ『どうする家康』五徳役のほか、この数年のあゆみからは舞台演劇への適性も強くうかがえる。多くのメディアで活躍する演者を輩出するグループとしての乃木坂46は、歳月を重ねてさらに厚みを増している。

 問題への向き合い方が組織への信頼に

他方、こうしたグループにおいては、メンバーたちの心身をケアする周辺環境をいかに整備しうるか、またその姿を組織として提示していけるかということも肝要である。もっとも、その点について言えば今年、メンバーのケアに関して疑念を抱かせる振る舞いがみられたことも否定できない。最後に、そんな論点も視野に入れておきたい。

521日放送のNHKラジオ第1『らじらー!サンデー』内で、乃木坂46の早川聖来(こののち月下旬にグループから卒業)は、乃木坂46のライブ演出家を務めていたSEIGOがメンバーに対して、容姿などに関する乱暴な言動をしている旨を告白した。この発信を受けて調査を行った乃木坂46運営側は、演出家の言動・指導に「一部行き過ぎた点があったことを確認」したとする内容の声明を出し、演出家の変更を発表した。

ただし、この声明においては、演出家の発言に関して「誤解を招く発言があった」「意図とは異なる認識をしてしまったメンバーがいた」と、いわば"受け取る側"の捉え方にその原因を求めるかのような説明がなされている。演出家と演者という権力勾配があるはずの関係性における、ハラスメントとしての問題性の如何や、その場合の再発防止への視点、またメンバーへのケアといった、状況改善にとって不可欠なビジョンがうかがえるとは言い難い発信だった。

近年、企業の広告やSNS発信における表象、あるいはハラスメント等の問題に関して謝罪や釈明が発される際、丁寧な姿勢を見せてはいても、記述の構図としては受け取り手の感性に問題の所在を帰するような表現がしばしば用いられ、そのたびにそれら文面が実際の問題点に向き合っていないことや、受け手に責任を帰属させる振る舞いであることなどが繰り返し指摘されてきた。乃木坂46運営の声明は、そうした既視感のある事例をいくらか想起させるものでもあった。

生じた問題の骨格を率直に整理して省みることは、実質的な状況改善や再発防止にとっても不可欠だが、またその問題対応の姿勢が明示されることで、オーディエンス側が当該の組織に引き続き信頼を寄せるためのよりどころにもなる。逆に、起きた事態への真摯なとりくみが外側からみえにくかったり、問題の焦点を受け手に押しつける手つきを無頓着に踏襲しているようにみえるならば、メンバーをあずかるその組織体への疑念や不安感は拭い難くなってしまう。

元来、乃木坂46はメンバーの適性に応じた活動スタイルの模索や、受験や学業との兼ね合いを視野に入れた活動・休業の配分など、個々のキャリアに対する尊重がうかがえる組織である。そのような特徴は、グループ卒業後も含めたメンバーの長期的な活躍にも寄与してきたはずだ。だからこそいっそう、明らかになった綻びをこのままやり過ごさない姿勢が提示されることを願う。

それは、さまざまなメディアを横断しながら活躍する演者たちを、オーディエンスが憂いなく享受するためにも大事なことであろう。

最新記事