ローカルメディアに何を求めるのか 米の約5,000人を聞きとり調査

水野 剛也
ローカルメディアに何を求めるのか 米の約5,000人を聞きとり調査

「ローカル」は普遍的なニュース価値

「何がニュースなのか」。

これは、放送を含めメディア全般にとって古典的、かつ今日的な問いで、今後も永遠に向きあっていく課題だろう。学問の世界でも同じで、世界中でさまざまに検討されてきたが、なかでも「ローカル」は古くから指摘される、普遍的なニュース価値のひとつだ。

たとえば、あるアメリカの研究者の論文は、100年以上さかのぼりジャーナリズムの教科書75冊を分析し、「近接性」、つまり「地理的・心理的な距離の近さ」がニュース選択の共通基準であると報告している(「海外メディア最新事情」『民間放送』2020年9月9日号)。

SNSでも同じだ。オランダとオーストリアの学者による研究は、「地理的・文化的に近い」ニュースが「シェアされやすい」ことを統計学的に明らかにしている(「海外メディア最新事情」『民間放送』2019年2月13日)。

 地域メディアに求めるもの 米国の5,000人調査

では、より具体的に、人々は地域のメディアに何を求めているのか。このシンプルだが複雑な問いに真正面から取り組んだのが、今回、紹介する約5,000人を対象とした米国の聞きとり調査である。実施したアメリカン・ジャーナリズム・プロジェクト(American Journalism Project)は、ローカルニュースの発展・維持を目的に設立された団体である。とくにメディアとは関わりの薄い人々に関心を向け、彼らのニーズや問題意識をすくいあげ、地域の報道機関と協議したり、非営利のニュース媒体を支援するなどしている。

調査では、全米から8つの地域を選び、各地で雇用した100人の代表者を通じて、電話、フォーカスグループ(グループインタビュー形式で発言を収集する)、SNSを使って総計で約5,000人の住民に聞き取りをした。分析手法は質的分析法である。

 浮上した9点

得られた回答は多種多様だが、全体を通して以下の9つの点が浮上してきた。

1.人々は、より多くのニュース、とくに「ローカル」なニュースを望んでいる
自分が住むコミュニティで何が起きているのか、知る手段がない。こんな声が多く寄せられた。背景として、メディアの経営統合やコスト削減などが進み、より効率的に広告収入を得るために、報道が広範な受け手向けの一般的な内容に傾いている現状がある。これは、後述する「ニュース砂漠」とよばれる問題につながる。

2.人々は、事実を知るための、広く共有され、信頼できる情報源を望んでいる
誤情報の拡散に対する懸念の高まりから、人々はメディアに、正確な事実にもとづく、社会の分断を助長することのない、判断の助けとなるフェアな報道を求めている。

3.人々は、コミュニティに関する十全な報道を望んでいる
とくにアフリカ系、ラティーノ(中南米系)、移民が多い地域では、犯罪など否定的でセンセーショナルなニュースがくり返され、報道がバランスを欠いているという不満が募っている。治安が重要なテーマであるにしても、住民の生活実態を包括的に伝える姿勢が期待されている。

4.人々は、決定が下される「前」にその内容を知り、またその結果に対し決定者が責任をもつことを望んでいる
地域に関するさまざまな決定について、透明性を確保するメディア活動を欲している。決まった結論をただ伝えるのではなく、修正や意見表明ができる段階からの取材・報道が望まれている。決定「後」のフォローアップを求める声も同じように多い。

5.人々は、ニュースに、そしてメディアの組織に自分たち自身の姿を見いだすことを望んでいる
地域住民のニーズや考え方がニュースに反映され、かつ彼らと同じような人々がメディアで働くことを、とくにマイノリティは望んでいる。人種、民族、性別、性的自認・指向、年齢、収入、学歴などの面での多様性の実現が期待されている。

6.人々は、ジャーナリストが自分たちを代表して質問するよう望んでいる
単に情報を伝えるだけでなく、ジャーナリストが実際に地域に身を置き、住民の問題や要望を理解し、人々の代表として意思決定者に質問を投げかけることを多くが願っている。

7.人々は、自分たちが行動を起こせるような情報を望んでいる
たとえば、子どもを預けるには、災害時に食料など支援を得るにはどこに行くべきか、といった具体的な行動につながるような報道へのニーズが高い。いわゆる「サービスジャーナリズム(一般消費者向けの特集記事など)」「使えるニュース」である。

8.人々は、自分たちがいる場所でニュースを得ることを望んでいる
多くは自分からニュースを知ろうとする努力が足りないことを認めながら、現実としては、もっぱら日常的によく使うプラットフォーム(主にSNS)でローカルニュースに接している。調査は言及していないが、このやや身勝手・怠慢ともいえる消極的な態度は、「ニュースのほうからやってくる」("news-finds-me")とよばれ、近年、関心を集めている研究課題である。

9.人々は、コミュニティをつなぎ、また結集させる役割をメディアに望んでいる
「皆が各自のサイロから抜けだし、お互いに話しあう必要がある」。あるカンザス州の住民の発言が象徴するように、知り合うことのない地域の人々が出会い、交流する場を提供することがメディアに求められている。

「ニュース砂漠」 民主主義弱体化への危機感

若干の私見を述べて、筆を置く。

まず、この調査を実施したアメリカン・ジャーナリズム・プロジェクトの設立の背景には、小規模な地域メディアが減少・消滅し、日常的で身近な出来事に関する報道が欠落する、いわゆる「ニュース砂漠」への危機感がある。上述した「1」からも、この問題が実際に生じていることがわかる。

「ニュース砂漠」が恐ろしいのは、ひいては民主主義自体を弱体化させるからだ。米のある地域紙の廃刊後、選挙の投票率が低下し、現職の立候補者の再選率が高まった、という研究が複数ある。誤・偽情報の拡散、政治的な分断の深まりなどとも相まって、単にメディア企業の経営的失敗では済まされない、深刻な国家的課題なのだ。

問題は日本も同じ なくてはならぬローカルニュース

伝統的なマスメディアが経営的にふるわない日本にも、基本的に同じ問題があると考えるべきだ。九州南部のある地方紙の廃刊後、その地域での国政選挙の投票率が相対的に低くなっていることを実証的に明らかにした研究がある(金子智樹『現代日本の新聞と政治』[東京大学出版会、2023年])。廃刊までいかずとも、支局などを閉鎖・統合する動きは、多くの新聞社ですでに見られる。

放送界はどうだろうか。

ただひとつ確かなのは、ローカルニュースは常に必要とされており、絶対になくなってはならない、ということだ。

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